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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第45話 18畳、エアコン付き

 放課後、俺と宇月さんは職員室に向かっていた。


「さっきの数学の宿題の提出、危なかったね」


「ほんと、ギリギリだった」


「松村くんがやってきてたらこんな事にはならなかったんだよ?……信じてたんだけどなぁ」


「いやいや、俺も宇月さんがやってきてるって信じてたんだけど……って、このくだり、今朝もやったよ」


「そうだっけ?」



 俺たちが職員室に向かっているのは、佐藤先生に部活の事を伝えにいくため。

 提案された生徒相談部をついに立ち上げようとしているのだ。


 

「失礼します」


 いつもの事ながら後ろに隠れる宇月さんを連れ、職員室に入る。


 佐藤先生はこちらに気付くと、なにかを察したのか少しだけ微笑んだ。


「お、2人で来たってことは部活の件か?」


「はい。生徒相談部、やろう思います」


「よく言ってくれた、助かるよ」


 そう言って先生は自分のすぐ横の引き出しを空け、一枚の用紙を取り出した。きっといつでも出せるよう、近くにしまってあったのだろう。


「……それじゃあ早速なんだが、これにサインしてほしい。入部届だ」


「わかりました」


 俺と宇月さんは一度顔を合わせて頷き、順番に入部届へサインした。

 随分時間がかかってしまったが、これで部のスタートだ。


 サインが終わると、先生はフッと悪い顔でニヤけた。


「お前ら喜べ。なんと、部室ももらえるぞ」


 "部室"という言葉に反応した宇月さんは、口を開けて子供のような顔で喜んでいる。


「ぶ、部室ですかぁ!」


「そうだ。3階に空き部屋があるからな、そこを使ってくれていい」


「やったね!」


 大喜びしている宇月さんを見ると、一瞬保護者になった気分だ。内心、自分もかなり嬉しかったのだが、ここは控えめに喜んだ。

 

「後は今後の動きだが……私が顧問になったとはいえ、基本的に活動は2人に任せる。生徒からの相談ってそう多くはないだろうが、しっかりやるんだぞ」


「はい、わかりました」


「頑張りますっ」


 こうして生徒相談部は難なく立ち上がるのだった。



  

「ねぇねぇ松村くんっ、この部室、あとなに置こっか?」

  

 俺たちは職員室から直で部室に向かった。

 部室だと指定された場所は半分ぐらい片付いている状況で、"ザ・空き部屋"という感じのとても質素な部屋。

 中には使われていなさそうな椅子がいくつか置いてあったので、とりあえず2人で座っている。

 

 この何もない部屋でも、宇月さんはワクワクを隠しきれていない様子だ。


「少し大きめな机とか?」


「なに当たり前の事言ってるの?そういうことじゃないんだよ~」


「え?じゃあ例えば?」


「やっぱりまずは冷蔵庫でしょ! 後はそうだなぁ……おっきいテレビに、あったら便利な電子レンジ……とか!」


 どれも決して必要とは言えないものばかり。

 宇月さんは一体ここで何をするつもりなんだ……。


「お2人は、同棲するんですか?」


 突然声が聞こえたと思ったら、入り口に委員長が立っていた。

 

「あっ、コハちゃんっ」


 いつからかコハちゃん呼びになったんだな。

 そう言えば委員長の名前、鈴小春(すず こはる)さんだったっけ。


「す、すみません、お邪魔してしまって」


「いやいや、全然邪魔なんかじゃないよ。どうぞ、委員長も入りなよ」


「はい、では失礼します」


 宇月さんがささっと椅子を用意し、もてなすように委員長を座らせる。

 

「へへっ、いいでしょ?」


「そうですねっ。同棲とか、私にはまだ早いですが、少し憧れます」


「……ちょちょ、ちょっと待って!同棲の話じゃないからっ!部室の話だからっ!」


「あ、そうだったんですか」


 意外と天然な委員長のボケが炸裂している。


「そ、そういえば委員長はどうしてここに?遊びに来てくれたの?」


「そうでしたっ。お2人にお話があったんです。……実はさっき佐藤先生から、生徒相談部という部を立ち上げたという話を聞いて。早速相談したいことがあったので、部室に来てみたんです」


