第48話 朝早い人が真面目だとは限らない
「では宇月氏が最初のゲストということで決まりですねっ!」
仙台君が嬉しそうに広島先輩の顔を見る。
先輩は申し訳なさそうに自分の頭の後ろを撫で、宇月さんにお礼を言った。
「巻き込んでごめん、でもありがとう」
「えへへ、任せてください」
宇月さんは笑って返事をした。
「あぁ、あと、他の提案の中にクイズをやるってあったと思うんだけど、それも今回取り入れていいかな?」
「はい、もちろんです。先輩が出題して、仙台君と宇月さんで対決とかしてもらったらどうですか?」
「それいいね。聴いてる人も参加したくなるだろうし、その案も採用させてもらうよ」
こうして放送部の2人との打ち合わせは順調に進み、その日のうちに大体の計画は共有できた。
宇月さんが参加する放送は来週。
参加を免れた俺は、クラスの皆が放送を聴いているか確認する役目を請け負うことになっている。
それまでに宇月さんの受け答えの原稿ぐらい作っておけると安心かもしれない。
原稿はとりあえず宇月さんの宿題になったため、俺が次の部活までにやることはない。しかしなんとなく心配になっており、家に帰ってからもその事を考えていた。
妹の凛がお風呂からあがった後。
例のごとく彼女の髪にドライヤーを当てていると、凛が俺の膝を揺さぶってきた。
「お兄?手が止まってるよ?」
「え?あぁ、ごめん」
「考え事?」
「まぁそんなとこ」
一旦ドライヤーを止めると、凛は俺の両膝を肘掛けのようにして寛いだ。
そして俺の顔を下から見るように首を上げた。
「たしかお兄、生徒相談部?みたいな部活作ったんだよね?もしかしてその部活の事~?」
「そう。今度昼のラジオ放送に出演することになってね。まぁ相方が、だけど」
「それは面白そうだね~。相方って、よく一緒にいる女の人?」
よく一緒にいるなんて言ったことあったっけ……?
ま、まぁ、間違いではないのか。
「た、たぶんその人で合ってる」
「そっか、じゃあその人の事が心配なんだ~」
「まぁ。……勉強はできるらしいんだけど。凛の事も彼女と勘違いしてたぐらいだし、ちょっと抜けてるっていうか……」
「私が彼女?ふふ、それはお兄にはもったいないね~」
凛は大して気にしてないようで、いつも通りまったりした顔で答えた。
俺はその頬を軽くつまむ。
「ほんと、ちょっと大変だったんだからな?」
「ふぁいふぁい、うほうほ」
「ったく」
「……それで、お昼の放送って何するの?」
「相談部の紹介とか、クイズやる予定。それで当日までに原稿も作らないといけないんだよ」
「そっか~。面白そうだし私も考えたいな」
「いや、ベースは本人が考えるし……って、凛。もうすぐ県大会じゃないのか?そんなことしてるなら身体を休めた方がいいって」
凛は3年生最後の大会の真っ最中だ。少し前に地区大会を突破して、次は県大会。負けたら終わりの最後の試合が近い今、余計な時間を使わせたくはない。
「えぇ~、お母さんみたいなこと言わないでよぉ」
「みんな凛が頑張ってきてるの知ってるから。悔いが残らないように戦ってきて欲しいんだよ」
「へへ。……まぁそこまで言われちゃ、休むしかないね」
凛はそのまま俺の左膝に寄りかかった。
静かになった彼女の後ろ髪を軽く解かし、止めていたドライヤーを再度オンにする。
「頑張ってな」
凛の後ろ姿を見ていたら自然とその言葉が口からこぼれた。
ドライヤーの音で聞こえなかったのか、眠くなってしまったのか、彼女は膝にもたれかかったまま、返事をすることはなかったが。
次の日の朝。
学校に行くと、今日も宇月さんは俺より早く登校して自席に座っていた。
「あ、松村くんおはよ~」
「おはよ」
俺たちの席は離れてしまっているが、朝誰もいない間はこうして度々声を掛け合っている。
「ねぇ、松村くん。勝負、しない??」
「おはようの次がその台詞って……」
