第1話 カエルを愛でる女子高生もアリですか
タラララーン♪トゥルルルルン〜♪ タラララーン♪トゥルルル………。
朝のアラームは好きじゃない。どんなに気持ちの良い音楽でも、朝のアラームに設定するとちょっと嫌いになるぐらいだ。そうだこれを「美人とアラームは三日で飽きるアレ」と名付けよう。いや、美人なら何度見ても飽きないか。
寝癖を触りながら階段を降りてリビングに入る。食卓には自分の朝食が盛られた皿と、既に食べ終えた皿が置いてあった。
「蒼汰、今日から高校生なんだから、髪の毛はちゃんと整えて行きなさいよ。……バチッと決めて、彼女の一人や二人、ゲットしてきなさい!」
母親がウインクしながら親指を立てている。
「二人目も認めてくれるんだ、ありがと」
「……もう、バカなこと言ってないで早く食べちゃいなさいよ」
目をこすりながら席につき、用意されていた朝食を食べ始める。
今日は高校生になって初めての登校日だ。持ち物の準備は昨日の晩に済ませてある。
新しい生活のスタートにほんの少しだけドキドキしてしまっているのだが、それをこの母親にだけは悟られたくない。
弁当の準備をしてくれているのをぼんやりと眺めながら、敢えていつも通りのスローペースで朝食を終えた。
初めての登校と言えば、新しい出会いと相場は決まっているだろう。今のところ彼女が欲しいという気持ちはないが、何かを期待してしまっている自分はやはり愚かな男子高校生なのだと自覚する。
家は少し早めに出発した。新しい制服。これまでとは違う登校ルート。
春の優しい風が心地よい。家の塀の上で可愛らしく鳴いている雀のチュン助(いま名付けた)は、なんだかご機嫌なように見えてくる。
いつもより高めの心拍数を気にしながら、俺は一歩ずつ歩みを進めた………………。
「おはよう!」
「……おはようございます」
ジャージ姿で仁王立ちしていた色黒の男性教師に挨拶し、端っこの方から校門をくぐる。
福井県立 生武高等学校
校門には学校名が書かれている。
……そう、もう学校に着いてしまったのだ。ここまで何も起こらなかったんだけど。
登校初日なのに、曲がり角で女子高生とぶつかったり、自転車が壊れて困っている所を助けたり、巨大ウナギ星人と遭遇したり、そういうイベントなかったな。
来る途中に見かけたものと言うと、自分と同じ高校の制服を着た高校生カップル。朝っぱらから腕を組んでくっついてるなんて、見せつけてくれるじゃないか。
それと、道端の草むらにいるカエルっぽい生き物に、しゃがんで嬉しそうに話しかけていた女子生徒ぐらいだ。
田舎の高校生なんてそんなもんだよなぁ。
俺には待ってても青春イベントなんて来ないだろう。特に目標とかやりたいことも無いし、これから三年間、穏やかに過ごすか。
そんな事を考えながら、自分の教室である1-Bクラスに入る。
おそるおそる顔から入室したが、まだ教室の生徒は疎らなようだ。
猫背になっていた背中をスッと戻すと、自然と黒板の文字が目に入ってきた。
"確認して席に座ること!!"
そこにはチョークで大きく書かれたメッセージと、何かの表が書かれた貼り紙があった。
どうやら自分で座席表を確認して座っていればいいらしい。
貼り紙を見ると……。おぉ、一番後ろの窓側の席ではないか。誰が見たってこの席は大当たりだろう。本来、渡辺さんとかが座る席だと思っていたが、担任の粋な計らいなのか、五十音順ではなくランダムで配席されている。
俺は、まだ隣に誰も座っていないことにホッとしながらその席に着いた。
着席して間もなく前を向くと、一人の女子生徒がおそるおそる顔から教室に入ってきた。遠目で見ても美少女だということが分かる。
緊張している様子の彼女は、意を決したという顔で大きく息を吸い込み、頬を膨らませたままぎこちない動きで黒板の方に向かう。しばらく貼り紙とにらめっこすると、スタスタと小さく音を立てながらこちらの方へ歩いてきた。
段々と迫ってくるそれが隣の席に座ったところで、俺は思わず声を漏らしてしまった。
「あっ、カエル………」
彼女は赤くなった顔で返事をした。
「…………ぷはっっ、な、カ、カエル?じゃないっ、ハァ、ハァ、ハァ……」
隣に座った女子生徒は、カエルだった。
いや、登校中にカエルを見つめていた女子生徒だった。
彼女は周囲に気付かれないように、静かに、辛そうに、肩で息をしている。初めての教室に緊張して、席に着くまで息を止めていたようだ。……いやなんでだ。
「大丈夫だよ。教室も酸素あるから」
「……なっ、またやっちゃった!……ハァ、ハァ……」
改めて近くで見ると、とても可愛らしい容姿をしている。艶のある綺麗な髪に、大きな瞳と長いまつ毛。照れるからそんなにこちらを見つめないで欲しいものだ。
「……ていうか、な、なんで第一声がカエルなの」
彼女は恥ずかしうにヒソヒソと問いかけてきた。
「さっき真剣にカエルと会話している君の横を通ったから」
「……いや、あれはちょっと気になっただけだし……。健全な女子高生はカエルなんか好きじゃないし……!巨大ウナギ星人見つけただけだし……!」
「そうか、ウナギ星人だったのか。まさか存在したとは……」
優しく頷きながら言い訳を聞いていると、彼女は急に静かになり、赤みが残った顔で再び問いかけてきた。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は宇月明澄。君の名前はなんて言うの?」
「松村蒼汰。どちらかと言うとカエルは苦手かな」
「う、う、ウナギ星人だって言ったじゃん……。……あ、じゃあ松村くん、今から私と勝負しよう」
え、急だな。俺たち出会ったばかりなのに。
ヤクザでもそんなこと言わないと思うけど。
「……勝負ね。いいけど、何の?」
「イラスト勝負!」
イラストか。正直、絵を描くのは得意ではない。しかし挑まれたからにはノッてあげるとしよう。
「いいよ、受けて立とう」
「よし決まりねっ。じゃあ私が今からウナギ星人の絵を描くから、松村くんがそれを見て上手に描けてるなと思ったら私の勝ちっ!」
「え?う、うん」
……あれ?俺は描かないの?それ、ほとんどただの審判じゃない?
「私が勝ったら、ウナギ星人の存在を認めてもらうからねっ」
「わ、わかったよ」
そう言って宇月さんは自分の筆記用具を取り出して準備を始めた。
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