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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第49話 メモがあっても本番は結局テンパるもの

「これ、ちゃんと書いてきたんだよ!見てみて!」


 放課後の部活の時間。宇月さんが自分のノートを俺に手渡してきた。

 中を開いてみると、どうやらお昼の放送に向けた準備資料のようだ。


「おぉ~、夜は熊田先輩の事だけ考えてたんじゃなかったんだね。早速見てみるよ」


「あ、当たり前だよ~!てか、熊山先輩だってば」 



 ノートを見ると、綺麗な字で結構な分量が書かれていた。


「えーと、『自分の名前 宇月明澄(うづきあすみ)』……うんうん」


 名前までメモする必要ある?

 まぁいいか。次を見てみる。

 

「『好きな食べ物はそば。特に感動したのがわんこそば。どんどんきてくれると、たまらなく嬉しいです。つい食べ過ぎてしまいます。』……やっぱりそば好きなんだ?」

 

「うん、おそば大好き」

 

「『苦手な食べ物はそらまめ。でも、好き嫌いしないようにって、死んだおじいちゃんとの約束だから。頑張って食べます。』……へー、そうだったんだ」

 

「うん、そうなの。ちょっとクセがあるのが苦手で」

 

「『休日の過ごし方は、お菓子作り。愛情が最高のスパイスです。』……お、女の子だね」

 

「でしょでしょ?ポイント高いよね?」

 

「『将来ほしい子供の人数は2人。男の子と女の子が理想です。』……へ、へぇ、そうなんだ」

 

「え、へへ。か、書いちゃったけど、ちょっと、恥ずかしいかもっ」

  

「……って、宇月さん。これ自分の事ばっかりじゃん。お昼の放送で結婚式の新婦紹介欄みたいな情報いらないでしょ」


 相談部の紹介をしてほしいのに、宇月さんの情報しかない。

 子供が2人ほしいとか、誰が知りたいんだ…………って、ま、まぁ?知りたい人もいるかもしれないけど?い、今ではない。 

  

「たしかに、言われてみれば……」


「とりあえず相談部の紹介を入れよう。俺も考えるから」


「わ、わかりましたっ!」


 そうして俺と宇月さんは少し内容を書き加えた。

 生徒相談部が活動を開始した事、相談があったら来てほしいという事……ざっくりそれだけ伝えられれば、今回は十分だ。


「松村くんはゴーストライターとしての才能があるかもしれないね」

 

「やだなそれ」


 一緒に考えた内容を書き終え、宇月さんはノートを閉じた。

 書き終えたものの、彼女の表情は固い。少し冷や汗をかいているようだ。

 

「……な、なんか私、もう緊張してきたかも……」


「放送まだ明日なんだけど?」


「だ、だ、だって。さっき書いたメモ、アドリブでって済ませちゃったとこあったじゃん……?」

 

「あぁ、クイズの受け答えのところ?……そりゃあクイズに台本あったらダメでしょ。八百長クイズじゃん」


「す、筋書きがあってもいいと思うの。……ほら、プロレスみたいにさ?……そう、プロレスだよ、そうしよう。プ、プロレスクイズにしよう」 


「……なに言ってるの」

 


 

 宇月さんの心の準備が整わないまま、無情にも時間は流れていき……。


 気付けばもう、当日の昼休み。 

 ガチガチになって放送室へ向かう宇月さんを廊下で見送る。その後ろ姿には、もう"女子アナ"や"MC"という言葉に興奮していた彼女の面影はない。

 まぁ、ちゃんと手にはノートを持っていたし。それ見て頑張ってくれ、宇月さん。

 

 俺は心の中でエールを送った後、放送中のクラスメイトの様子を確認する必要があったので、そのまま教室に残った。

 そして、今日も誠一郎と一緒に弁当を広げる。 


「宇月が出るの、今日なんだよな?」


「そうだよ。ほんとは1人で行かせるのも心配なんだけど」


「ハハ。受け答えのメモ持っていったんだろ?さすがに大丈夫じゃないか?」


「だといいんだけど……」

 


 弁当を食べ始めると、教室のスピーカーから音楽が流れ始めた。

 ラジオのテーマ曲的なやつだ。いつも流れていたから聞き覚えがある。

 


『さぁ、始まりました生高(なまこう)ラジオ。夏が近づき、今日は随分と蒸し暑いですね~。そんな暑さを吹き飛ばしていただきたく、今日は趣向を変えてですね、なんと、ゲストの方をお呼びしましたっ』