「いいじゃんお願いっ」
手を合わせてヘコヘコする彼女。
よく見るとその手元には数学の問題集とシャーペンが置いてあった。
「……絶対宿題見せてほしいんでしょ」
「えっへへ~。昨日はいろいろ考えてたら、いつの間にか遅い時間になっちゃって」
昨日、宇月さんはお昼の放送の原稿を考えないといけなかったはず。
放送部の役に立つためにも、遅くまで頑張ってくれたんだな。それは本当に感謝しかない。
「そんなこと言われたら断りづらいじゃん……。いいよ、今日はなんの勝負?」
やった!……と口では言わないが、彼女は小さくガッツポーズをした。そしてこう続ける。
「熊キャプテンの名前当てゲームでどう?」
……なんだそれ。少しも理解できない。
「い、いいよ。ルールは?」
「バスケ部の練習見に行った時さ、熊みたいにおっきい男の先輩いたでしょ?」
「あぁ、覚えてるよ」
「この前ね、ペン見くんがあの人の事、"熊キャプテン"って言ってたんだよ。だから、たぶんあの先輩は見た目だけじゃなくて名前も熊なんだよ」
そうだったのか。それはなんと言う偶然だ。
さすがに1年生の誠一郎が"熊みたいだから"という理由でそんな呼び方するとは思えないし。この話も本当なんだろう。
「……じゃあその先輩の本当の名前を当てるってこと?」
「そう!私それが気になっててね。昨日の夜なかなか眠れなかったんだ~」
……俺の感謝の気持ちを返してほしい。
「……そ、そう。どっちも当たらなかったらどうするの?」
「それはペン見くんの判定で、より本物に近い方が勝ちってことで!」
……これ、判定勝負できるの?
まぁいいか。もう俺も立派な勝負師。ここは判定勝ちなんか望んじゃいない。一発KOあるのみだ。
「わかったよ。受けて立とう」
「よしきたっ。んーとね、私はね~……」
「じゃあおれ熊田先輩で」
「あぁ~っ、ちょっと!私の熊田先輩!とらないでっ!」
「ははは。早いもん勝ちだよ。もう俺の熊田先輩だから」
「くぬぅぅ。私の熊田先輩がぁ……」
悔しそうな顔で睨まれる。
にしても宇月さん……夜眠れずに考えたのが熊田先輩なんだ。
「じゃあ仕方ないから……私は熊野先輩で我慢する」
するとここで、狙ったかのように誠一郎が登校してきた。
「2人とも、なんの話だ?私の熊田先輩……?三角関係なのか……?」
「あっ、ペン見くん、ちょうどいいところに!」
「な、な、なんだ?」
イマイチ状況が理解できていない誠一郎は、持っていた鞄で自分の前側をガードした。
「俺を巻き込まないでくれ」
「なにが?……今ね、熊キャプテンの名前当て勝負してたんだよ」
「バスケ部の熊キャプテンのことか?」
「そうそう!本名はなんだろうと思ってさ」
「なんだよその勝負」
誠一郎は安心したようで、持っていた鞄を机の上におろした。
「勝った方が、宿題写させてもらえるの!」
「宇月さん、よく考えたら俺にメリットなくない?」
「まあまあ松村くん、細かいことは気にしないで? ちなみに私は熊野先輩で、松村くんは熊田先輩って予想してるのっ。……ペン見くん、どうかな??」
「残念。熊山先輩でした」
あっさり不正解を言い渡され、ワクワク顔が一瞬で崩れる宇月さん。しかし彼女はまだ諦めていないようだった。
「なっっ……。で、でも、私の方が惜しいよね??」
「え、どういう基準で惜しいんだ?」
「熊野と熊山だよ?野と山だよ?……仲間じゃん!」
「ん?……あぁ、たしかに、言われてみればそう遠くもないか……」
「やった勝った!!」
……え、俺はまた負けたのか。
田と山は仲間じゃなかったのか。
「じゃ、松村くん、宿題、頼むよ!」
こっちに向かって嬉しそうに親指を立てる宇月さん。
そして誠一郎もなぜか嬉しそうにこっちを見ている。
「……蒼汰、ついでに俺も写させてくれ!」
2人並んで、爽やかに親指を立ててくるのだった。




