第10話 オシャレは足元から、蕎麦は福井から
「あ、そ、そうだったね。ペン見くんも来てるんだったね」
宇月さんはおでこに手を当てながら体育館の中を見回すと、すぐにターゲットを見つけ出した。そして、俺に分かるように指2本で彼のいる方角を指した。
「あっ、いたよ!あそこあそこ!」
「どれどれ……。あ、ほんとだ。……ところで宇月さん、その指2本は何なの?」
「え?人の事を指差すの失礼かなと思って」
「……2本ならいいんだ」
気遣いは分からなくもない。ただそのポーズはどう見ても必殺技だ。
ここで先程の体格の良い先輩が笛を吹き、男女混合の紅白戦が始まった。全体を仕切っている様子を見ると、おそらくあの先輩は部長なのだろう。
「あ、ペン見くんも試合出るみたい。私達と違って、ちゃんと体操服着て参加してるもんね」
「確かにもうバスケ部に馴染んでる感じだよね。俺たち置いてけぼりにされてる感、あるね」
「あるね」
辺見君は試合でも積極的に声を出して走り回っている。宇月さんの話のせいでペン回しの印象しかなかったが、見たところアクティブな一面があるようだ。
汗をかきながら頑張っている彼を見て、俺たちは黙っていられず声を出して応援し始めた。
「お、パス来た!」
「いけ!ペン見くん!ダンク!!」
いやダンクは無理でしょ。
「辺見君、シュートシュート!」
「おぉお、決まった!」
「ナイスシュート!」
「ないすないす〜!!」
盛り上がりながら拍手している俺たちを見て、辺見君が笑顔で手を振る。
「……っっ!!こっち気づいてくれたね!!」
俺たちがお互いの顔を見合わせて歓喜の声を上げていると、近くで試合を観戦していた部長が話しかけてきた。
「二人共、辺見君のファンか何かなの?」
「はい、まぁそんな感じです」
「ですですっ」
「そ、そうか。もうそろそろ試合終わるから、良かったらこれ彼に渡してもらっていいかい?君たちも好きにドリンク飲んでいいからね!」
「お気遣いありがとうございます!」
部長はドリンクのボトルとタオルを手渡してくれた。これを辺見君に差し入れすればいいという事か。
ピピィィィーーーーー!!
試合終了の笛が鳴るのに合わせて、俺たちは腰掛けていたステージの縁から降りた。
参加していた部員たちは疲れた様子でそれぞれドリンクを取りに行っている。残された辺見君は周りを見渡してこちらの方を向くと、小走りで駆け寄ってきた。
「2人ともバスケ部見に来てたんだな!」
「そう、運動部も見ておきたいなと思って。ご覧の通り制服なんだけどね」
「そうか〜。じゃあ一緒に練習に参加するのは難しそうだな」
「残念ながらね。はい、これどうぞ」
「どぞっ」
俺が辺見君にタオルを渡すと、横から宇月さんがドリンクボトルを渡した。
「おぉ?サンキューな!……なに? お前らマネージャー志望なのか?」
「……まぁそんな感じです」
「ですですっ」
「あはは、ほんとかよ」
辺見君とは初めて話したが、思っていた以上に気前の良さそうなタイプだ。
とてもペン回しを極めているとは思えない。いや、ペン回しに悪い印象とかないけど。ていうかペン回しの事しか事前情報をもらってないのは、やっぱり良くなかったな。
「辺見君、さっきの試合めっちゃ良い感じだったね」
「そうそう、私たちも見てたらやりたくなっちゃったよ」
「あぁ、ありがとな。そういえば向こうのコートはフリーらしいから、ボールとかリングを好きに使っていいはずだぞ?」
「ほんとに!?……じゃあ松村くん、いっちょやりますか」
「よし、受けて立とう」
俺たち三人は部長に許可を取った後、ボールと一角にあったバスケットゴールを使わせて貰うことにした。
「松村君は気付かないって分かってたけど……。私、今日はここに来るつもりだったから、動きやすいように短い靴下履いてきたんだよ。ほらっ」
「ほんとだ、言われてみれば」
たしかに足元を見てみると、宇月さんはいつもと違い、短くて色付きの靴下を履いている。
わざわざ靴を脱いで見せてくれたその靴下は、全体がグレーで変わった模様をしていた。
「うんうん、オシャレな柄だね」
「でしょ?そばなの」
「……ん?何て?」
「越前蕎麦」
「…………そう。越前蕎麦、美味しいもんね。気に入ったよ」
「へへへ。ありがと。これで足元だけで私を見つけられるでしょ?」
そんなシチュエーションはないでしょうよ。
「……デザイン性も機能性も抜群ってことだね」
「そのとおりっ」
……というかそこまで準備してきておいて、なぜ体操服は持ってこなかったんだ。
「よぉ〜し、それじゃあフリースロー対決始めますか!」
靴下のくだりで完全に辺見君を置き去りにしてしまっていたが、早く会話に合流させないと。
「じゃあ3人で順番にフリースローしていって、先に2回決めた人が勝ちってルールでどうかな?」
「私はそれでいいよ!」
「よし。辺見君もいいかな?」
「あぁ、いいよ。順番はジャンケンの勝った順にしようぜ」
「おーけー!」
ジャンケンをした結果、宇月さん、辺見君、俺という順番になった。シンプルに先に2回決めた人が勝ちというルールなので、順番が後の方が不利になってしまう。
宇月さんはジャンケンに勝って悪い顔で笑っているが、この溢れ出る小物感。なんか勝てそうな気がする。
「そうだ、今回も何か賭けない?」
「おお? 松村くん、ジャンケンで負けてるくせに強気だねぇ」
「ほんとだなぁ。じゃあ……それぞれ紙にお願いを書いて、勝った人のお願いを叶えるってのはどうだ?」
「いいね、ノッた!」
「私も賛成!」
辺見君は体育館の脇に置いてあった自分のカバンからメモ帳とペンを取り出し、それぞれ俺と宇月さんに配ってくれた。
三人で床に座り、それぞれ自分のお願いを何にしようか考える。
既に自分のお願いを決めていた俺が紙に書き出すと、辺見君が驚いた顔でこちらを見てきた。
「早いな。もうお願い決まってるのか?……俺エッチなのはNGだからなっ」
そう言いながら辺見君は両手で自分の胸を抑えている。
「……心配しないで。そんなもったいない使い方はしないよ」
ここで宇月さんが今まで聞いたことのないぐらい低めの声をあげた。
「フッフッフ。私も決まった」
彼女はペンを走らせながらまた悪い顔で笑っている。そして書き終えると、こちらを向いて何度か下手くそなウインクをしてきた。
……うん、なんか勝てそうだな。




