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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第37話 今、笑顔で話せているかな

 放課後。

 お手洗いを終え、自分の教室に戻ろうとしていた時だ。廊下を歩いていると、少し先の洗い場から女子たちの話し声が聞こえてきた。


「はぁ……。やっぱり山田くん、カッコいいよね。あんなに顔が整ってるのに、全然気取ってないんだもん。性格もほんとイケメンって感じ」


「あぁ~?もしかしてあんた、狙ってる?」


「わ、私なんか相手にされないよ~。山田くんは選び放題だもん。……そりゃぁ、もちろん付き合えたらなって思うけどさ」


「そうよねぇ……。あ、ねねっ。明澄ちゃんはどうなの?」


「え?私?……私は山田くん、よく知らないし……」

 

 宇月さんの声だ。

 女子たちがいるのは自分の教室がある方向だったが、俺は無意識に足を止めていた。


「違うよ~。明澄ちゃんは、誰か気になる人いないのかなってことっ」


「あぁっ、それ、めっちゃ気になる!」


「えと……それは……」


 これ以上先を聞くつもりはなかった。

 しかし、そんな気持ちとは裏腹に、俺は息を押し殺し、聞こえてくる声に耳を傾けてしまっていた。


「あっ、もしかして松村くん?2人って、よく一緒にいるもんね」


「たしかにっ、仲良いなって思ってた!なんなら、もう付き合ってるんじゃないかなって、クラスの子と話してたんだ!」


「どうなのどうなの??」

 

「い、いや、松村くんは……友達だよ」


「そう~?今は友達だけど、やっぱり付き合いたいって思ってるとか?ふふっ」


「そんなことないよ。……松村くんは、ダメ。付き合えない」


「えぇ~、そっかぁ。2人、結構お似合いだと思ってたんだけどなぁ」


「まぁ、明澄ちゃん可愛いからね~。選び放題だよ、絶対に~」





 俺は反対方向に向きを変え、遠回りで教室へ戻った。 

 馬鹿だ。何を盗み聞きしてしまっているんだ……。

 


 自分の机に置いてあった鞄を取って、急ぐように教室を出る。宇月さんや先程の女子達がいない方から玄関に向かった。

 

 玄関に付くと、相変わらず雨は降り続いており、遠くで小さくサイレンの音が響いていた。




『付き合えない』


 宇月さんは間違いなくそう言っていた。

 別に驚く事ではない。ずっと、ただの友達だったんだから……。

 

 家までの帰り道、雨の中1人で傘をさす。視線は下を向いていたが、水溜まりを避けもせず、濡れて重くなった靴で歩き続ける。


 

 自分は、何を期待していたんだ……?



 これまでも、宇月さんから好意を向けられた事なんてあっただろうか。……いや、思い当たる節なんてない。

 

 彼女は最初に人見知りする部分を除けば、基本的にコミュニケーション力は高いし、人懐っこいところもある。それに、やはり容姿も整っている。

 俺がよく知らないだけで、クラスでもたぶん人気があるはずだ。


 たまたま最初に隣になっただけ。たまたま友達になっただけ。

 彼女の気まぐれで、自分が話し相手になっていただけなのに……。



 ……って。これでナーバスになってるのは違うだろ。おこがましいってもんだ。

 何も友達でなくなるわけじゃない。明日からも普通に過ごせばいいんだ。いつも通り、普通に話せばいい。



 その日、窓に当たる雨の音がうるさかったせいか、俺はなかなか寝付くことができず、ようやく眠りに落ちたのはベッドに入ってから数時間後の事だった。


 


 

 次の日。

 俺は昨日と同じように、隣の席にいる宇月さんへ話しかけてみた。


「宇月さん、今日の体育はバスケなんだってさ。誠一郎がどれだけ活躍できるか注目だね」 

 

「あ、う、うん。ペン見くん、いつも部活頑張ってるもんね」


「そうだよね。それに、宇月さんのシュートもまた見れるし。楽しみだよ」


「あ、はは……。今日は、守備に徹しようかな」

 

 受け答えする彼女とは、やはりどこか距離を感じるままだ。

 

