表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/110

第42話 次の約束は、絶対に

「もう、日が沈みそうだね」


「そうだね」


「俺、結構この時間好き」

 

「……私も好き」 


 青とオレンジのグラデーションが空を覆い、自分達の影は先まで長く伸びている。

 

 宇月さんと顔を合わせるわけでもなく、お互い数歩さきの地面を見つめながら歩く。

 

「……そ、そういえば、松村くんは最近、放課後何してるの?」 


「最近は、少しだけ筋トレしてるかな」


「筋トレ?急だね」


「うん。やっぱりいざって時、筋力とか体力が大事だと思って」

 

「それって、例えばどんな時?」


「んー。誰かに肩を貸す時とか?」


「自分のためじゃないんだね。ふふ」


 ずっと顔を合わせなかった宇月さんが、こちらを見て少しだけ笑った。  

  

 

「宇月さんは、図書室で勉強でもしてるの?」


「ううん、本読んでるだけだよ」


「え、あ、そうなんだ」

 

「……もしかして意外だった?」


「うん。そんな文化的な一面があったとはね」


「えー。私、文化的で道徳的で、知的な女子なんだけどな」


「それは知らなかったよ。……そんな知的な宇月さんは、どんな本読んでたの?」

 

「そ、それは何でもいいでしょ、別にっ」


「……はは。じゃあ訊かないでおいてあげる」


「よろしいっ……」


 一見いつも通りに話してくれているかのような彼女の横顔は、少し先を見て、どこか落ち着いていた。

 

 俺の視線に気付いているはずなのに、こちらを向かずに歩き続けるのは、これ以上は近づかないという固い意思の表れだったんだろう。

  

 

 少し進むと、向かう方向の先には小さな公園があった。

 俺は公園の中にあった自販機の方を指差す。


「ちょっと、寄ってもいいかな?」


「うん、いいよ。私も喉乾いたし」


  

 2人で自販機の前に立って商品を眺める。

 今までだったら、ここでジャンケンとか挑まれてたんだろうな……。

 

 隣で自販機を見ていた宇月さんは、何も口出しすることはなく、俺が先に購入するのを静かに待っているようだった。



 …………ガコンッ。


 

 お互い自分のドリンクを買った後、俺は近くのベンチを指差す。

 

「少し、あそこで休憩してもいいかな?」


「え?2人で……?」


「うん」

 

 "2人で"……。

 何でもない単語なのに、わざわざそれを訊かれた事に心臓がギュッとなった。

 ……しかし、そんなのはもう今更だ。気にしてはいけない。

 彼女の表情を見ないまま、ベンチへ向かう。


 俺がベンチに座ると、後ろから付いてきた宇月さんも間を空けて隣に座った。




「今日はごめん。待ち伏せみたいなことして」


「う、ううん。大丈夫。……ちょっとびっくりしたけど」


「だよね」


「うん。……でも、私も話したいことあったから」


 そう言った彼女は、やはり顔を合わせないままだ。


「そうだったんだ」


「うん。……」


 そう小さく返事をするも、彼女から話し出す事はなく。

 せっかく買ったのに、持っていたドリンクはお互い開けないまま。

 隣で座る彼女は、両手でそれをキュッと握りしめていた。


「宇月さんから、話していいよ」


 相手の話を先に聞いてしまうと、自分の話がしづらくなってしまうかもしれない。話す勇気を持てたのに、その気持ちが揺らいでしまうかも。

 ……でも、それは彼女だって同じはずだ。


 宇月さんはコクりと頷いて話し始めた。

  

「……私ね、よく考えたんだけど、やっぱり部活を作るのはやめておこうと思って」


「生徒相談部の事?」


「そう。面白そうだなって、思ったんだけど。最初は松村くんと2人でしょ? 私はあんまり上手くやれる気がしなくて。ほ、ほら、変なことして足引っ張っちゃうかもだしっ。……自信、ないから。……だから、ごめんね?」


「……わかったよ。大丈夫、気にしないで」


 宇月さんはずっと言いたかった事を伝えられたからか、少しホッとした様子でジュースを握っていた。


「ありがと。……それで、松村くんの話って?」


「俺は……」


 ここまで歩いてきて、自分が彼女から距離を置かれている事はより明白になっていた。


 話し方、歩く時の距離感、視線の向け方、全てが今までとは違っていて。それが分かっていても、今、ぶつからないといけない。

 逃げて後悔なんて、したくない。


 隣にいる彼女の目を見て、話を始めた。 


「俺は少し、寂しくなったよ。宇月さんと距離ができて」


「え……?」


「席替えして、話さなくなって、自分だけの時間ができて。あぁ、宇月さんが隣にいないと、結構暇なんだなって」


 彼女は少し驚いたかと思うと、そのまま黙ってこちらを見つめていた。

 

