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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第43話 2本目の確約

 外は少し暗くなり始めていて、電灯の明かりがポツポツと灯っている。

 

 公園から家までの帰り道。隣で歩く宇月さんは、さっきよりずっと近くに感じられた。


 

「ねぇ松村くん。さっき、"恋愛対象じゃないって聞いてる"とか、そんな感じのこと、言ってなかった?」


「え?うん、言ったかも」 


「……もしかして、それで私を避けてたの?」


「い、いや、避けてるつもりは……。ってか、宇月さんが変に距離を取るからだよ。だから接しづらかっただけ」


「なんだ、私に恋愛対象として見られてないから、それでショック受けてたのかと思った」


 宇月さんが隣から俺の顔を覗く。

 

「はは、そんなの今更だし」


「いや……。……ていうか、そんな話、誰に聞いたの?」


 彼女はキョトンとした顔で尋ねた。


「えぇ……。宇月さんが言ってたんだよ」


「わ、私? そんなこと、言わないと思うけど」


「手洗い場で、他の女子と話してるのが聞こえたから」


「それって……あの時……」


 何かを思い出すように、宇月さんはウーンと顎に手を当てて考えている。


「ご、ごめん。聞くつもりはなかったんだけど」


「いや、いいよ。……でも私、やっぱりそんなこと言ってないっ」


「言ってたよ、"付き合えない"って。……あぁでも気にしないで? そんなんじゃなくても、ちゃんと友達でいられるって、もう分かったから」


 話を終わらせようとすると、宇月さんが隣で呟いた。

 

「……ちがうよ」 


「ん?」


「ちがう、私、松村くんに彼女がいると思ってたから、"付き合えない"って、言っただけ。私が近づいたらダメだって。彼女さんの邪魔にならないようにって、思ってたからっ」


 

 ……なんだ、それも勘違いだったのか。

 

 真剣に説明する彼女を見て、胸の奥の奥でつっかえていた何かが溶けるように消え去り、ほんのりと安心感が生まれるのを感じた。

 

 って、やっぱり俺気にしてたんじゃん。

 ……まぁ、宇月さんには言わないけど。 


 

「……そうだったんだ」

 

 呆れた顔で返事をするつもりだったのに、その安心感からか、少しだけ口元が緩んだ。 


「うん、そうだから」


 彼女は真剣な顔でそう答えた。


 

「…………って、あのっ」


「ん?」


「あのっ、恋愛対象ではないわけじゃないって言ってるのは……だからそうなんだってことではないんだからね。ちがうっていうのはちがうってだけで、ちがわないのがそうっていう意味じゃないんだから。松村くんがちょっと可哀想だからこう言ってあげてるっていう優しさであって、だからといってそうだとは限らないっていう……」


 

 難解な言葉を話し続ける彼女を見て、俺は穏やかに笑いながら返した。


「宇月さん、もう訳分かんないから。……とりあえず、勝手に勘違いしてたお馬鹿さんだったってことだね、俺も、宇月さんも」


「うん……。そうだね」


 宇月さんは照れくさそうに笑って返事をした。




 

 もう家までは一本道。あと少し。


 こうやって話すのは本当に久しぶりで。 

 明日また学校で会えるはずなのに、送り出す足は無意識にゆっくり、そして歩幅は小さくなっていた。


 

「なんかお腹空いてきちゃった」


「はは、俺も。……あ、そうだ。これ、食べる?」


 委員長からもらった酸っぱいグミを鞄から取り出す。


「ほしいほしいっ」


「じゃあ俺も食べよ」

 

 袋を開け、一緒に1粒ずつ口にいれた。

 

「んん~っ、酸っぱいね、これっ」


「んっ、ほんとに。……これ委員長にもらったんだけど、おまじないをかけてくれたんだってさ」


「ええ?どんなおまじない?」


「笑顔になれるおまじない」


「ふふっ、素敵だね」


「あと、酸っぱい顔にもなれるって」


「あははっ、おまじない、ちゃんと効いてるかも」 

  

 本当に、背中を押してくれたみんなには感謝しかない。

 今日こうして一歩踏み出せたから、逃げて失う後悔をせずに済んだんだ。


「きっと、委員長は励ましてくれたんだよね」


「うん。今回、色んな人から言われたよ」


「なにを?」

 

「宇月さんとはどうした、宇月さんと何かあったのかって……。俺は宇月さんによって形成されてるわけじゃないのにね。アイデンティティどうしたって感じだよ」

 

「あははっ、たしかに、松村くんは意外とちゃんと個性あるのにね」


「だよね?」


「うん。……ごちそうさまする時は目を瞑るとことか、ノート取ってる時はどんどん身体が左に傾いていくとことか、人と話すときは絶対先に名札を見るとことか」


「あれ。俺の個性、薄くない?」


「あぁ、あと、朝は雀に挨拶してるとことか……」


「も、もういいよっ。……てか、それ見られてたんだ」

  

「あはははっ。やっぱりそうだったんだ」


「……謀ったな」

 

「ふふふ。……まぁ実は私もさ、逆の事ばっかり言われてた。松村くんはどうしたーって。みんなそればっかり」


「そうだったんだ」


「うん」



 

 気付けばもう、自分の家の前。

 2人で立ち止まると、宇月さんが言い出しずらそうに口を開いた。



「あ、あのさ」


「どうしたの?」


「部活……のことなんだけど」


「うん」

 

「私、やっぱりやりたい……生徒相談部。……松村くんと一緒に」


 彼女は自分の手をギュッと握りしめ、緊張した面持ちでこちらを見つめた。


「それは……」


 きっとその件も、彼女は架空の彼女に気を遣っていただけなんだろう。


 宇月さんの意思がOKなら、俺の答えは一つだ。


「もちろん。俺も同じ気持ち」


 宇月さんは安心した様子で、優しい笑顔を見せた。


「ありがとっ。へへっ」 




「それじゃあ明日の放課後、佐藤先生のところへ行こう」


「そうだね、一緒に。……明日はやることたくさんかもっ」


「それぐらいの方がいいでしょ?俺たちお互い暇だったんだし」


「うん、そだね。……楽しみっ」



 ここで突然、我が家の玄関の明かりが灯った。ここの明かりは、暗くなると自動で点灯するようになっている。

 もうすぐ日が落ちきって、夜がやってくる時間だ。

 

「宇月さんの家、この先でしょ? 送っていこうか?」


「え、ええ!どうしたの松村くん……! そんな台詞、どこで覚えたの?」


「バカにしてるでしょ。俺もそれぐらい言えるようになったってことだよ」


「はは~。腕、あげたねっ」


 宇月さんは自分の片腕を上げ、ごますり顔でポンポンとそれを叩いた。


「でも大丈夫だよ。私今日、元気だから。走って帰るしっ」


「そっか、分かったよ。じゃあ気を付けて帰ってね。……また明日、学校で」


「うん、また明日っ」

 


 俺は本当に走って帰っていく彼女の後ろ姿を、家の前でしばらく眺めるのだった。

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