第57話 向こうからは見えるかもしれないという神秘
「あはははっ、高~いっ」
ブランコに乗る天羽さんを何度も押していると、軽すぎて自分の顔に届きそうなぐらい高く上がった。彼女は無邪気にスリリングスイングを楽しんでいる。
「あ、天羽さん?ちょっと緩めるよ?」
「え?なんで?」
"俺の顔に君のお尻が当たりそうだから"なんて言えない。
「いやっ、高すぎて、危ないんだよ。いろいろと」
ブランコを押す手を緩めると、彼女はガッカリした顔を見せた。
「ええー、もっといきたかったのになぁ~。……でも、楽しいっ」
天羽さんが自分でこぎ始めたので、俺も隣のブランコに座った。ブランコなんて小学生ぶりだ。
彼女は押してあげなくても足を上手く使って結構な高さまであがっている。
「あ、天羽さん、気をつけてね」
彼女が高くあがる度、スカートがなびいて白い肌がチラリと見え隠れする。さっきまで自分でスカートを気にしていたのに、もうそんなこと忘れて無邪気にブランコを楽しんでしまっている。
「大丈夫っ。怪我しても、いざとなったら蒼汰くんいるもん。あははっ」
「肩を貸してあげればいいんだね」
「肩貸してくれても、身長差で届かないかも」
「じゃあ両脇から持ち上げてあげる」
「そ、そこはおんぶがいいなっ、お姫様抱っこでもいいよ?」
「なるほど、天羽さんはそっち派か」
「いや、そこは大体の女の子がそうだと思うけど」
「勉強になります」
彼女は何度か足を地面につっかえさせてブランコの動きを止めた。
「そうだよ。デートの練習なんだから、いろいろ学ばなくちゃ」
そう言ってこちらに微笑んだ後、自分の足元を見ながら小さく揺れ始めた。
彼女は今日、何度か"練習だ"と言うことがあった。あくまでもデートの練習であって、本当のデートではない。そう強調しているのだろう。
俺としてはどっちでも良かったのだが、そう何度も言われると若干の寂しさも感じてしまう。
「天羽さんもさ、少しは練習になってる?デートの」
「え?私?」
「うん。だって今日初めてって言ってたし。天羽さんの練習にもなってるかなって」
「そうだね、私もためになったよ。……でも、今日満足できるだろうと思ってたのに、なんだかちょっと物足りないなって思っちゃってる……」
やっぱり俺では楽しませてあげられなかったんだ。
まぁ、自分は口数が多くないし、ユーモアのある性格でもない。紳士的な振る舞いもできていなけりゃ、今日のプランだって全て天羽さんに任せてしまっている。物足りないと思われたって仕方がない。
「ごめん。俺がもっと愉快な人だったらよかったんだけど」
「いや、ち、ちがうのっ。……すっごく楽しいから、また遊びたいとか思っちゃって。ただの練習なのに。私、欲張りだよね」
「えっ」
予想外に嬉しいことを言われてしまい、咄嗟に返す言葉が浮かばない。
天羽さんも余計なことを言ってしまったと思ったのか、足元を見つめたままブランコを揺らしている。
そして思い付いたかのようにこう提案してきた。
「だ、だからさっ、夏休みになったらまた遊ぼうよっ。……次は、みんなで!」
「そうだね、それもいいかも。でも天羽さん、今日は遊びじゃないんだよ?今日はガチ勉強デートなんだから」
「あははっ。そうだったそうだった」
2人並んで、控えめにブランコを揺らす。
テストが終わったら、もうすぐ夏休みだ。相談部の部活は夏休みに忙しいことなんてないだろうし、今年はできるだけ予定を入れよう。せっかく高校で友達ができたんだし、みんなと色んな事をしてみたい。
予定がない日は、自分の才能探しをするのもいいな。行ったことない所に出掛けたり、弾丸で一人旅なんてのも悪くない。
そのためには、たんまり出るであろう宿題は早めに終わらせないと。天羽さん、次はデートとは言わないけど、宿題とかも付き合ってくれるかな……。
少し先の事を考えて黙っていると、天羽さんが口を開いた。
「そういえばさ、さっきの神社は恋愛成就の神様らしいよ」
恋愛成就……。そうだったのか。全然お門違いなお願いをしてしまった。
「そうだったの?もしかして俺、テルマ君と結ばれちゃう?」
「えぇ?その展開は……ボディーガードとしては助かるかも?」
冗談やめてほしい。
例え俺が女の子だったとしても、テルマ君は願い下げだ。
俺がもの言いたげな視線を送ると、彼女は「じょ、冗談だよ」と笑って流した。
「じゃあ天羽さんは恋愛のお願いしたの?」
「わ、私?それはどうかな?」
「あ、結局言ってくれないんだ」
「うん、秘密」
彼女は可愛らしく微笑んだ。
「蒼汰くんも恋のお願いしてくればよかったのに」
「確かにね、それもアリだったかも」
「え?……もしかして好きな人、できた?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて」
「えぇー?、ほんとかなぁ?」
ニヤニヤしながら、こちらを覗き込むように見つめてきた。
いつも天使のように優しい天羽さんが小悪魔のように笑っている。これはこれで良いな。やましいことなんてないのに、ドキドキしてしまう。
「誠一郎の恋が上手くいくようにって、そうお願いしたかったんだよ」
「なんだ、そっちか~」
「ほんと、上手くいくといいんだけど」
「そうだね……」
天羽さんはブランコの鎖を両手で握りながら、遠くの方を眺めている。
何か考え込んでるような顔をしていたので、自分が言ってはいけない事を言ってしまったのだろうか。少し不安がよぎる。
「あの、言いにくかったら言わなくていいんだけどさ。……もしかして、天羽さんの気になる人って、誠一郎?」
彼女は遠くに向いていた視線をこちらに移し、いつもの可愛らしい顔で平然と答えた。
「え?ちがうよ?」
「ほんとに?」
「ほんとだよ?」
顔を見るからに、たぶん嘘はついていないのだろう。
もし天羽さんが誠一郎の事を気になっているなら三角関係ができあがると心配だったが、違うのならとりあえず安心だ。
「そっか。それならよかったよ」
「なんで?」
「誠一郎は委員長と上手くいってほしいって思ってたから。俺、応援してるんだよ」
「そっか。……そうだよね。……せっかく友達になれて、みんな仲良くやれてるのに、そういうのでギクシャクしちゃうの、いやだよね」
「うん」
天羽さんも同じ考えなんだ。
仲間内で恋愛、それ自体は何も悪いことではない。全力で応援したいし、祝福したい。ただ、3人以上絡んでくるとなると話は違ってくる。
「……でも、応援するよ。天羽さんの事も。たとえ誰かと矢印が被ってたとしても、俺は天羽さんの事、応援してるから」
「……うん。ありがと」
「……えぇと、そのまま受け止めてくれるってことは、やっぱり、気になる人いるんだ?」
「え、あ、ちち、ちがうよっ」
不意打ちをくらって、彼女はあからさまに取り乱した。
「隠さなくてもいいよ。そういう御神託が、ね」
「も、もうっ、せっかくいい事言ってくれたと思ったのに!」
彼女はプクッと膨れている。
さっきの言葉が本音なのは変わらないんだけどな。
「ご、ごめんって。押すから、ブランコ、押してあげるから、許して」
「さっきより強くね!」
「わかったわかった、1周目指そう」
立ち上がって後ろからブランコを押してあげると、冗談めかしく膨れていた彼女はすぐに笑顔になって、「もっともっと!」「高い高い!」と幼い少女のようによろブランコに乗っていた。




