第34話 ダンゴムシとかは出てこないと思うけど
「ねぇ、もしかしてさ、学校に行けずにいた委員長を励ましてくれたのって、誠一郎だったりする?」
「え……そ、そうです」
「お、おぉ~。自分で言っておいてなんだけど、本当にそうだとは」
俺たちは地図に示された目的地に向かい、再び歩き出していた。
「優しいもんね、誠一郎。俺、好きだよ」
「え、えぇっ……!…………あっ、すすすみませんっ、い、いいと思います。た、多様性の時代ですしっ。私は、偏見とかそういうのはないので……。そ、それに、松村さんがそうやって本音を言ってくれて、う、嬉しいです」
目を大きくして明らかにオロオロする委員長。
……なんか勘違いされてしまっている。
「あ、委員長、俺は……」
「あ、あれ!ま、松村さん、もしかして、次はあれを確認するんじゃないでしょうかっ?」
委員長が何かに気づいたようで、少し先を指差した。
そこにあったのは、既に誰かが開けた空の宝箱だった。
「ほんとだ。たしかに地図の場所と一緒だね。……でもこれって……」
「……もう、開けられてしまっていますね……」
どういうことだろうか。宝箱の中には、スタート時に全員に配られた地図が入っているだけだ。これまでの流れで考えると、おそらく宝箱を開けた人が最初の指令で置いていった物だし、もう使うことはないはず。
うーんと頭をひねっていると、委員長がクリアファイルを見せつけてきた。
「この"ひっくり返せばラッキー"って文字、宝箱の場所を示した所に書いてありますし、宝箱をひっくり返すという意味なんじゃないでしょうか?」
「おぉ、それだ、絶対それだ!さすが委員長!」
「え、へへ」
「……………」
俺は委員長がひっくり返すのを待っているのだが、委員長はそのまま可愛らしく笑っている。……そして目が合った。
「……あ、俺がひっくり返すの?」
「はい、お願いします」
知恵の面で何も役に立っていないのに、手柄だけ横取りしてるみたいだな、と思いながら、俺は軽い段ボール……じゃなくて宝箱をひっくり返す。
……すると、宝箱の底には、"あなた達が13番なら、この宝箱を持って佐藤先生の所へ向かえ"と書かれていた。
「ふーん、これごと持っていくんだね。佐藤先生、まだスタート地点にいるかな」
「さすがにいるんじゃないでしょうか。もし移動してらっしゃったら……私は足が取れてしまいそうです」
「あはは。疲れたよね。きっとこれ持っていったら終わりだろうし、最後に頑張ろう」
「はい。宇月さんにも、勝てるといいですね」
そうして俺たちは、スタート地点の方へ向かった。
本当に勝つ気があるのか分からないぐらいのペースだったが、二人で話しながら歩くと、そう長い距離には感じなかった。
宝箱は俺が手に持っているままだ。たぶん佐藤先生、使用後の宝箱回収が面倒だから、これを届けるのをラストミッションにしたんだろうな。
スタート地点に戻ってくると、ずっと待っていたのだろう。先生は暇そうに雲を眺めていながら座っていた。
「先生、これ、持ってきたんですけど」
「おぉ、松浦。早かったじゃないか。」
「松村です。先生、何か考え事してました?」
「……あぁ。あの雲に乗れたら、いい男が見つけられるかなーって」
「は、はぁ」
……ちょっと何言ってるか分かんないです。
「そういえば二人で戻ってきたってことは、鈴とペアになったんだな?」
「そうです。もしかしてこれで、クリアですか?」
「あぁ、そうだ。……しかも二人は……なんと一番だ。おめでとう」
一番……。委員長と顔を合わせる。
彼女も驚いた表情をしていたが、すぐに気持ちの良い笑顔を見せてくれた。
「やりましたねっ」
この笑顔が見られただけで、今日一日歩き回った甲斐があったというものだ。
「ご褒美……は特にないから申し訳ないが、二人で写真を撮るぞ」
「写真だってさ。委員長、大丈夫?」
「はい、もちろんですっ」
何てことはない公園の背景。写真映えこそしていないが、相変わらず空は晴れており、空気は澄んでいる。
一番だからと二人で示し合わせ、一緒に人差し指を立てたポーズでカメラの前に立った。
先生がシャッターを押す寸前、委員長はカメラの方を向いたまま、こう言って微笑んだ。
「今日は、こんなにいい天気だったんですね」
たぶん見たままを言葉にしただけだったが、俺は嬉しかった。
……遠足が楽しかった日。一番になれた日。それに、友達が増えた日。
たしかに今日は、いい天気だ。




