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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第25話 追いかけたいお年頃?

「松村くん、ちゃんと周り見ててね」

 

「もちろん。俺の千里眼に任せといて」

 

「なにそれ?」

 

「……なんでもない、行こう」

 

 気持ちを落ち着かせ、一度深呼吸をした。

 遠くでワイワイと遊ぶ同級生たちの声がする。このにぎやかな公園の中で、今向かおうとしている荷物置き場に人の姿は一つもない。

 

 意識しているわけでも示し合わせたわけでもなく、俺と宇月さんは自然と身をかがめ低い姿勢になった。そして腰を同じ高さにしたまま、目的地に向かって小走りで駆け出した。

 二人とも無言のまま走り続ける。距離はそんなにないと思ってたけど……遠い。というか、なにより屈んでいるせいで腰が痛い。


 

「つ、着いたぁ……!」

 

「はぁー、見つからなくてよかったよ」

 

「なんで松村くん、あんな姿勢で走ってたの?」

 

「それを言うなら宇月さんだって……」

 

「んー、なんだろうね。こんな開けた道、いくら屈んでも見つかるのにね」

  

 二人でハハハと笑い合いながら芝生の上に腰を下ろした。今は荷物に囲まれているし、座っていればそんなに目立たないだろう。


「で、何を探しに来たの?」

 

「んふふ〜。松村くん、リュック貸して」

 

「??……俺の?」


 見られてまずいものが入ってないか……?

 予想していなかった突然のお願いに対して、リュックを手渡すまでの間に脳をフル回転させる。

 ……いや、きっと問題ないはずだ。いつだって俺のリュックにそんな大事なものが入っている事なんてない。


「大丈夫だよ。松村くんのリュックにそんな大事なもの入ってないよ」

 

「……なんか悔しい」


 言い返すこともできず、大人しくリュックを渡す。

 宇月さんはチャックを開けて覗き込むと、「あったあった」と嬉しそうにそれを取り出した。


「はい、ちょっと目瞑って〜」


 言われた通り目を瞑ると、宇月さんがンフフと声を漏らしながらそれを俺に装着した。


「あはは〜っ、似合う似合う」


 視界が薄暗い。

 そう、宇月さんがリュックから取り出したのは、今朝俺が一瞬だけ着けていた真っ黒なサングラスだった。

  

「これ、今いる?」

  

「それが私の作戦なんだよ。サングラスかけてれば、警察に擬態できると思わない??」

 

「……ど、どうだろ」


 上手く警察のフリができれば追いかけられたりしない。逃げるのではなく、忍ぶって事ね。

 ……いや、バレる気がするけど? 


「でも、松村くんはそれ付けててもすぐ分かっちゃうからなぁ〜」

 

「誰が付け……いや、なんでもない」

 

「ん?それ、私が借りても良い?扱いには気をつけるからさっ」

 

「いいよ。安物だし。たぶんもう出番ないし。気にしないで使って」

 

「やった、ありがと!」


 宇月さんに手渡すと、彼女は自分の襟元にサングラスを引っ掛けた。……ウェイ系だ。


「ん?今かけるんじゃないんだ」

 

「これはとっておきの時に使おうと思ってね」

 

「そうなんだ。じゃあなんで俺にかけたんだ……」

 

「えへっ」

 

 ……笑って誤魔化すとはこの事か。


「アイテムはゲットできたし、そろそろ戻ろうか」

 

「そだねっ。じゃあ戻りは全力ダッシュで行こう!」

 

「……お、オーケー。それなら宇月さん、先にどうぞ」

 

「わかった!女の子は追うより追われる方がいいもんね!」


 そんなこと言われると追いかけづらいんだけど。

 

 先に走り出した宇月さんをしばしの間見送り、俺は後になってゆっくりと走り出した……。



 

「ねぇ松村くん、遅いよ。私、追われたかったのに」

 

「追われたい人の速さじゃなかったんだけど」


 俺が到着すると、江口さんと委員長、そしてふくれている宇月さんが待っていた。

 

「もー。年頃の男の子なんだから頑張ってよ」

 

「まぁまぁ、今は体力も残しておきたいからさ」


 宇月さんをなだめていると、遠くを監視していた江口さんが慌てた様子で声を出した。


「ね!警察来てる!」


 江口さんが指さす方向には、歩いてこちらに向かっている警察(女子)の姿が見えた。


「俺と宇月さんがここに走って来たのがバレたかな……?」

 

「……や、でも、それにしてはあのポリ、急いでいるように見えなくない??」

 

「たぶん、たまたまこっちに向かって来てるんだよ。どうしよう……。明澄ちゃん、何か作戦ある?」

 

「……うん、ある!……松村くんが!」

 

「えぇ、そんなもんないよ」

 

「じゃあ今考える!……松村くんが!」


 宇月さんが押し付けてくるので、決して優秀とは言えない並みの脳みそで考えてみる。 

 今は何より委員長を走らせる作戦中だ。まだ誠一郎と合流できていないこの状況で、委員長がすぐに捕まってしまうのはまずい。ただ、ここで俺だけが飛び出して捕まったとしても、宇月さんがいる限りISM作戦の継続は可能なはず。

 一番良くないのは全員で飛び出してしまう事だ。それだとおそらく一番足が遅いであろう委員長が捕まってしまう。ここはやはり俺が囮となるのがベストという事だ。

 ……うん、もう考えるの面倒だからそれでいこう。なんか横で、「みんなで猫の鳴きマネするのはどうかな?」って言ってる子いるし。

 

「……よし、俺が囮で飛び出すから、三人ともこのまま隠れててよ。警察を引きつけてる間にまた何処かへ隠れて欲しい」

 

「……松村くん、ありがと。でもね、ここまで付き合ってもらったんだし、君一人で行かせるわけにはいかないよ。私も一緒に行くから、鈴さんと明澄ちゃんは隙を見てちゃんと逃げてね」

 

「江口さん……」

 

「大丈夫だよ。警察は女の子だし、上手くやれば二人とも逃げ切れるかもじゃん」

 

 二人とも捕まるという可能性もあるし、本当に一人でよかったのだが、この善意を無下にはできない。


「ありがとう。じゃあ俺と江口さんで飛び出すことにするよ。宇月さん、委員長のことよろしくね」

 

「任された!」

 

「あと、俺たちが飛び出してすぐに猫の鳴きマネとかしないでね」

 

「ええっ、だめなの!?」


 なぜか驚いている宇月さんを放っておき、俺と江口さんは無言で目を合わせて頷く。そして同じ方向に向かって飛び出した。


 走りながら横目で警察の姿を確認する。

 まだ飛び出してすぐだが、警察もこちらに気付いたようで走って追いかけてきた。


「あっち、行こう!」


 生徒たちがたくさんいる方を指差し、横で一緒に走っている江口さんに合図を出す。

 まだ警察との距離はかなりある。まずは人混みに紛れて、障害物のある方へ逃げるというのが狙いだ。


 ハァ、ハァ、ハァ……


 久しぶりの全力疾走だ。

 他のクラスの生徒たちがいる所へ着くと、俺と江口さんはすぐに遊具の影に隠れた。


「ここに隠れたのバレてないかな?」

 

「うーん、どうだろ。確認したいけど、ここから顔出してバレたら嫌だしね」

 

「そうだよね。……すごくドキドキしちゃうね」

 

 ……じっと目を見つめてそんな事言わないで欲しい。その台詞だと勘違いしちゃう人もいますよ?

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