第17話 身バレにご注意
その日の顔合わせ兼打ち合わせが終わり、それぞれが当日まで作戦決行のための準備を進めていった。
……と言っても、準備していたのは料理班の2人だけだが。
そして、ついに遠足前日の夜。
俺がリビングで明日の持ち物の準備をしていると、凛が不思議そうに荷物を覗いてきた。
「お兄、明日遠足なんでしょ〜?荷物それだけでいいの?」
「いいんだよ、あんまり多いと持って歩くだけで疲れちゃうし。それに男子はこんなもんだから」
凛はふ〜んと言うと、なにやらゴソゴソと棚の中からお菓子を取り出して持ってきた。
「はい、酸っぱいグミだよ。これでお友達いっぱい作ってきてね〜」
「俺もう友達はいるんだけど?」
「まあまあ、持ってたら何か良い事あるかもしれないから〜」
そう言って凛は勝手に俺のリュックにグミを入れた。
お菓子で友達作るって、小学生の遠足じゃないんだから。
「なぁ凛。メガネかけてる人が外でメガネを外すのって、どんな時だと思う?」
「なぁに?その質問。次はメガネ美女なの〜?」
「次はってなんだよ」
質問の意図が気になっているようだったので、俺は凛に委員長の話や当日の作戦について簡単に説明した。
良いアイデアがもらえるなら、妹の知恵も借りたいところだ。
「なるほどね〜。顔を見るために委員長さんのメガネを外したい、と……。それなら、メガネじゃないものに付け替えてもらうとかどう? 例えばサングラスなんかかけてもらえばいいんじゃないかなぁ?」
「たしかにサングラスをかける時って大体メガネ外すか。……って、サングラス持って行くの?俺が?」
「うん。明日は晴れだし、出発の時からお兄がサングラス付けていけばいいじゃん?」
「それはそうだけど……」
遠足でサングラスなんて、そもそも先生に没収されそうではないか。
「悪目立ちしすぎない?」
「それぐらいでいいんだよ〜。いつも眠たそうな顔なんだから、たまにはワイルドにならなきゃね〜」
「なるほど、ギャップ萌えってやつね」
「そこまでは言ってない」
次の日の朝、俺は朝ご飯を食べ終わるとすぐに身支度を終えた。今日は遠足なので体操服姿で登校する。
リュックを背負い、母が用意してくれていた弁当の袋を手に取る。
玄関で靴を履いていると、それに気付いた凛がリビングから見送りに出てきた。今日は朝練が休みらしく、いつもと違って俺が見送られる側なのだ。
「お兄、コレ忘れてるよ〜?」
「あ、え、ありがと」
凛が手渡してきたのは……真っ黒なサングラスだ。
わざと忘れたフリをしていたが、彼女は昨日の作戦をしっかり覚えていたらしい。
「あっはは〜、よく似合ってるよ?あっはは〜」
「……今日友達減ったら凛のせいだからな」
笑いながら手を振る凛を背に、俺はサングラスをかけたまま、行ってきますと渋々ドアを開けた。
……ほう、朝日が眩しくない。視界が薄暗いけど、確かにこれはよく見えるな。
「チュン助、おはよう」
黒サングラスの威圧感からか、塀の上にいた雀のチュン助は、俺の顔を見ると逃げるように飛び去っていった。
……強くなった気分だ。
サングラスの効果は充分実感できたし、もうリュックに片付けてしまおう。こんな姿を誰かに見られてしまう前に……。
玄関前でリュックのジッパーを開けようとしたその時……横から歩いてきた1人の女子高生と目が合ってしまった。
「う……」
宇月さんだ。
……いや待て、今は声を掛けてはいけない。何せ俺はサングラスをしているのだから。バレたら笑われるに決まっている。
幸い、今はサングラス越しでこちらの視線は見えていないだろうし、目元を隠しているため俺とは分からないはずだ。
見なかったことにして、彼女が通り過ぎるのを待とう。
「え!松村くんの家ここだったの!?」
「なっ……」
……一瞬でバレてた。
彼女は驚いた顔で我が家を見上げている。
「宇月さん、よく俺だって分かったね……」
「何言ってるの?見たらすぐに分かるよ。遠足の日なのにそんな眠そうな顔してるの、松村くんぐらいでしょ?」
「俺ってサングラス越しでも眠そうなの」
まさかこのふざけた姿を見られてしまうとは、タイミングが悪すぎる。
俺はサングラスを外し、そそくさと自分のリュックにしまった。
「で、チュン助って誰?」
「なにそれ?空耳じゃない?」
「ふぅ~ん?」
彼女は不思議そうな顔でこちらを見つめている。
「…………ていうか、なんで宇月さんがここに?」
「私の家ね、ここから真っ直ぐ進んだ先にあるの」
「へぇ、そうなんだ。学校から見てほとんど同じ方角だったんだね」
「そうなの!なんで今まで気づかなかったんだろ〜」
ここから別行動をするのもおかしいので、俺たちは一緒に学校に向かって歩き始めた。
「言われてみれば、登校初日に宇月さんを見かけたのもこの道だったもんね」
「……そ、そうだね〜」
「今日はカエル探さなくていいの?」
「……もうっ!その事はさっさと忘れてよっ!」
「ハハッ、それは難しいかも」
膨れている宇月さんを見ると、たまにはこうしてからかうのも悪くないな。
「……松村くん、そういえば何でサングラスしてたの?」
「あぁ、委員長にかけてもらおうと思って持ってきたんだよ。アレ渡したら、メガネ外すかもしれないでしょ?」
「そういうことねっ。グレたんじゃなくてよかった〜」
「そこ心配する?」
サングラス=グレたって式は、今どき成り立たないと思うけど。タモさんに失礼だし。
「宇月さんは激辛料理の準備できたの?」
「もちろんバッチリだよ!ほら!」
彼女は手に持っていた弁当の手提げ袋を渡してきた。
……んー、袋越しに強烈な匂いとかはしないから、とりあえずは安心だ。
「まだ開けちゃダメだよ?何が入ってるか気になると思うけど、お弁当の時間まで楽しみにしててね〜っ」
やっぱり俺が味見するのは決まっているのか。
宇月さんが嬉しそうにしているところを見ると、急に不安が込み上げてくる。
「……よしっ、じゃあ、今日の作戦のためのウォーミングアップということで……学校まで競争ね!」
「嘘でしょ!?」
「よーいどんっ!!」
疑う間も与えず、彼女は両手でリュックの肩紐を握りしめて走り出した。
「ちょっ、弁当!」
俺は後を追うように、自分の弁当と宇月さんから受け取った弁当、2つの袋を持って走り出した。
揺らさないよう、慎重に。何が飛び出てくるか分からないから……。




