第14話 Gの洗礼
俺は宇月さんに言われた通り椅子に座った。……ジェンガが少し揺れている。
「蒼汰、いきなりこの状態からスタートで大丈夫か?」
「うん、頑張る。多少ブランクはあるけど」
「あははっ、蒼汰君、ジェンガのブランクは大体の人が抱えてるよ?」
俺は慎重に木のブロックを突っついた。優しく指でトントンしてみると、すんなり向こう側へ動くではないか。
タワーの揺らぎを気にしつつ、少しずつそのブロックを向こう側へ押し出す。出てきた部分をゆっくりと引っ張り出して……後は上に乗せるだけだ……。
タワーの揺れが収まるのを待っている間、ちょっとした緊張感が漂う。
プシュッッッ!!!
「あっ、えへへ」
なんだ???
隣を見ると……宇月さんがサイダーの蓋を開けたようで、照れくさそうにしている。
おそらく彼女は間など考えていない。ただこのタイミングでサイダーを飲みたかっただけ。……さすがだ。
「ちょっ、明澄、びっくりしたじゃん」
「ごめんごめん。目の前の誘惑に負けちゃった」
宇月さんのおかげ?で、緊張感はどこかへ行ってしまったな……。
俺は手に持っていたブロックをスッとタワーの上に乗せ、天羽さんにどうぞと順番を回した。
「え?もう私の番なの?さっきやったばかりな気がするのに」
天羽さんは険しい顔をしながら、俺と同じやり方で木のブロックを1つずつ調べ始めた。
「そういや天羽さんと誠一郎の挨拶は終わったの?」
「おう、もう終わったぜ」
「蒼汰くんが飲み物買いに行ってくれてる間にね。明澄からバスケ部での話は聞いてたし……。というか元々辺見君とは面識はあったから、ここまでお膳立てされると逆に恥ずかしくなっちゃったよ」
ブロックをトントンし続けている天羽さんの顔が少し緩む。
「あっ、思い出した!」
ここで突然、宇月さんが声をあげた。
「バスケ部で思い出したんだけど、ペン見くん、あの時委員長のこと見てたでしょ??」
「あの時って……フリースローの時か!」
「そう!私は見逃さなかったんだからね〜。ペン見くんがずっと委員長を目で追ってたの」
フリースローの時……というのは、俺と一緒に参加した部活動見学の事だろう。
たしかにあの時の誠一郎はキョロキョロしていて、どこか落ち着きが無かったような気がする。話題にあがっている委員長は……誰だか存じ上げない……。
「あ、もしかして辺見君、委員長のこと……」
天羽さんが嬉しそうな顔でタワーの中からブロック引っこ抜いた。
「ばっ、ち、ちげーよ!近くにいたから気になっただけだ!体育館の掃除してたみたいで、ウロチョロされてたからな、自然に目に入るだろ?……ったく、宇月のせいで天羽まで変なこと言い始めちゃったじゃないかよ」
「ふーん?」
宇月さんは誠一郎の方を見ながらニッと笑みを浮かべている。
天羽さんもフフフと手で口覆いながら微笑み、手に持っていた木のブロックをタワーに乗せ、見事ジェンガを成功させた。
「私の見立てではね、委員長、すっごく可愛い顔してると思うの」
「明澄もそう思う?私もちゃんと顔は見たこと無いんだけど……美人さんだと思うな」
顔が整っているこの二人にそう言わせるなんて、委員長さんはよっぽど美人なのだろう。誰だか知らないけど。
俺は全く会話についていけないので、とりあえず手元にあったスパークリングそば茶の蓋を開けてみた。
……おおぉ、本当にそば茶の香ばしい匂いがするな。
それなのにシュワシュワと炭酸の弾ける音がしている。この不思議な感じ、自分の口に入れることを躊躇してしまう。
俺は好奇心と躊躇いとの間で少しだけ揺れ始めた。さっきから倒れそうで倒れない、このジェンガのように。
「ペン見くんは委員長の顔、見たことあるんでしょ?」
「まぁ。同じ中学だったしな」
質問する宇月さんに対し、誠一郎はジェンガに集中しているためか、真剣な顔で答えた。
「ペン見くんいいなぁ。委員長、何でか分からないんだけど、ずっと顔を見せないようにしてる気がするんだよね」
「たしかにね……。恥ずかしがり屋さんって言っちゃったらそうなんだろうけど、もし理由があるなら私も気になるな」
誠一郎は二人の言葉を聞くと、安全なブロックを探していたジェンガの手を止めた。
「あいつにも色々あるんだよ。……ただ、俺もちゃんとあいつの顔を見たのは随分と前だし、下ばかり向いてないで、もうそろそろ顔ぐらい見せてほしいって思ってる」
「やっぱり好きな子の顔は見ていたいもんね」
「ち、ちげーって!」
赤い顔をしてあたふたしている誠一郎を見ると、俺でも彼の気持ちが分かってしまう。
「何か私たちにできることがあったら言ってね!友梨乃も松村くんも、きっと何でも手伝ってくれると思うよ」
天羽さんがウンウンと頷いている。
「誠一郎のためなら一肌でも二肌でも脱ぐよ」
とりあえず誠一郎に向かって親指を立てておく。さっきから飛び交っている情報は処理できていないが、この気持ちだけは本心だ。
「ありがとなっ。じゃあこの話の流れで、1つだけいいか?」
「おっ、どうぞどうぞ」
「あいつの素顔を見るのを手伝ってくれないか?」
「え?それって本人は嫌がらないのかな?」
天羽さんが心配そうな顔で質問する。
「大丈夫だ。……きっと、多少強引なぐらいでも」
誠一郎は真面目な顔で返事をした。
「そっか、辺見君がそう言うなら、私達は手伝うよ」
俺と宇月さんも合わせてウンウンと頷く。
……そういえば顔が見れないって、どういう事だ?委員長はマスクや眼帯でも付けているのか……?
まぁいいか。
俺は委員長という謎の人物の事……と同じくらいずっと気になっていたスパークリングそば茶をついに口に入れた。
……こ、これは、なんというミスマッチ!!
「じゃあ決行は遠足のときだね。それまでに作戦を考えないと!……ところで松村くん?すごく渋い顔してるけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫。挑戦してみるのは大事だよね」
スパークリングそば茶、リピートは無しだ。
「……で、さっきから話題に挙がってる委員長って誰のこと?」
宇月さんは呆れた顔でヤレヤレと肩をすくめた。




