第19話 愛嬌3000%
「あ。そういえばさ、激辛料理って何作ったの?」
「さぁ何でしょう?開けてからのお楽しみだよ」
「……なるほど、そこは2人揃って教えてくれないんだね」
「ふふっ、さては明澄にも教えてもらえなかったんだ?」
激辛料理、何なんだろう。気になる。自分も食べることになっているからなぁ……。
「宇月さんも楽しみにしててとだけ言ってたよ」
「あ〜、あれ、ゲーム性があるからね」
「……ゲーム性?料理に?」
どういう事だ?……でも勝負好きの宇月さんの事だ。何か仕掛けていてもおかしくはない。
「まぁ詳しくは教えてあげないよ?楽しみにしててねっ」
そう言いながら、天羽さんはイタズラに微笑んだ。
「……弁当ってさ、天羽さんはいつも自分で作ってるの?」
「ううん、いつもおばあちゃんと一緒に作ってるよ」
「そっか、それでもえらいよ。俺は料理なんて一度も手伝ったことないから」
「いやいや、私も初歩的なのしかやってないよ。鰹節削って味噌汁のお出汁とったりとか」
鰹節を削る?お出汁をとる?
……料理という言葉を軽々しく使ってしまいすみませんでした。
「……鰹節削るのって、漫画の世界だけだと思ってた」
「え?あはは、今はあんまりやってるお家ないかもしれないね。うちは昔からの習慣だから。でも、そこまで手間をかけると美味しいんだよ?」
「そっか。小さな身体で朝から鰹節を削る天羽さん……。風情があるね」
「もー、ばかにしてるでしょ?」
天羽さんと2人だとこんなに柔らかい雰囲気になるのか。いつもお互い宇月さんに振り回されていたため、新鮮な気分だ。
「そんな大和撫子な天羽さんには申し訳ないんだけど……」
「どうしたの?」
「今から情報収集に行こうと思うんだ。今日のレクレーションの予定とか、一応確認しておきたいから」
「そっかぁ、諜報員に抜擢されてたもんね。……あ、じゃあ私も一緒に行く!助手やるよ!」
想像もしていなかった発言だ。
てっきりこのまま宇月さんを待つと思っていたが、一緒に来てくれるなら俺も嬉しい。
「え?いいの?まだ宇月さんと合流できてないけど」
「明澄ならどこにいても追いついて来ると思うし、メッセージ送っておくから大丈夫だよ!」
こうして俺は可愛らしい助手と行動することになった。
天羽さんがいれば単独での聞き込みより情報収集も捗るはずだ。だって、俺にはない愛嬌があるから。
「よし、じゃあ佐藤先生から聞き込みに行こうか」
「了解!」
佐藤先生は……列の前の方だ。
みんな自由に歩いているためクラスの区切りもよく分からなくなっているが、先生は大体1-Bの先頭あたりにいる。
俺と天羽さんは少しだけ歩くスピードを上げ、クラスメイトたちを追い越していった。
「あ、先生いたよ」
「ほんとだ」
天羽さんが指差す先には、いつものジャージ姿で歩く佐藤先生がいた。早歩きで追いつき、後ろから声をかけてみる。
「先生」
「……ん?あぁ、松岡か」
「松村です」
「お、天羽は可愛らしい頭になってるな」
「えへ、ありがとうございます」
「そういう先生はいつも通りなんですね」
「……松岡、私だって高校生に色目を使うほど切羽詰まってはないんだぞ」
そして佐藤先生はハァ〜とため息をついた後、小さく呟いた。
「でもなんで公園なんだ。出会いがないだろぉ」
「先生、心の声が。早く教師モードに戻ってください」
「しまった。今の発言は校長先生には内緒な」
「……そこは安心してください」
校長先生にそんなつまらない話はできない。
「……ねぇ、蒼汰くん、先生から情報収集しないと!」
無邪気に声を掛けてくる小さな助手のおかげで、俺は自分の使命を思い出した。
「あ、あぁ。そうだったね」
「なんだ?情報収集って?」
「今日、公園に着いてから何をするか聞きたかったんです」
「そういうことか。でも着くまで内緒にするつもりだったからなあ。タダじゃ教えられないなあ?」
なんて大人げない先生だ。ニヤリとしている佐藤先生を放っておき、何かアイデアはないか期待して天羽さんの顔を見てみる。
「んん゙〜〜。……このリボンでよければ……」
天羽さんが苦しそうな顔で自分の頭に手をかけた。
「ちょ、ちょっ、天羽さん、それは貢がなくていいよ」
「え、でも何も持ってないし……」
「せっかく宇月さんとお揃いにしたんでしょ?それに佐藤先生にそのリボンは……」
「おい、続く言葉次第では絶対に教えてやらんぞ」
「な、なんでもないです」
危なかった。
……いや、たぶん爆発しなかっただけで、しっかり地雷は踏んでいる。
「先生、じゃあこれはどうですか?」
俺は自分の背負っていたリュックからアレを取り出した。
「それは?」
「酸っぱいグミです」
「ん、なんだ松岡。意外と私の好みを抑えてるじゃないか」
「松村です」
……奇跡のクリーンヒット。俺は先生に躊躇いなくそのグミを渡した。
「ふふ。条件を飲もうじゃないか」
こうして、生徒からおやつを巻き上げる教師、という構図が出来上がった。……校長案件だ。
「ではまず、午前中に何するかというところから……」
「そうだな。午前はケイドロをする予定だ」
「……ケイドロ……警察と泥棒の、あのケイドロですか?」
「そうだ」
先生は、何も間違っていないぞと言いたげに、自信に満ちた顔で答えた。
「……高校生、遠足、公園、ケイドロ……」
「どうした、もっと喜べ」
「い、いや。き、きっと楽しいと思います」
たぶん、いざやってみると楽しめるのだろう。が、午後にはもっと期待したいところだ。
「チーム対抗だからな。たぶん盛り上がると思うぞ、やったことないけど」
「なるほど。先生のそういうところ、良いと思いますよ」
「ん?あぁ、ありがとう」
チーム対抗か。これは委員長のチームも把握しておく必要があるな。
「で、午後は宝探し的なレクレーションの予定だ」
「宝探し!ワクワクするね」
天羽さんが嬉しそうだ。たぶん宇月さんも揃って同じようなリアクションをするだろう。
「ま、といっても何か景品を用意してあげられるわけではないけどな。クラスの誰かと協力して探すって感じのゲームだ」
「誰かと協力……。それは誰と組むのか自由に選べるんですか?」
「松岡、お前しっかり情報収集してるな。……まぁこのゲームの相方はランダムだな。普段話さないクラスメイトと接する機会にはなると思うぞ」
「そうなんですね」
「……それじゃあ委員長と組めるってわけではないんだね」
天羽さんがいう通り、相方を選べないレクレーションで委員長に接触するのは少々無理がありそうだ。
誠一郎の依頼の件は、お昼までになんとかするのが理想だろう。
「先生、ちなみに委員長は誰と同じグループですか?」
「委員長?鈴のことか?……んー。忘れた」
「そうですか……」
しっかりして欲しいものだ。と言いたいところだが、俺も人のことは言えない。この件は他の人から情報を集めるしかないな。
「じゃあ先生、ありがとうございました。他の皆にも聞いてみることにします」
「あぁ、それがいいと思うぞ。頑張ってな、諜報員くんたち」
「はいっ。……えへへっ」
天羽さんが照れくさそうに笑った。