「おおっ、ということは……記念すべき一人目の依頼人だねっ!」


 宇月さんは椅子しか置いていない質素な部屋で、元気よく両手をひろげた。

 ついさっき部を立ち上げて、まだ数分しか経っていないが。佐藤先生にとってはもう活動開始しているということなのだろう。


「こんな部屋で申し訳ないけど、俺たちでよければ聞かせてよ」


「はいっ」


 委員長は可愛らしく微笑んだ。



「私の相談は、放送部についてです。……実は私は、生徒会のお手伝いをしているのですが……この前の定例会で、ある部活から、活動を縮小したいという話があがったんです」


「それが放送部?」


「そうです。放送部は現在1年生1名と3年生1名のお2人で活動しています。主な活動はお昼休みで、ご存じだと思いますが、毎日全校に向けて生放送ラジオを流しています。私はお話する友達がいなかったので、毎日そのラジオを楽しみにしていました」


 あれ、なんか委員長の悲しい過去まで盛り込まれてるな……。


「で、も、問題というのは?」


「はい。部員のお2人は毎日放課後に原稿読みの練習をしていたようですし、お昼休みはすぐにお弁当を食べ終え、気合いを入れて生放送に挑んでいました。毎日、とても意欲的に活動していたんです。ですが……」


 委員長は険しい顔で話を続けた。


「昼休みの放送を聴いている人があまりに少ない、という事実に気が付いてしまったんです」


「そ、それは、言われてみればそうかも……」


 宇月さんが納得した様子で頷く。

 

 たしかにお昼休みの放送は、BGM的に流れているだけな気がする。クラスの皆もお喋りに夢中になっていてほとんどの人が聴いていない。

 毎日流れているのに、俺もどんな人が何を話しているか、よく知らなかった。

  

「つい先日、皆がどう聴いてくれているか気になったらしく、1年生の部員の方が生放送中に教室を巡回していったそうです」


「そ、それは……」


「はい。それで、全然聴かれていないという事実を知ってしまって……」


「なんか申し訳なくなってきた……」


「いえ、聴くのも聴かないのも皆さんの自由だと思いますので。……ですが部員のお2人はやはりショックだったようで。それでお昼の放送はやめにしたいと、直々に生徒会まで相談しにきた、というのが今回のお話なんです」


 話を聞いた宇月さんは難しそうに眉をひそめ、腕を組んだ。

 

「なるほどねぇ~。それは、私たちも力になりたいね」


「うん。でも本人たちはもうやる気がないって感じなの?」


「それが……やる気がないというより、自信をなくしてしまっている感じなんです。自分達の実力では、頑張っても誰も聴いてくれないって、思い込んでしまってるみたいで」


「そっか……。じゃあ、俺たちがどうにか自信を取り戻させてあげればいいってわけだね」


「はい、そうなんです。私もあのラジオは気に入っていたので。……お願い、できますか?」


「もちろんっ」


 宇月さんは元気よく返事をした。


「じゃあ早速作戦会議する?」


「しようしよう!今日はコハちゃんも参加ね!」


「え、えと……じゃあ私も一緒に考えますっ」



  

 こうして委員長まで巻き込むことになり、俺たちは自分たちの椅子を三角形にして向かい合った。

 机も用意されていなかったので、宇月さんは自分の膝の上にメモを用意し、嬉しそうに手に持ったペンの頭をカチカチしている。


「じゃあ始めよっか」


「始めよう!」


「えー、じゃあまず委員長に聞きたいんだけど。お昼の放送ってどんなことしてるの?」

 

 背筋を伸ばして椅子に座っている委員長が、視線を上に向けて思い出すように話し始める。

 

「まずは放送部のお2人によるトークタイム……でしょうか。今日は何の日だっていうのを紹介したり、学校の皆さんからのお便りを読んだりしています。その時に、今後の行事や連絡事項、お知らせなども連絡していますね。そしてトークを終えた後は、生徒のどなたかがリクエストした曲を流して終わり……というのが基本の流れになっています」


 なるほど知らなかった。自分が全然聴いてなかった事がよく分かる。

 でも、そのシンプルな構成で問題があるとしたら、そう……。


「やっぱりトークが面白くないんじゃないかな!」


 オブラートに包まず核心をついた宇月さんに、委員長はあわあわと取り乱すのであった。

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