 広島先輩の声だ。さすが放送部3年なだけあって、喋りはお手のものな様子。


『おぉっ、今日は大注目ですねっ』


 反応しているのは仙台君。しっかりと先輩をサポートしている。


『では、ゲストの方、よろしくお願いしますっ』


『……よよよ、よろしくお願いしますっ』


 宇月さんの声だ。緊張してマイクとの距離感がおかしいのか、声のボリュームがでかい。


『では、まずはお名前を伺いましょうかっ』


『えええと、そ、そらまめです。あ、え、ま、間違えました。1年B組の宇月です』

 

『あはは。宇月さんは最近、生徒相談部という新しい部活を立ち上げたそうです。部ではどんな活動をしているのでしょうか?』


『あ、えと……お、お菓子作ったりとかしてますっ』

 

 ……あれ。宇月さん、読んでるとこが違うな……。

 俺と誠一郎は黙って放送に耳を傾ける。

 

『ど、どんなものを作ってるんですか……?』


『そ、そばです!』


『あはは~。面白い紹介ですね。私が持っている情報によると、先生には言いづらいような相談を、生徒相談部ではなんでも聞いてくれるようですね』


『はは、はいっ、愛情が最高のスパイスです!』

 

『……ひとつひとつ真摯に向き合ってくれるということですねっ!』

  

 ……めちゃくちゃフォローされている。

 

『新設したばかりですが、今部には何人いるんでしょうか?』


『ふ、2人です!お、男の子と、女の子です!』

 

『なるほど、それは話しやすい環境とも言えますね!』


『ちなみにどうして部をたちあげようと?』

  

『し、死んだおじいちゃんとの約束で』


『そうだったんですか。じゃあ、亡くなったおじいちゃんのためにも、活動を頑張りたいですね』


 すみませんそれ、そらまめの話です……。

 

『相談部に行ってみたいと思っている方に、何か一言ありますか?』


『ど、どんどんきてくれると、たまらなく嬉しいですっ』


 すみません……それはわんこそばの話です。

 

『ありがとうございます!……このように生徒相談部では、生徒のみなさんの相談をいつでも受けてくれるそうです。3階の元空き教室が部室になっているので、気軽に足を運んでみてはいかがでしょうか!』



 箸を止めていた誠一郎が口を開く。

 

「蒼汰、お前が心配そうにしていた理由が分かったわ」


「……でしょ。さすがにここまでアガッてるとは思ってなかったけど」


「でもまあ、ある意味成功はしてんじゃないか?」


 誠一郎が教室の全体を見渡す。いつもはお喋りに夢中なクラスメイトたちも、今日は笑いながら放送を聴いていた。

 

 

『ではここで、持ち込み企画、クイズのお時間ですっ。出題者は私、そして宇月さんと放送部1年の仙台君に回答いただき、早押しで勝負、という形になります。……お二人とも、意気込みはいかがですか?』

 

『腕がなりますね』


『わ、私も!挽回しますっ!』 


 宇月さん、失敗している自覚があるのはいいんだけど、空回りしないかな……。

 

『一問目。最近、モテる男は4低と言われています。低燃費、低依存、低リスク……あとひとつはなに?』


『低……低気圧!』


『ブブーッ』


 宇月さんが間違った回答をすると、よく聴く電子音が鳴った。

 

『低カロリー!ブブーッ……低糖質!ブブーッ……低脂質!ブブーッ……』

  

 なんだそれは。今時はダイエット男子なのか?


『笑福亭鶴瓶!ブブーッ……春風亭昇太!ブブーッ……月亭方正!ブブーッ……』


 おじさんなのか?俺が知らないだけで、流行りはおじさんなのか?

 てか宇月さん、連答しすぎでしょ。


『TT兄弟!ブブーッ……手越祐也!ブブーッ……ゆってぃ!ブブーッ……ジャスティン・ビーバー!ブブーッ……スコティッシュフォールド!!ブブーッ……』

  

 不正解の音が鳴り続ける中、ここへきて1年の仙台くんが答える。


『低姿勢!……ピンポンピンポーン!』


 よくやってくれた。もう俺はブブーの音で耳が支配されかけていたよ。


 

 ……今更だ。本当に今更なのだが、宇月さんに行かせて正解だったのだろうか……。


 

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