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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第33話 溢れ出す本音、漏れる激辛

「俺、高校に入るまで特にやりたい事とかなくてさ。将来の夢は今も決まってないけど……。それでも、毎日隣の席の人に勝負挑まれて、なんだかんだで友達もできて……学校で起こる事って、俺にとっては新鮮で」


 委員長は黙って話を聞いている。


「……だから、面倒だって思うことよりも、今日は何をしよう、何が起こるんだろうって気持ちで。小さな事だけど、自分がやってみたい事も次第に増えてきて。少しだけ、学校が楽しみだったりするんだ」


「そう、ですか……」


 短い返事をした彼女は、そこから再び静かになってしまった。


「委員長は学校、来たくない?」

 

「……いえ、そういうわけでは……」

 

「そっか。それならよかったよ」


 そのまま言葉を交わすことなく、ペースを合わせて足を運び続ける。

 すると、横に並んで歩いていた委員長が、いつの間にか無言で立ち止まっていた。俺が振り返ると、彼女は俯いたまま口を開く。


「私も学校、結構好き……だったんです。でも……」


 彼女は悲しそうに、小さな声で話を続ける。

 

「きっと、松村さんも聞いてますよね。……私が中学生の時、大切な友達を傷つけてしまったこと……」


「うん、聞いたよ……ごめん」


「……いいんです。自分の過ちなので……」


 過ち……。

 やっぱり委員長は、自分が間違っていたと思っているんだ……。


「私はあの件があった後、本当に後悔しました……。自分が一番ゆきちゃんの気持ちを分かってる、自分が一番近くで応援してあげられるんだって、勝手に思い込んでいたんです……そんなことなかったのに……」


「それは……」 


「結果が全て教えてくれました。全部台無しにして、誰も幸せになんてなれなくて…。……私がやっていたのは応援でも協力でもない、ただの偽善で、迷惑で、余計なお世話だったんです」


「そんなことない、誰だって悪くないよ。その友達も……もちろん、委員長だって」


「……ありがとうございます。松村さんは、優しいですね……。でも……それは違います」

 

 彼女は小さな声のまま、初めて強く否定した。

 

「私は会長に告白された後、その事をゆきちゃんに伝えました。……ゆきちゃんが傷つくのは分かっていたのに、それでも、隠すのはもっといけない事だと思ったからです。……ゆきちゃんは、私の話を黙って聞いてくれました。怒ることも、私を咎めることもなく……。それどころか、最後まで聞いた後……声をかけてくれたんです。……"私は大丈夫だから、隠さずに話してくれてありがとう"って」


「それじゃあ……」 


 俺が声を出したのを制するかのように、委員長は話を続ける。

 

「ゆきちゃんは本当にいい子なので、私のことを想ってそんな言葉をかけてくれたんだと思います。……馬鹿な私は、それを聞いて安心してしまっていました。"大丈夫そうでよかった"って………ゆきちゃんの本当の気持ちも知らずに……」


 彼女の小さな口は、自分を戒めるかのようにぎゅっと結ばれ、ほんの少しだけ震えていた。 

 

「………その日の放課後、私はゆきちゃんが一人で空き教室にいるところを見てしまいました。……ゆきちゃん……泣いてたんです……。一人で、誰にも気付かれない所で、声を押し殺して……。顔をぐしゃぐしゃにしながら……」 


 委員長は気付いてしまったんだ。親友の嘘に。

 ……でもそれは、虚勢を張ったものでも、誰かを陥れるためのものでもない。友達を想う優しい嘘だったはずだ……。

 

「私はそれを見て、ようやく自分のしてしまったことの愚かさに気付きました……。ゆきちゃんの優しさに甘えて、安心して、彼女が本当は辛い気持ちだった事に、気付いていなかったんです……。次の日になっても、ゆきちゃんはいつも通り明るく話しかけてくれました。でも私は、傷つけてしまった彼女への接し方が分からなくなってしまって……。あんなに泣いていたのに、なんで責めないんだろう、なんで何も言わないんだろうって……。考えれば考えるほど怖くなって……それで……私は……逃げたんです……」


「逃げた……?」


「……はい……。次の日の朝、どうしても布団から出ることができなかったんです。学校に行くのが、ゆきちゃんに会うのが怖くて……。そこから私は、しばらく学校を休みました」


「そう……だったんだね」

 

「一度休んでしまうと、次の日はもっと怖くなって……その連続でした……。大好きだった学校、大好きだった友達。あんなに気持ちが通じ合っていたはずなのに……自分が休んでいる間、ゆきちゃんはどう思っているんだろうって、分からなくて、悪い方向にばかり考えて……。明日は行こう、明日こそ話そうって思っていても、どうしても一歩踏み出せなくて……」


「じゃあ、そこから学校にはもう……?」

  