「こんな感じだけどさ、今でも友達だと思ってるよ。本当はもっと仲良くしたいって思ってる。……でも俺、なんかやっちゃったんだよね? ボーッとしてるし、自分で気付かない内に、宇月さんを傷つけるような事、しちゃったんだと思う。だから今日はその理由を聞いて、ちゃんと謝りたいんだ」


「ち、違うよ。私も、友達だと思ってるよ。松村くんは何も悪いことなんてしてない」


「そ、そうなの……?」


 彼女はコクりと大きく頷く。


 絶交する勢いで距離を取られていると思っていたのに……。

 意外な返答に俺は肩透かしを食らい、続く言葉が出てこなかった。


「だから松村くんが謝ることなんて、ないよ」


「……そっか」


 でも、とりあえずよかった。

 彼女を傷つけたわけではなかったんだ。


 

「じゃあ、どうして……。前みたいに過ごすことはできないかな? 俺は普通でいい。宇月さんはもう、大事な友達の1人なんだよ」


「それは、嬉しい……。でも、ダメだよ。松村くんはそれでいいかもしれないけど、私は望んでない。つい近づきすぎちゃって、それで絶対、迷惑かけちゃうから」

  

「いや、何も迷惑なんてことはないよ。恋愛対象じゃないって事だってもう聞いてるし……俺は宇月さんと一緒にいても、勘違い野郎にはならないから」


「……で、でも、私たち付き合ってるんじゃないかって、噂されたりしてるんだよ?」


「そんなのちゃんと話せば分かってもらえるし、俺は気にしない」


「私だって、それぐらいは気にしないよ……」


「じゃあなんで……」


 

「……だから、私達じゃなくて、彼女さんが嫌かもしれないじゃんっ」


  

「…………え?……今なんて言った?」


 

「……私が仲良くしてると、彼女さんが、嫌な思いするかもしれないじゃんっ」


 

「……誰の?」


「誰のって……松村くんの他に誰がいるの?」



 俺は身に覚えのない単語を聞いて、数秒間思考した。  


 彼女?……俺の?

 ……そんなの、いつから存在したんだ?



「待って、宇月さん。……俺って彼女いたんだ?」


 彼女はこちらを見つめたまま静止する。

 

「……えっ、だ、だって、見たもん」


「何を……?」


「一緒にいるところ」 

 

「……えぇ。……ちゃんと生きてた?足、生えてた?」


「あ、当たり前じゃんっ。……エムパで、私見たもん。2人で仲良くデートしてるところ」


 

 エムパ……。

 そう、それは、たしかに少し前に行ったショッピングモールだ。

 だけど……。

  


「宇月さん……。それ、妹」


「………………え?」


「それ、俺の妹」


 

 彼女は、首を傾げて口を開けたまま、再び止まってしまった。

 


「……ねぇ。もしかして、勘違いしてたの?」

 

「えっ、いっ……」


「……そんな事、だったんだ」


 俺は一気に緊張が解け、ベンチの背もたれにに寄りかかる。

 そしておもむろに、手に持っていたジュースを1口で飲み干した。


 宇月さんは未だ隣で頭の中を整理している様子だ。

 

「今までのって、何だったんだろ……。……でも、そんな事で、よかった。ただの勘違いで、よかった……」


 今まで考えてたあれこれも、この勘違いさえ分かってしまえば、どうってことはなかったんだ。


 彼女の気持ちも、俺の気持ちも、判断するにはまだ早かったんだ……。


 俺はフゥ……と大きく息を吐く。


「……で、でもっ、距離感近かったしっ……」


 宇月さんはまだ完全に飲み込めていないようだ。


「そりゃあ、妹だからね」


「……あ、じゃあ、アイス!あーんって……してたしっ」


「妹だし、一口欲しいって言われる事ぐらいあるよ」


「……あ、あと、ふ、服とか、選んでもらってたしっ」


「それは身近な若い女子の意見も大事にしないとと思って」

 

「……じゃあ、あれは……」


「うん。デートなんかじゃないよ。ただ、妹の買い物に付き合ってただけ」


 理解してくれたのか、逆にショックを受けたのか、宇月さんは、自分の口を覆うように手を当てて顔を赤くした。


「てか、宇月さん、俺たちの行動把握しすぎじゃない?」


「そ、それは……たまたま、行くところが同じだったんだよ」


「……もしかして、つけられてた?」


「ちち、ちがうよ!……ちょっと、覗いただけ!」


「まったく……」


 俺が軽く睨むと、彼女は上目遣いで口を開いた。

  

「……ご、ごめんねっ?」


 申し訳なさそうにモジモジしている。

 

「はぁ……」


 自然とため息が漏れる。 


 

「今回は特別に許してあげる。コーヒー牛乳で」


「……か、買わせてくださいっ!」



 焦ったり張り切ったりしている宇月さんを見て、その豊かな表情が懐かしく、俺は自然と笑みがこぼれた。


「次の昼休み、絶対ね?」

 


 彼女はこちらを見つめた後、眉をハの字にして笑った。


「うん、絶対っ」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