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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第40話 常備するなら絆創膏とかがポイント高い

 金曜日は学校の創立記念日で休みで、次に登校したのは月曜日。

 宇月さんとの距離ができてから1週間が経っていた。



 いつもの時間に登校するも、そこに宇月さんの姿はなく。

 彼女は珍しく登校時間ギリギリに教室に入ってきて、席替えでどこになったのか、周りの生徒に確認しながら自席についた。


 朝の挨拶すら必要のない距離。逆に、ここから挨拶する方が不自然だ。特に話しかけに行くことはしない。


 

 教室にいる間は、なるべく彼女を視界に入れないようにした。

 もし眺めていて目があったら困るし……。

 意識しないようにしているのが、逆に意識してしまっているのではと気付いてからは、なるべく教室にいる時間を減らし、用事もないお手洗いに休憩の度向かった。


 

 まだ、先週の事を謝れていない。

 でも、休み時間はバタついてるし、放課後になったら必ず……。

 こうして早い方がいいと分かっているのに、どうしても先送りにしてしまう自分には嫌気がさす。

 

 情けない俺は、謝罪の言葉1つ用意するのに、丸1日を使ってしまうのだった。



 放課後。

 皆が部活に行く中、宇月さんを見ると、もう自分の鞄に荷物を詰めているところだった。

 彼女が鞄を担いで立ち上がる。その動作まで眺めてしまっていた俺は、慌てて彼女の元に駆け寄った。


「宇月さんっ」


「……あっ、ま、松村くん。……どうしたの?」


「あの……先週の放課後、ごめん。行けなくて」


「……あぁ、あれね。全然いいんだよ~、それぐらい気にしないで」


「いや、本当にごめん。……何か話でもあった?」


「う、ううん。それもいいの。……宿題、教えてほしかっただけだから。もう大丈夫っ」


 宇月さんは学校で宿題をする習慣なんてないし、適当な嘘だということぐらい、すぐに分かる。

 でもその嘘が、これ以上踏み込まれないための壁のように感じて。

 分かってしまったから、嘘のまま受け止めるしかなかった。 

   

「……そ、そっか」


「うんっ……」


「……呼び止めてごめん。ま、また明日」


「……うん。じゃあね」 


  

 本当はもう少し話したい事があった。風邪は大丈夫だったのとか、部活はどうしようかとか。

 でも、久しぶりに会話できた今、彼女のよそよそしさを見て、それ以上に話題を振ることはやめた。



 最後に振り絞って出した"また明日"という言葉も、次の日から話さなくなった俺達には、ただの方便にしかならないのであった。



───────────

  

  

「蒼汰、昼は外で食べようぜ」


 2週間と少し過ぎた、ある日の昼休み。

 午前中最後の国語の授業が終わり、いつものように誠一郎がお昼を誘ってきた。

 

 前までは宇月さんと話しながら自分の席で弁当を食べていた。

 しかし席替えした後は静かに1人で弁当を食べるようになり……それに気付いたからか、誠一郎が昼ご飯を誘ってくるようになっていた。

 


「蒼汰、お前最近暇だろ?どっか遊びに行かないか?」


 ベンチに座り、2人で弁当を広げる。

 

「おぉ、いいねそれ。どこ行く?海とか?」


「海はまだ少し早いだろ。さすがに入れないわ」


「いや、見に行くってことだよ。海は入るものじゃなくて見るものでしょ」


「出た、蒼汰のおじいちゃん思考。ほんとそういうの好きだよな」


「まあね」


 普段のように話していたかと思うと、誠一郎は少しだけ真剣な顔つきになり、自分の弁当を食べる手を止めた。


「ところで、宇月とは最近どうなんだ?」


「どうって……最近話してないからね。どうもこうもないよ」

  

「そうじゃなくて……やっぱり何かあったんじゃないのかって意味だよ」


「いや、前も言ったけど、何もなかったよ」



 宇月さんとは、本当に何もなかった。何もなかったから、本来あるべき距離、今の距離に落ち着いている。



「誠一郎に心配かけるような事はないよ」


「……でもなぁ」


「誠一郎こそ、遠足の後、委員長とはどうなの?」

 

「フラれた」


「……え?今なんて?」


「だから、フラれたんだって」

 

「嘘でしょ!?」


 ここ最近で一番の衝撃。

 まず告白したことすら知らなかったんだけど……。

 

 そして直接聞いてはいなかったものの、委員長も誠一郎には気があると思っていた。


「本当だ。……まぁ、ちょっと早かったのかもしれない」


「というと?」


「『今はごめんなさい』って言われたんだ。『今はまだ自分に自信がないから、私が変わったと思ったら、もう一度言ってほしい』って」


「それはなんというか、実質おっけーじゃないの?」


「いやでも保留だぞ?次言ったときには、あいつの気が変わってるかもしれない」

 

「委員長はそんな子じゃないでしょ」


「……まぁ、それもそうか」



 委員長はあの遠足以来、少しずつ変わってきている。

 前よりも人と話すようになったし、なにより、長く伸びていた前髪はスッキリして、顔の表情はよく見えるようになった。

 相変わらずメガネはかけたままだったが、宇月さんや天羽さんが言っていたように隠れ美人というやつで、今やクラスの男子から少し噂されているぐらいだ。


 

 誠一郎と上手くいくといいなと思っていたが、2人の関係もいつの間にか進んでいたんだな……。


「まだ付き合ったわけではないかもしれないけど、俺は自分の事のように嬉しいよ。……ていうか、それなら今は俺より委員長を遊びに誘った方がいいんじゃないの?」


「お前なぁ。俺がさりげなく励まそうとしてるってのに」


「はは、ありがと。今は、その気持ちだけで十分」


「……わかったよ。でも、よく考えろよ。自分が全部見えてると思っても、意外とそうじゃないからな」


「そう、なのかな」


「そうだ。俺はそれをバスケで学んだっ」


  

 誠一郎は、親指を立ててニッと笑った。

 ……俺は本当にいい友人を持ったもんだ。


 


 その日の放課後、また1人で考えながら生徒玄関へ向かう。

 


 あの日、席替えをしてから、彼女との関係が"ただの隣の席のクラスメイト"だったことを思い知った。

 席が離れていれば、お互いに話しかける事なんてない。部活が同じわけでも、委員会が同じわけでもない。


 それに、俺は彼女の連絡先すら知らなかった。

 教室で待っていてくれた時も、遅れてしまうのを伝える事すらできず……。会えなかったことをすぐに謝ることもできなかった。

 

 そうやって1歩教室から出れば、ほぼ他人になってしまう。隣の席というだけの、細くて脆い繋がり。


 


 考えてボーッとしてしまっていたからか、自分が下駄箱の靴を持ったままフリーズしていた事にハッと気が付く。

 

 ん……なんだか横から視線を感じる。


 顔を横に向けてみると、悲しい顔をした委員長が、こちらを見つめて立っていた。

 そして彼女の手には、酸っぱいグミの袋がひとつ。


 

「よ、よかった……。何か食べ物を与えないと動かなくなってしまったのかと……」


「……委員長、俺の事なんだと思ってるの」

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