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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第24話 両耳も休みたいって言ってるよ

「あ、それと念のため伝えておくよ。委員長なんだけど……」

 

「うんうん、委員長がどうしたの?」

 

「彼女は足が……」

 

「足が……?」

 

「……遅いかも」

 

「……遅いのね」 


 宇月さんが目を瞑ってウンウンと頷く。

 なんだその妙に納得した顔は。まぁ俺も委員長は決して足が速い方だとは思っていなかったけれど。


「走るの苦手な子をたくさん走らせるのって少し酷かもしれないけど、私はどうにかして委員長を動かせるよ。鬼にだって山姥(やまんば)にだってなってやるわ」

 

山姥(やまんば)?……まぁでも、おかげで俺も覚悟が決まったよ。これも誠一郎のため。委員長にはいつか謝ろう」

 

 現状把握が終わり、俺が江口さんと委員長の元へ戻るために立ち上がろうとすると、宇月さんから体操服の裾をグイッと引っ張られた。


「ま、待って松村くん」

 

「ん?」

 

「わ、私、あの二人とまだ話したこと無いの」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

「……"そうなんだ"じゃなくてっ!ふたりに私の事紹介してよ……!」

 

「はいはい、分かったよ。……貸し一つだね」

 

「うむぅ……」


 そして二人で江口さん達の元へ戻ったのだが、宇月さんは情けない顔のまま、相変わらず俺の後ろに隠れながら付いてきた。

  

「江口さん、委員長、すごく今さらなんだけど紹介します。こちら俺と同じグループの宇月さんね」

 

「う、宇月明澄と申します。ど、どうかよろしくお願いいたしますっ」

 

「あははっ、明澄ちゃん、同級生なのになんでそんなに固いの」

 

「え、えへ、えへ、へへ」

 

 和やかに笑ってくれている江口さんに対し、宇月さんは苦笑いなのか、よく分からない笑顔を見せた。

   

「それじゃあ今から救出作戦を始めようと思うんだけど、さっきみたいにみんなで警戒しながら走っていく感じでいいかな?」

 

「賛成!でも、先頭は松村くんがいいな」


 江口さんが力強い視線を送ってきた。さっきまでそんな目力あったっけ。


「分かったよ、江口さん」

 

「……はいはい!私も松村くんが先頭なのは賛成なんだけど、一つ提案があります」

 

「はい宇月さん、どうぞ?」

 

「えっとねー、牢屋の方とは少しずれるかもしれないんだけど、みんなの荷物を置いた芝生の場所あるでしょ?まずはそこに向かってみたい!」

 

「別に行ってもいいけど……荷物置き場なんて何か用事ある?喉でも乾いた?」

 

「ノンノンノン。あそこには便利アイテムがあるんだよ」


 宇月さんの事だから便利アイテムは若干信用ならない。

 ……が、委員長を走らせることをだけを考えると、敢えて寄り道して距離を伸ばすのはナイスアイデアだ。

 

「便利アイテム?明澄ちゃん、何か用意してるの?」

 

「……そ、それはお楽しみだよ〜っ」

 

「えぇ〜、教えてくれないの?でもなんかワクワクしてきたね。鈴さんと松村君も、この作戦でいいかな?」

 

「私は大丈夫です」

 

「俺もそれでいいよ」


 こうして宇月さんの名案?が通り、俺たちは荷物置き場へ向かうことになった。


「じゃあ早速行こうか。よしみんな、走るよ」


 俺は先頭になってすぐに動き始めた。

 正直もう疲れてきているが、委員長の体温を上げるにはいくら走ったって良いはず……。

 そう自分に言い聞かせ、三人を引き連れながら隠れ場所を転々とし、少しずつ目的地である荷物置き場へ近づいていった。

 

「ふぅ、荷物のある所、見えたね」


 江口さんの表情からも少し疲れが見えてきている。


「鈴さん、結構走ったけど大丈夫?」

 

「は、はい……。な、なんとか大丈夫です」


 委員長もあまり表情は分からないが疲れていそうだ。 

 さて、ここから荷物置き場にはあと50メートルもないぐらいだろうか。しんどいけど、なるべく休憩は挟まずにまた動き出したい。……そう考えていたその時!

 

 委員長が自分のポケットに手を入れた!……そこから取り出したのは……ハンカチだ!!これはまさか……!

 

 俺はすかさず宇月さんの顔を見る。彼女も委員長の事に気付いたようで、待ちわびていたハンカチというアイテムが突然現れたことに驚いた表情をしている。

 

 二人で息を呑んで委員長の様子を凝視する。……委員長がハンカチを顔に近づけた。そして白く反射したメガネに手をかける……!メガネは……!メガネは…………!


 ……外さないんかい。


 委員長は片手でメガネを抑えると、自分のこめかみやおでこの部分をハンカチでポンポンと拭き取った。そしてそれをすぐにポケットへ戻してしまった。

 

「いいんちょー、疲れてきたでしょ?め、メガネとか、預かろうか??」

 

「え……?い、いえ、大丈夫です」

 

「そ、そっかぁ〜!え、遠慮しなくてもいいのに〜!」

 

 宇月さん、メガネを取ることに必死すぎて脈絡が意味不明だよ。委員長も困惑しちゃってるし。


「あ、ねぇ松村くん。あの荷物置き場なんだけどさ、周りからよく見えるし結構目立っちゃうんじゃない?」


 江口さんが言う通り、あの芝生は周りに障害物が無い。そもそも宇月さんが何を取りに行こうとしているのか分からないのだが、わざわざ全員で向かう必要はないだろう。

 

「たしかに。あそこはみんなで行くと目立ちそうだね」

 

「それなら松村くん!私と一緒に来てよ」

 

「え、俺?」


 委員長を走らせたいんだから委員長を連れて行くべきでは?口には出せないけど。


「今回は松村くんが必要だからっ、お願いっ」


 "今回は"って、なんて失礼な子でしょう。


「はいはい、分かったよ。早速行こうか」

 

「ありがとっ!」 


 宇月さんは嬉しそうに俺の隣についた。


「ねぇ、荷物までそんなに遠くないしさ、ここから勝負しない?」

 

「え??…………」


 ……冗談だと言ってほしい。

 俺のそんな気持ちが、二人の間に刹那の沈黙を生んだ。

 

「ま、また後でね」

 

「分かった、絶対だからね!!」


 その場凌ぎでしかない約束。俺がこの事を忘れるのには、そう多くの時間はかからなかった。

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