第35話 スポドリも身体にいいから0キロカロリー
写真を撮り終えると完全にフリータイムだと言われたので、委員長と別れて荷物置き場に向かった。
とりあえず喉が乾いたし、お金を持って自販機に行こう。……もうスマイルじゃなくてドリンクが欲しい。
そこらを見渡して発見したのは、さっきとは違う自販機だ。行ってみるとラインナップも違うので、残念ながら宇月さんおすすめのドリンクは売っていなかった。
ここはスポドリだな、いっぱい歩いたし。
「松村くん、何飲んでるの?」
購入したその場で飲んでいると、いきなり後ろから声をかけられた。
「あ、宇月さん。もしかしてクリアしたの?」
「うん!……で、喉乾いたから自販機にリベンジしに来たの」
「あはは、一緒だね」
「……あれ?この自販機、商品がさっきのとは違うんだね。何かおすすめある?」
「あー、あるよ。これかな」
俺が指差した商品を見て、宇月さんは渋い顔をした。
「えぇ、水じゃん」
「いやいや宇月さん。この水、なんと0キロカロリー。ダイエッターの味方だよ」
「……ハッッ!か、買いますっ!」
彼女はためらいなくすぐに水を購入した。
「なんだかんだ、冷えた水が一番美味しいのかもね」
宇月さんは親指を立てながら嬉しそうにゴクゴク飲んでいる。
「……でも宇月さん、悪い人に騙されちゃダメだよ」
「ん??……うん、気を付ける、よ?」
俺たちは話しながら、無意識に近くの芝生へ向かっていた。
「そういや松村くんと委員長が一番だったんだって?……悔しいな」
「早く終われたのは完全に委員長のおかげなんだけどね。一緒に一番になれてよかったよ」
「……ちょっとだけ、取られちゃったって気分かもっ」
「大丈夫。これからまだまだ、仲良くなれるチャンスはあるよ」
「え?……ふふ。そうだね」
広々とした芝生には誰もいない。俺たちは冷たいドリンクを片手に横並びで座った。
「俺さ、委員長と、友達になれたよ」
「そっか。……なんだか松村くんまでスッキリした顔してるから、そうじゃないかなって思ってたよ」
「よかった、眠そうな顔じゃなくて」
「ううん、眠そうで、スッキリした顔」
「なにそれ、顔が矛盾してる」
「えへへ。でも、きっと成功するって信じてた。……私ももっとお手伝いしたかったけど、松村くんなら大丈夫だろうって、なんとなくね」
「そんな。何もしてないよ。委員長が勇気を出してくれたんだから。俺はただ、チーズケーキを食べたいって言っただけだし」
「あはは、なにそれ。素直に認めればいいのにっ。…………委員長がこれまで我慢してた分、これから皆でいっぱい楽しもうね」
「もちろん」
宇月さんは持ち前の明るい顔で笑った。
「……あ、今度さ、頑張ったご褒美ってことで、チーズケーキ作ってあげるよ」
「え、宇月さんチーズケーキも作れるの?」
「そりゃあ女子高生だもん。もちろん作れるよ」
「女子高生ってチーズケーキ必修なんだ」
「もしかして私の料理スキル、まだ疑ってる?」
「そ、そんなことないよ。食べたい食べたい」
「激辛のやつで良かったかな?」
「……甘いやつでお願いします」
「あ、そう?」
冗談なのやら本気なのやら……。
おにぎりの時はあんなに震えてたのにな。
いつものように二人でくだらない話をする、落ち着いた時間。心地よい風を感じながら、座ったまま大きく背伸びをした。
「やっぱりこの公園の芝生は座り心地がいいね」
「そだね〜、気に入っちゃった?」
「うん、もう立ち上がりたくないかも」
俺はその場で寝転んだ。
春の陽気と健康的な疲労感で、少しだけ眠気が出てきた。朝から長時間歩かされ走らされた足は、横になった事で改めてその重さを感じる。
芝生の程よい柔らかさに包まれながら、静かに目を閉じてみる。瞼の裏からでも日の光が眩しいが、疲れているからかそんなことは気にならず、むしろ暖かく安らかな気持ちになった。
しばらく目を閉じたまま寝転がっていると、宇月さんが一言も発さず静かだった事に気が付く。
横になったまま、ゆっくりと重い瞼を開いてみる。
そこには、こちらに無防備な寝顔を向けながら横になっている彼女がいた。
柔らかい風がサラサラの髪をふわりと揺らす。
さすがに宇月さんも疲れたのかな……。
……いや待て。女の子の寝顔をこんな至近距離で眺めているのはまずい。
何気なく眺めてしまっていた自分が恥ずかしくなり、身体が熱くなるのを感じた。
音を立てないよう静かに寝返りをうち、体を反対側へ向ける。
「……松村くんの負けだね」
後ろからボソリと囁きが聞こえた。
「いつの間に勝負してたの」
そして今日の疲れを取り戻すように、俺と宇月さんはそのまま少しだけ眠ってしまうのだった。
遠足のお話、終わりです。
物語は続きますので、あたたかく見守っていただけると嬉しいです!




