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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第55話 私服を見たら褒めろというのは、母の教え

 約束の土曜日。

 13時に近くの公園に集合。天羽さんと事前にスマホのメッセージでやりとりしてそう決まっていたので、俺はしっかり5分前に到着した。

 ……しかし。そこにはもう、そわそわと前髪を触りながら人を待つ天羽さんがいた。


「あっ、そ、蒼汰くん」


「ごめん待たせた?」


「ううん、私も今来たばっかりだよ」


 本来は逆の立場で俺が言うべき台詞だ。スマートにサラッと言われてしまった。


 公園の木陰で待っていた天羽さんは、半袖のブラウスに薄手のスカート。夏に相応しい涼しげな格好で、持ち味の可愛らしさと清らかな雰囲気を感じさせる、ザ・清楚系な見た目。決して背伸びしているわけではなく、自分に合ったコーディネートで、彼女の良さを最大限に引き出している。

 

「私服、よく似合ってるね。こんな可愛い子と待ち合わせしてるなんて、全俺が泣いたよ」


「も、もう、なに言ってるの?……でも、嬉しい。ありがと」


 普段見ることのないクラスメイトの私服姿。

 よく考えると、休みの日に女の子とプライベートで会うのは初めてだった。デートじゃないのは残念でならないが。


「……じゃあ早速行こっか。天羽さん、いい勉強場所見つかったって言ってたけど、結局どこなの?」


「それはねぇ、カフェですっ。穴場のっ」


 実に女の子らしいチョイス。

 俺は図書館ぐらいしか考えつかなかったので、天羽さんに拍手だ。


「おお~」


「あはは。拍手するほどのアイデアじゃないよ。ここから少しだけバスで移動しないといけないから、バス停まで歩いてもいい?」


「いいよ。どこまでもついていきます」


 2人でバス停に行くと、比較的すぐにバスが来た。天羽さんはチラチラ時計を見ていたので、おそらく計算して集合時間を決めてくれていたのだろう。さすがだ。


 休日の田舎の路線バス。案の定というか、乗客は少ない。

 俺たちは後ろの方の2人掛けの席を選んだ。

 

 あまり使う機会がないバスという乗り物。

 大きな窓にゆっくりと走る車体は、見慣れた田舎の景色を写し出しているだけなのに、その箱の中から見ているとまるで違う世界からやってきたかのようで。いつもの景色もちょっとだけ新鮮に感じられた。

 ガタガタ揺れる振動と、穏やかな空間に聞こえるエンジンの音。故郷にいるような安心感と、冒険に出るようなワクワク感が同時に涌き出てきて、何もおかしな事はないのに口元が緩んだ。

 

 隣では、天羽さんが両手を膝の上に置いてちょこんと座っている。

 社内が静かだったので、俺は小さな声で話しかけた。


「こういう時ってさ、何話せばいいんだろうね」


「ふふっ。蒼汰くん、正直だね」


「学校以外でクラスの女子と会うの、不思議な気分でさ」


「私も、初めてだから……」


「え?」


「男の子と出掛けるの……。だから、ちょっと緊張してる」


 天羽さんに緊張してもらえるなんて、本当に役得でしかないな。テルマくんに感謝だ。


「で、でもさっ。蒼汰くん、今日は練習だと思ってよ」


「なんの?」


「デートの」


 ……デート。今、デートって言いましたよね?


「……そうかこれは、勉強デートなんだ」


「言い直されると恥ずかしいけど……そ、そう思ってくれていいよ」 


「でも練習って?」


「聞いたんだ、明澄から。今度一緒に水族館行くんでしょ?」 

 

「……ああ。一応、テスト終わった後ってことで約束してる」


「そうだよね。……だ、だから、今日はその練習だと思ってよ。勉強するだけだし、何も楽しませてあげられないけど」 


「いや、こうやって一緒に出掛けられるだけで感動だよ。ありがとう」


「ううん。私も、ありがと」


 なぜありがとなのか分からないが、天羽さんは練習に付き合ってくれているだけらしい。

 ……というかそもそも、俺と宇月さんはデートの約束をしていたのか? まぁ言われてみれば、水族館ってデートっぽい。何気に2人で行く方向になっていたが、今考えると少し恥ずかしい話だ。


  

 乗車してから数分走っただろうか。運転手が初めて聞くバス停の名前をアナウンスしたところで、天羽さんは近くにあった降車ボタンを押した。


「次のバス停で降りるね」


「うん」


 到着したら、お金を支払って俺たち2人だけがバスから降りた。

 降りた先は隣町の知らない道の上。マップを見ようとスマホを取り出したが、天羽さんが進行方向を指差しているので居場所を確認する必要はなかった。

 彼女の案内に従いながら、隣に並んで歩く。

    

「天羽さん、今日のカフェにはよく行くの?」


「ううん、私も行ったことないんだ。でも友達に聞いたし、いいお店である事は間違いないよ」


「おお、それは楽しみだね」


 彼女は決して先行する事はないが、ちょうどいいペースで隣を歩き、知らない道も迷うことなく進んでいく。


 

 移動中、天羽さんは単語帳を見ながら英語の和訳問題を出してきた。俺たち2人の間で最近恒例になってきている。


「"competition"は?」


「競争」


「おっ、正解。じゃあ~、"agree"は?」


「同意する、だね」


「あたり~。……ってやってる間に、もう着いちゃったね。ここだよ」


 天羽さんが指差したのは、新しく綺麗な白い建物。

 ここが例のカフェか。


「お洒落だね」


「デートっぽいでしょ?きっと練習にもちょうどいいよ」

  

「そ、そうだね。じゃあ入ろっか」


 店内に入り目に入ったのは、広めの空間に落ち着いた色合いの家具たち。お客さんの数はまあまあで、若い女性が1人でコーヒーを飲んだりしている。

 大きいカウンターで注文してから席に着くスタイルだったので、愛想の良い店員さんに注文を伝える。天羽さんはショートケーキとカフェオレのセット、俺はチーズケーキとカフェオレのセットだ。


 店員さんに2階にもお席がありますよと言われたので、2人で2階に上がり、カウンター席に横並びで座った。


「なんか落ち着くね」


「うん。静かだし、2階からの景色はいいし、勉強にはもってこいだよ。さすが天羽さんのチョイス」

  

「えへへ。気に入ってくれたみたいでよかった」


 2階にいるのは自分と天羽さんだけ。誰の邪魔にもなっていないあたり、本当に気兼ねなく勉強できる最高の環境だ。


 少し2人で話していると、店員さんがスイーツセットを運んできてくれた。


「勉強デートですか?いいですねっ」


 店員さんは机の上に置いていた教材を見て、少し離れた位置にケーキを置く。

 

「えっ、あ、ありがとうごさいますっ」


「学生さんのカップルはちょっと珍しいから、嬉しいです」


「そ、そうなんですね」


 天羽さんは少しうろたえたように見えたが、愛想よく返事をした。

 

「うふふ。彼女さん、とっても可愛いのでおまけです」


 そう言って微笑んだ店員さんは、自分のエプロンの前ポケットからクッキーの袋を取り出し、商品と一緒に机の上に置いてくれた。


「あ、ありがとうございますっ」


「頑張ってくださいね」



 店員さんが行った後、天羽さんを見ると申し訳なさそうに笑った。


「もらっちゃった。彼女じゃないのに、なんか悪いことしちゃったかな」


「そんなことないよ。それは天羽さんが可愛いからくれたんだし」 


「え、えぇ?……蒼汰くん、あんまり誰にでもそういうこと言っちゃダメだよ」

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