「いえ……。私が学校を休んでいる間、クラスメイトのある人が毎日のように家に寄ってくれました。学校からの書類を届けたり、授業のノートを写させてくれたりして……。その方は"家が近いから"としか言いませんでしたが、きっと、私がいつでも戻れるように、励ましてくれていたんだと思います……。

 そのおかげで私はゆきちゃんに会う決心ができ、1ヶ月ぐらい経ってようやく登校したのですが……遅かったんです……。ゆきちゃんは既に転校してしまっていました…………。丁度、私が登校した日の前日だったみたいです……。先生からは、家庭の事情で突然の転校になったと聞きましたが……。連絡手段を持たなかった当時の私には、ゆきちゃんと話をすることは二度と叶いませんでした」


 彼女はより暗いトーンで話を続けた。


「……私が余計なお世話をしたせいでゆきちゃんを傷つけて、それが怖くなって勝手に逃げ出して……。わ、私は最低です……。大馬鹿者ですっ…………。そ、それなのにっ……最後までっ……謝ることすら……できませんでしたっ……。」


 小さく肩を縮める彼女の頬には、涙が伝っていた。

    

「………人を傷つけるのってさ、怖いよね。」


 俺が声をかけると、彼女は静かに顔を上げた。


「委員長は、もう誰も傷つけたくないから、みんなと距離を置いてるんだよね……?誰も悲しい思いをさせないために、嘘ついたり、距離を置いたり、自分を押し殺したりして。……俺もさ、誰かを傷つけるぐらいなら自分が傷ついた方が良いって思ってるよ。……その方がみんな幸せで、辛い思いしなくて済むし。……でもさ、これまでの委員長を見て、今の話を聞いて……それは間違ってたんじゃないかって思った」

 

「……えっ……」


「だって、少なくとも周りの人間は、みんなは、寂しいんだよ。そうやって周りと距離を取る誰かを見てると、もっと心を開いてほしい、もっと本音で話してほしい、もっと、委員長と仲良くなりたいって。本当にみんな、そう思ってる。……それだけじゃ、だめかな?」


「それは…………。とても、うれしい……です。でも……でもっ……怖いんです。……本音で話すのが……自分を出していくのが……」


「そんなの、ゆっくりでいいんだよ。少しずつ、図々しくなれば。……受け止めてくれる人は、俺たちが思っているよりずっとたくさんいるよ。もし誰かを傷つけたり、誰かとすれ違ったりしても、その時は話せばいい。お互いに相手の顔をちゃんと見て、自分の言葉で伝え合って……。それを乗り越えられたらさ、前よりもっと、仲良くなれると思わない?」


 メガネのレンズ越しに見えた委員長の綺麗な瞳は、大粒の涙をこぼし続けていた。

 

「…………俺は、学校をサボってみたい」


「……えっ……」


「あと、勉強せずにテストで満点取りたいし、最高級のチーズケーキを食べてみたいな。それに、夜通し星空を眺めてみたい。……こうやって口にしてるとさ、無意識に自分の奥底から願望が飛び出てきて、溜まってた何かが抜けていく気がするんだ。本音を言うのって難しいかもしれないけど、したいこと、してみたいことを言うだけなら、意外と簡単なのかもね。……委員長は、どう?」


 突然の問いかけに彼女は驚いていたが、すぐ近くにいる俺にしか聞こえないぐらい、とても小さな声で呟いた。

 

「わたしは……誰かとお話したいです」


 ボソリと漏れ出た一つの本音をきっかけに、彼女の口からは、これまで抑え込んでいた気持ちが次々と溢れ出た。


「……先生に、褒められたいです。……あと、可愛い洋服を着てみたいです。水族館でペンギンを見たり、スタバにも行きたいです……。体育祭では活躍したいし、食べたことない激辛料理だって食べてみたいです……。それに……もっとみんなとお話したい。もっとみんなの話を聞きたい、遊びたい……。……ひとりは……ひとりは……寂しい……です。…………友達が、ほしい……です」


「……よかった、たくさん言えて。………俺たちはさ、吐き出したこの気持ちも、大切にしてあげようよ。周りの事と同じくらい、自分の気持ちも」



「……いいん……でしょうか。私でも……。一度間違えてしまった、私でも……ワガママを言ってしまって、いいんでしょうか……」



「そんなのいいに決まってるよ。……それに、案外、自分のワガママだって思ってた事も、全然周りは気にしてなかったりするし。寧ろ、相手にとっては嬉しい事だったりするかもしれないよ?……だって、俺の最後のお願いは…」


  

 ……これが、彼女と向き合って思っていたこと。ずっと言いたかったこと。俺の、本心だ。


 

「……委員長と友達になりたい」




 爽やかに吹いた風が、彼女の髪を揺らす。


 小さく口を開いたままの彼女は、自分のメガネにそっと手を掛け、それを外した……。


 そして、涙を拭いながら、照れくさそうに笑って見せた。……何も隠していない、ありのままの笑顔で。


「……先に、言われてしまいましたっ」

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