第16話 罰ゲームだなんて言わないで
机の上でバラバラになってしまった木のブロックを4人でかき集めていると、誠一郎が嬉しそうに話し出す。
「ついにやっちまったな。俺の番でもうギリギリだったし、危なかったぜ〜」
「ぐぬぅ……もっと早く倒れると思ってたのにぃ」
宇月さんが悔しがりながらこちらを見てくる。なぜ俺を睨むんだ。
「ねぇ、ごめん。ずっと気になってたんだけどね?蒼汰くん、さっきから飲んでるその飲み物は何なの?」
俺が持っていた薄茶色のドリンクを見つめながら、天羽さんは首をかしげている。
「これ?購買に売ってたスパークリングそば茶だよ」
「スパークリング……?そば茶……?」
分かる、分かるよその反応。未知の組み合わせすぎて、一瞬頭がついてこないよね。
「蒼汰、変わったやつ飲んでるなぁ。……あ、そうだ!宇月、ジェンガ失敗しちゃっただろ?罰ゲームでそれを飲むってのはどうだ?」
「えぇ、私そんなの飲めるかなぁ!?」
「明澄、罰ゲームなのにちょっと嬉しそうじゃん」
好奇心旺盛な宇月さんの事だ、本当は飲んでみたいんでしょ。
……ていうか、誰も飲んだ事無いはずなのに、この子罰ゲームにされちゃうの?
「罰ゲームか……。罰とは言ってほしくはないけど、俺はこの子を捧げてもいいよ」
「松村くん。本当はそれ、美味しかったりする??」
「さぁ、どうかな」
宇月さんはゴクリと唾を飲み込み、俺が差し出したスパークリングそば茶を手に取った。
そしてラベルと飲み口をじっと見つめた後、覚悟を決めたのか、ギュッと目を瞑って喉に流し込んだ。
「……うっっっ!!」
「おお?宇月、それはどっちのリアクションなんだ??やっぱり不味いのか??」
「私にはこれは……罰ゲーム……ダヨ……」
やっぱり他の人が飲んでもイマイチなのね。
「明澄すごい顔してるけど……。蒼汰くん、よく何も言わずに飲み続けてたね」
「慣れたら段々飲めるようになってきてね。よかったら天羽さんも飲んでみる?」
「ま、松村くん!だめ!……ゆ、友梨乃が可哀想でしょ!」
天羽さんを道連れにしようとしたが、宇月さんに勢いよく止められてしまった。
「……そ、それに罰ゲームなんだから、私だけが飲まないといけないし!」
ちゃんと自分だけが罰を受けるなんて、意外とルールに忠実だ。
宇月さんは持っていたスパークリングそば茶を俺に突き返してきた。宇月さんが飲んだ直後だし、なんか今はちょっと飲みづらいな。
「よ、よし、じゃあ私の罰ゲームも終わったことだし、ISM作戦の中身を決めるよ!」
そう言うと宇月さんはジェンガをカバンの中に片付け、自分のノートとペンを取り出した。
「委員長の顔が見られるシチュエーションを俺たちで作るってことだよね?」
「その通り!松村くん、何かアイデアとかある?」
「いや、まだ何も考えてないけど。まず顔を見れるかどうかは置いといて、メガネを外してもらうところからでしょ」
「そうだよね〜。メガネを外す……かぁ」
目が悪い人がメガネを外すタイミングっていつだろうか。外にいる時にわざわざ外すシチュエーションとなると……。
黙って考えていると、誠一郎が驚くべき事実を口にした。
「中学どころかクラスもずっと一緒だったけど、あいつがメガネを外してるところなんて俺でも見たこと無いからなぁ」
「えぇ?誠一郎でも見たことないの?」
「えぇ?3年間も一緒だったのに?」
「えぇ?あんなに目で追っかけてるのに??」
「…………おい、宇月。お前の発言だけ引っかかるな」
宇月さんは嬉しそうな顔で舌をペロッと出した。
もう彼女のせいで、誠一郎の委員長への好意が共通認識になりつつある。
「これは、私達が思ってる以上に難しいミッションかもしれないね……」
天羽さんが顎に手を添えながらウーンと考え始めた。
さてはこの子も結構乗り気になってきたな?
「そんな子がメガネを外すとしたら……すっごく汗をかいた時とかかな?」
「さすが友梨乃!それいいヒントかも!」
「たしかに、汗をかいてハンカチで顔を拭いてくれれば、メガネ外すかもしれないね」
「……じゃあ、汗をかいてもらうには……激辛のものを食べさせるとか?!」
たしかに間違ってないけど、なんか斜め上のアイデアだな。
宇月さんはそのまま続けてなぜか誠一郎に質問した。
「委員長って、辛いもの食べられる??」
「いや、俺は知らねーよ」
「……明澄、辺見君はストーカーじゃないんだからね」
「そっかぁ。でもね、好きな人の好みって、知りたくなるものだと思うんだけどな〜」
「ばっ、お前なぁ」
それはあながち間違ってはいないと思うが……。さすがに誠一郎も全て把握しているわけではないだろう。
「辛いもの、俺はありだと思うよ。委員長がどれぐらい食べられるか分からないけど、試してみてもいいんじゃない?」
「そうだよね!松村くんがそう言うなら、久し振りに張り切って作っちゃおうかな」
「え?宇月さんが作るの……?」
「もちろん!心配しなくても、一口あげるよ?」
「あ、ありがと。そこを心配してたわけではないんだけど」
手作りで激辛料理って、加減できるの?大丈夫?
「料理作るのなら、私も手伝おっか?」
「いいの?ありがとう友梨乃〜!」
おぉ、天羽さんが手伝ってくれるならひとまず安心だ。
「何がいいかな〜。麻婆豆腐とか?それともカレー?でも温かいのは無理かな?って、なんか私も楽しみになってきちゃった」
「ふふ、レシピは早めに考えないとだね〜。ちっこいけど友梨乃がいると心強いよ!」
「ちっこい言うなー!」
小さい天羽さんが頑張って料理してる姿……想像するだけでなんかいいな。
それはさておき、このままでは女子2人が頑張るだけで、俺と誠一郎は当日のフォロー以外することがないではないか。
「よし、それじゃあ料理は2人にお願いするとして……俺たちは何かすることある?」
「えっとね〜。遠足の日、午前中はグループで行動するって言ったでしょ?先生は何するか当日まで教えないって言ってたけど、体を使った遊びをするらしいの。だから2人共、運動要員ね」
「おう、それなら俺達に任せとけ!」
誠一郎はギュッと拳を握りしめて反応した。
「……頑張るよ。……で、運動要員って?」
「委員長が激しい動きをするように仕掛ける!で、汗をかいてもらうって作戦」
「よし、分かったぜ!」
誠一郎、そのフンワリとした作戦で納得したんだ。
……まぁ当日何するか明かされてないし、今詳しい作戦を考えるのも難しいか。
「じゃあ私と友梨乃は色々準備しておくよ。松村くんは、当日に情報収集お願いね。諜報員ってことでっ」
「了解。とりあえず委員長の顔と名前を一致させるようにしておくよ」
「もぅ……それ、最低条件だからね」




