第32話 天気の話は続かないから気を付けろ
グミのカツアゲなんて、大きな誤解だ。
それにしても案の定というか、見たところ委員長においても、今は荷物を携帯していないらしい。一瞬、小銭さえ持っていてくれたらという考えが頭を過ったけど……それってマジカツアゲじゃん。聞くのはやめよう。
「ごめんごめん。何も脅し取ったりしないから。心配しないで」
警戒する委員長に向けて両手を見せ、自分は無害であることをアピールする。
「……こちらこそ、すみません。……今度からはグミ、持ち歩くようにします」
いや、そこは気を遣わなくていいんだけど。
「ところで委員長はどうしてこっち方向に向かって来てたの?」
「それは……私、これが全然分からなくて」
委員長は手に持っていた物を見せてくれた。指令書のような紙と、クリアファイルだ。
「よかったらその紙、見せてもらってもいい?」
「はい、どうぞ」
委員長から受け取った指令書には、こう書かれていた。
"あなたの番号は13番。このクリアファイルを持ってもう一人の13番を探せ。ここまで使っていた地図は宝箱の中に置いていけ。"
俺のとほぼ同じ文章だ。しかもこれは……。
「委員長、13番じゃん」
「……もしかして、松村さんも13番なんですか……?」
「うん、そういうこと。俺の宝箱にも、同じような指令書と新しい地図が入ってたんだよ。で、13番を探せって書いてあったから。こんなにすぐ見つけられるなんて、すごいラッキーかも」
「……私もよかったです……。あまり、クラスにお話しできる方もいなかったので……」
委員長、そんな悲しい返しをしないでおくれ。
「た、たしかに。俺もそんな感じだから、お互いラッキーだったってことだね」
多くのクラスメイトに話しかけて同じ番号の人を探す。そうして普段話さない人ともコミュニケーションをとって欲しいというのが、先生の思惑だったんだろうけど。委員長とも話せたし、結果オーライか。
「あの……それで、13番同士で合流したら、何が起きるのでしょうか……」
「……え?」
……それはたしかに。俺は指令書にあった通り、地図を持って13番を探し出した。だが何も起きない。
指令に書いてあったのは同じ番号の人を見つけるという事だけだったし、合流したらどうなるんだ?
「……これでクリアなんじゃない?」
「……そ、そうなんでしょうか。まだ、何かある気がします……」
「ま、まぁ、たしかに?ミッションクリアの音、鳴らないしね」
「……それはどちらにしろ鳴らないような……」
ここで、最初から委員長が大事そうに持っているクリアファイルの存在を思い出した。
「あ、ねぇ委員長。そのクリアファイルも見せてくれない?」
「え?は、はい。どうぞ……」
言われるがままの委員長からクリアファイルをカツアゲ……拝借すると、そのクリアファイルの1ヶ所に星印が記されていた。
そして星印の下にはこう書かれている。
"引っくり返せばラッキー"
「んん?これなんだろ?」
「私も気になったのですが、意味が分からなくて…」
「だよね。クリアファイルを引っくり返すってこと?いや違うか……」
未知のアイテムをもらった猿のように、俺がクリアファイルや指令書を逆さまにしたりしていると、しばらく眺めていた委員長が見かねて口を開いた。
「あの、松村さんの指令書を見せてもらってもいいですか……?」
「うん、どうぞどうぞ。よろしく頼みます」
俺は両手で自分の指令書と地図を渡す。
委員長はそれらを受け取ってしばらく見つめると、何かを閃いたのだろう、クリアファイルも貸して欲しいと言ってきた。
そして、俺が持っていた新しい地図を、自分のクリアファイルに挟み込んだ……。
「……もしかしたら、こうやって使うんじゃないでしょうか?」
「お、おぉ!」
クリアファイルの中に挟まった地図。そしてクリアファイル上に書かれた星印。それらを合わせると、まるで一つの場所を示しているような地図が出来上がった。
「なるほど、次はこの星印が示している場所に行けってことか」
「はい、そういうことかと……」
「じゃあ、この"引っくり返せばラッキー"っていうのはなんだろう?」
「それは私も分からなくて……。星印の場所に行けば、何か分かるかもしれないです」
「そうだね。じゃあここから近いみたいだし、早速行ってみようか」
元々地図に描かれたエリアの方へ向かっていたため、星印の場所はそう遠くはない。
誰もいない公園の端の小道を、二人で並んで歩き始める。
「……それにしてもさすがだね、委員長。こんな仕組み、全然気付かなかったよ。おかげで宇月さんにも勝てるかも」
「勝負、してるんですね。……私はケイドロで足を引っ張ってしまったので……申し訳ないです」
「そんなこと気にしなくていいのに。というか、委員長は何も足を引っ張ったりしてないよ。絶対宇月さんの方がトラブル起こしてたしね。あはは」
優しくて謙虚な姿勢も素晴らしいが、委員長の控えめな発言は、どうしても一歩距離を置かれているように感じてしまう。
こういう時は、宇月さんの事を笑い飛ばしたっていいのに。事実だし。
「それにしても、今日はいい天気だね」
「はい……晴れてよかったです」
「この辺りは誰もいないし、歩いてて気持ちがいいよね」
「そうですね」
「そういえばさ、お昼の激辛おにぎり、あれほんとに驚いたよ。今まで食べたことない辛さだったのに、委員長はノーリアクションだったし」
「……そう、ですね。リアクションすべきだったでしょうか……」
「いやいや、あれはあれで盛り上がったからいいんだよ」
「……それなら、よかったです」
「普段から結構辛いもの食べるの?」
「たまに、ですが……」
「あ、じゃあ天性の我慢強さなんだね。……いや、実は味覚バカなだけだったりして。あはは」
「すみません……。味覚がおかしいだけかと……」
二人で歩きながら話していたが、あまり会話が続かない。
俺が話し下手である上に、委員長から話しかけてくることはなく、時々不自然にできる間は、俺たちの距離感そのものであった。
「ねぇ、委員長」
「はい、なんでしょうか」
「委員長はさ、この高校入って楽しい?」
「……え、その……」
肯定も否定もなく、少し俯いた彼女は中々言葉が出てこない。
「ご、ごめん、重い話をしたいわけじゃなかったんだけど」
「いえ……こちらこそ、すみません……」
相変わらず下を向いたままの委員長。
「…………俺は結構、楽しいよ」
俺が呟いた言葉が余程想像していないものだったからか、彼女は少し驚いたようにこちらに顔を向けた。
「あ、予想外だった?」
「い、いえ、すみません。そうではなくて。……楽しんでいるのは私から見てもなんとなく分かるのですが、それを口にされたのが、なんだか意外で……」
「あはは、そうだよね。いつも眠そうだし、楽しいとか言わなさそうに見えるよね」
「……はい」
…………正直だ。