 もしかすると、何か彼女を傷つけるようなことをしてしまったのだろうか……。

 それとも、こうやって用もないのに話しかけるのが良くないのか……。

 

 周りからも付き合ってるんじゃないかと噂されてしまっているし。

 恋愛対象ではない俺なんかとそう勘違いされるのが嫌で、友達という関係自体、終わらせたいと考えているのかもしれない。


 ……あの時、宇月さんの気持ちを聞けてよかった。今後の接し方には気を付けられる……。


  

 そこからは絡むのも控え、当然会話もなくなり。今日1日で宇月さんと交わした言葉は、数える程しかなかった。


 

 

 そして放課後。

 図書室へ行こうとすると、廊下の反対側から宇月さんが歩いてきた。

 隣の席にいても目を合わせることがないから、日中は会話しなくても問題なく過ごしていられた。だが、こうやって廊下ですれ違うとなると、お互い無視するのは逆におかしなものだ。

 それでもどうしていいか分からず、無言のまますれ違う。

 すると、宇月さんが振り返って声をかけてきた。


「ね、ねぇ、松村くん」


「……ん?」


 自分も立ち止まり、振り返る。

 

「……この後、なんだけどさ。ちょっと時間ある?」

 

「この後か……ごめん。今日は図書委員の仕事があるから、今から行かないといけなくて」


「そ、そっか。……遅くなりそう?」


「ううん、6時まで」


「じゃあ、その後でもいい?」


「いいけど……待たせるのは悪いし。また明日でも大丈夫だよ?」


「ご、ごめんね。今日がいい、かも」


「そっか、わかった。じゃあ終わったらすぐに戻るよ」


「うん。……私、教室で待ってるね」





 

 

 図書委員の当番は18時までだ。ただ本を貸し借りする生徒の対応をするだけ。

 特に何事もなく、俺は時間が終わるまでぼんやりと仕事を続けた。


 宇月さんは俺に何の用があるんだろう。

 今日1日距離を置かれていた事を考えると、きっといい話ではない。

 ……というか、言い出しづらいような話があるってことぐらい、彼女のあの顔から察する事ができる。

  


  

「松村君、お疲れ様」


「あ、先生」


 仕事を終えて片付けをしていると、図書委員会担当の先生から声をかけられた。

 

「今終わったばかりで悪いんだけど、ちょっと運んで欲しい書類があって。私と一緒に職員室まで来てくれないかな?」


 俺はチラリと時計を確認する。18時5分。本を運ぶだけならすぐに終わるだろうし……宇月さんには悪いが、少しだけ待っていてもらおう。


「分かりました、いいですよ」

  

 先生と一緒に職員室に行くと、部屋の端の方に本が積み重なっていた。


「結構な量ですね……」


「ほんとごめんね。これを図書室まで運んで欲しくて。私には重たすぎるから、男手が必要だったのよ」

 

 引き受けた手前、ここへ来て断るわけにはいかない。

 それに目の前で困っている人がいるなら、自分が手伝わないなんて選択はしたくない。

 

「いや、いいんです。頑張って早く終わらせちゃいますね」 


「ありがとう、頼もしいわね。私は図書室で本棚に収納していくから、どんどん運んじゃってね」

 


 

 そこから1人で職員室と図書室を何往復もした。

 束になった本にはかなりの重さがあって、もう腕がパンパンだ。しかし、何よりしんどかったのは、職員室が1階で図書室が3階であった事だ。

 こんなに重いものを持って階段を上り下りするなんて。楽だと思っていた図書委員も、実は体力必須系の厳しい委員会だったりして……。


 

 ようやく本を運び終えたときには、既に18時30分頃。宇月さんをかなり待たせてしまっている。


「ありがとね、松村君。これ、ささやかだけどお礼よ」


 先生がくれたのはチョコレートのお菓子。もちろん自分も大好きだが、これは宇月さんへのお詫びの品にしよう。

 

 俺は解放されると、小走りで教室へ向かった。


 ……宇月さん、まだ教室で待ってくれてるかな。 

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