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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第18話 弁当の等速直線運動

 宇月さん、早すぎでしょ……。


 俺がやっとのことで学校に着き、乱れた呼吸を整えながら教室に入ると、宇月さんは天羽さんの髪の毛を触りながら涼しい顔で談笑していた。


「あ、松村くん、お弁当ありがとね!」

 

「え、明澄、さっき競争勝ったって言ってたけど、ズルしてるじゃん」

 

「ズルじゃない、ハンデだよハンデ〜」

 

「天羽さんもっと言ってやってよ。この弁当揺らさないように走るの大変だったんだから」


 ……にしても本当に大変だった。何か宇月さんの弁当、結構な重さがあるし。

 

「もう、ダメでしょ明澄〜。やっぱりそのお弁当は私が持ってくればよかったよ」

 

「えへへ、ごめんごめん。松村くん重かったでしょ?それ、激辛だけじゃなくて、私のお弁当と友梨乃のお弁当も入ってるから」

 

「そういうことね……。揺らさなくて正解だった」


 

 朝から運動させられて少し疲れてしまった。

 俺が椅子に座って休んでいると、宇月さんが天羽さんの髪の毛をイジり終えたようで話しかけてきた。


「できたっ!友梨乃はいつも可愛いけど、これは特段可愛いよ〜!松村くんもそう思うでしょ!」

 

「え?うん。よく似合ってるよ」

 

「へへっ、あ、ありがと」


 天羽さんは照れくさそうに笑った。

 宇月さんがヘアアレンジしたため、編み込みにリボンが付いた可愛らしい髪型になっている。


「はいっ、じゃあ明澄も座って座って」


 天羽さんは鏡で自分の髪を確認した後に立ち上がり、自分が座っていた椅子に宇月さんを座らせた。

 次は交代して宇月さんの髪型を変えるのだろう。


「で、なんで二人とも髪型変えてるの?」

 

「なんでって、遠足だからだよ?」

 

「……そこにどういう関係が?」

 

「もぅ、松村くん分かってないなぁ〜。遠足って写真撮ったりするんだから、可愛く写りたいに決まってるでしょ〜?」

 

「へぇー。勉強になります」


 これが女子高生の生態か。


「私がやってもらった後、次は松村くんの髪もしてあげようか?」

 

「いや、俺は素材で勝負するから大丈夫」

 

「あはは。蒼汰くんらしいね」

 

「うん、その割には眠そうだけどね」

 

 天羽さんは慣れた手つきで宇月さんの髪を編み込んでいく。同じリボンで、同じ髪型に仕上げているようだ。


「2人お揃いにしたんだ?」

 

「ふふ、そうだよ。やっぱり蒼汰くんもやってみたくなった?」

 

「……天羽さんまでそんな事言って」


 天羽さんが宇月さんの髪型を仕上げたところで、慌しい様子の誠一郎が教室に入ってきた。


「おーい、みんな急げ、もう校庭に集合だってよ」

 

「あ、もうそんな時間なんだねっ。……はい、明澄!ちょうど出来たよ!」

 

「ありがとう〜!松村くんどう?いい感じ?」

 

「え?うん、いい感じだよ」

 

「へへへっ」


 お揃いの髪型、身長差も相まって姉妹みたいになったな。嬉しそうな2人と一緒に、俺と誠一郎も校庭へ向かった。

 

 校庭では俺たちと同じ1年生の生徒が既に大勢集まっている。1−Bのクラスメイトが集合している場所へ合流すると、宇月さんがコソコソと話しかけてきた。


「ねぇ見て、委員長、あそこにいるよ」

 

「どれどれ……。ん?どこ?」

 

「ほら、うちのクラスの人数数えてるでしょ?」

 

「……あぁ、あそこね、いたいた。今日も頑張ってるね」

 

「え?う、うん、そうだね」


 なるほど、あの人が委員長か。

 実は俺は委員長がどの人なのかを今日まで確認してきていなかった。だがそんな事は白状できないので、知っていた風に宇月さんの会話に合わせることにする。


「委員長は今日もすごく前髪が長いね」

 

「何その感想?……あっ、でも松村くん。それいいかもしれない」

 

「ん?何が?」

 

「委員長の髪型、私と友梨乃でアレンジしてあげるのってどうかな?」

 

「明澄、それいいね。いつも同じ髪型してるし、私も違う髪型見てみたいかもっ」


 天羽さんもワクワクした顔で賛同している。

 たしかに委員長は前髪で目元を隠しているので、髪型を変えてみるのも良い作戦だろう。


「ねね、ペン見くんも、可愛い委員長見たいでしょ?」

 

「ま、まぁ、見てやらなくもない」

 

「なんで急にツンデレなの」


 宇月さんにイジられ続けているせいか、爽やか系だった誠一郎のキャラが迷走してきている。

 

 少し遠目で委員長を見ながら作戦を立てていると、全体の出発の合図がかかった。

 これから、歩くにしては長い距離を大人数で移動していくことになる。

 1-Aクラスから順に列を作り、皆友人たちと自由に話しながら進み始めた。


 

「あっ!やっちゃった!」


 俺たちが列に続いて少し進んだところで、突然宇月さんが声を上げた。


「どうしたの?」

 

「大事なお弁当、教室に置いてきちゃった!」

 

「……あ、ごめん私も気づかなかった!それなら一緒に取りに戻ろっか?」

 

「いいのいいの、私が忘れちゃったんだから。友梨乃もみんなと一緒に先に進んでて!私もそのうち追いつくよっ」

 

「そっか、ありがとね。じゃあまた後でね」


 宇月さんは小走りで校舎の方へ戻っていった。

 行く時にグループで行動する必要はないし、その内後ろから追い付いてくるから大丈夫だろう。


「宇月、朝から相変わらずだな」

 

「はは、ほんと、困るぐらいに元気だよ」

 

「蒼汰くん朝から走らされてたもんね」

 

「そうそう。遠足の体力残しておかないといけないのに」

 

「そうだぞ蒼汰〜!運動班、頑張らないといけないからなっ!」


 やる気満々で白い歯を見せている誠一郎を見ていたら、自分が足手まといになる未来が想像できてしまった。

 

 少しの間3人で話しながら歩いていると、誠一郎が後ろから声をかけられた。


「おいっ、辺見!部活の勧誘するんだろ?」

 

「おお!そうだったよな!じゃあ今から他のクラス当たっていくか!」


 声を掛けてきたのは、誠一郎と一緒にバスケ部に入った男子生徒だ。

 今から勧誘って言ったけど、皆に声を掛けていくという事だろうか……?体育会系の行動力、恐るべし。


「蒼汰、天羽、そういうことだから。おれはコイツと勧誘まわり行ってくるぜ」

 

「あぁ、いってらっしゃい。誰か見つかると良いね」


 誠一郎と男子生徒は歩くスピードを緩め、1人ずつ話しかけながら後ろの方へ消えていった。


「辺見くん、何ていうか、すごいよね」

 

「うん。最初はペン回しを極めている(いん)(もの)だと思ってたんだけど。全然違ったよ」

 

(いん)(もの)って、あはは」


 俺と天羽さんは笑いながら歩みを進めた。

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