表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/110

第109話 カエルが好きになれてたら


 民宿に戻ってお風呂に入り、部屋で就寝する時間。

 今日はいろいろあったから疲れたな……。


 布団に入って遠くに聞こえるカエルの合唱へ耳を傾けていると、すぐ隣からガサガサと何度も落ち着かない音が聞こえてきた。

 誠一郎がまだ眠れていないのか、何度も寝返りをうっているようだ。



「どうしたの誠一郎。眠れないの?」


「あ、あぁ。そういう蒼汰もだけどな」


「……まぁね。誠一郎は何かあった?」


「い、いや、なんでもないけどよ……」


「そっか。じゃあまぁとりあえず、おめでとう。誠一郎と委員長はほんとにお似合いだと思ってたから。よかったよ」


「さんきゅ……って。え、な、なんで知ってるんだよっ」


 

 布団からガバッと起き上がった誠一郎。

 焦る彼を目だけで捉えながら、俺は布団から返事をする。


 

「ふふ。やっぱりそうだったんだ。見たらなんとなくそんな気がして」


「ったく。後でちゃんと言おうと思ってたのによ。お前そういうところは意外と鋭いんだな」


「まあね」



 実際に二人の異変に気付いたのは福徳さんだった。

  

 俺はもちろん勘がいい方ではないが、友人二人の変化にも気付けなかったし。

 正直、あまり人のことを気にかける余裕なんてなかった……。



「でも、それで合ってたなら、本当におめでとう」


「おう。……まぁ、ありがとよ」



 応援していた二人の、待ちわびていた朗報だ。


 ……なのに。なぜ自分はもっと大きな声でおめでとうと言えないんだ。


 夜だから……なんかではない。 

 自分の器の小ささがむき出しになってしまったようで、すぐそこにあった木の天井が、今は果てしなく遠くに感じる。 



「……いつかさ、絶対に付き合うだろうなって思ってたけど。こんなに早いとは、びっくり」


「自分のことだけどよ、俺も驚いた。まさかあいつの方から、一歩踏み出してくれるとは思わなかったからよ」


「そっか。委員長、すごく頑張ってたみたいだから。俺も嬉しいよ」



 委員長はずっと前を見て、誠一郎だけを見て、変わろうと努力を続けていた。

 今の俺はもう、背中を押してあげるなんて、えらそうな事は言えない。


 ……明日会ったら、心からの「おめでとう」という言葉だけを伝えよう。  



「ふたり、仲良くね」


「おう、さんきゅ」



 

 "旅のいいお土産"が、自分の物である必要なんてない。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は目を瞑って夢の世界へ逃げていった。




*****


 次の日。

 朝食を食べた後、出て行った宿泊客の部屋の片付けをしていると、ペアになっていた委員長が声をかけてきた。



「松村さん。そういえば昨日の夜中に目が覚めて、なんとなく部屋の窓から外の方を眺めたんです。そうしたら、宇月さんが外の方へ歩いて行ったのが見えて……。何か知ってますか?」


「え? そうなんだ。俺は何も知らないけど」


「そうですか……。じゃあ、もしかして島の幽霊…………」


「いや、幽霊なのに宇月さんて……。普通もっと怖い見た目してるでしょ」


「あ……はは。たしかにそうですよね」



 シーツを剥がす委員長は、パッと見いつも通りで、何も変わりないようだった。


 

「じゃあ、あんな夜中に何しに行ってたんでしょうか……」


「なんだろうね。……あ。ところで委員長。昨日の事、誠一郎から簡単に聞いたよ」


「えっ」


「無事に伝えられたんだね。ほんとによかった」


「あっ……。あの、はい、えへ……。う、嬉しいです」



 いつものように顔を伏せる委員長。

 でも、今日はきっと遠慮しているわけではない。ほんのり赤く染まったその顔が、彼女の掴みとった幸せの尊さを表している。


 

 俺が昨日、誠一郎に心の底から「おめでとう」と言えなかったのは、勝手に自分を横並びにしていたからだ。

 先を走っていく2人の背中なんてもう見えないのに、まだ自分が走り出せていない事ばかり考えてしまっていたから。


 ……でも、同じ土俵になんて立っていなかった。

 自分はただの見物人で、ギャラリーで。

 無理にでもそう考えると、自然に2人へ目を向けることができた。


 だから今は、心からの「おめでとう」を。



「おめでとう、委員長。俺もすごく嬉しいよ」

  

「……ありがとうございます!」



 彼女は目を細めて、眩しそうに笑った。

 


 

「……よしっ、これで君が恋愛マスターだ。俺は自分でこの任を解こう」


「そ、そんなっ。まだ聞きたいこととか、いろいろあったんですが……」


「あはは。最初から冗談だったからね。俺に聞いても経験無さすぎて参考にならないよ? たぶん、どう向き合おうって委員長が悩んでくれてる方が、むしろ誠一郎は嬉しいんじゃないかな」


「そう……いうものなんですかね……?」


「うん。きっとそうだよ。俺、彼女いたことないから分かんないけど」



 「えぇっ!」と目を見開いている委員長に軽く親指を立てた後、俺は洗濯物のシーツを抱えて部屋を出た。




 部屋を出てランドリーの方へ向かっている途中。

 玄関を通りかかったところで、外の方から笑い声が聞こえてきた。


 解放されている玄関から見えたのは、明るい日の光と朝の爽やかな空気。

 そして少し遠くで笑っていた、宇月さんと流星君。



 …………今日も、いい天気だな。



 腕の力が緩まったことで、抱えていたシーツがぐらりと落ちそうになる。


 ……おっとっと。

 危ない、仕事を増やしてしまう所だった。

 


 いっそ痛気持ちいいぐらいに感じる程の胸の疼きを感じ、ギャラリーになった俺は、静かに、自分が向かうべきだった方向に足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