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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第108話 お化けなんて怖くないぐらいに


「ご、ごめんね、ふたりともっ」



 宇月さんはすぐに俺たちの手元から視線を外した。こちらも見られていた事に気がつき、繋がれていた手をサッと離す。



「あ、あの……宇月さん」


「私になんか構わなくてよかったのに。せっかく2人で楽しんでたところなんだからっ」


「いや、俺たちは宇月さんが心配で……」


「も~。2人とも優しすぎるよ。……わ、私は、怖いっていいながらかおりんとのイチャイチャを楽しんでたところなんだよっ。だからこっちの事とか、気にしないでいいって。ハハハッ……」


 

 俺の言い訳を遮り、喉の先から出てきたような声で話す彼女。

 その無邪気を装った崩れかけの笑顔は、また俺たちに背を向け、見えない行き先の方へ戻された。



「さっ、かおりん、続き行こっか。ここから先は私が先陣切っちゃうからね~っ。ちゃんと着いてきてよー?」


「……え?」


「ほらっ、置いてっちゃうよー?」

 

「……ま、待った待った。ま、前は任せたぜ~?あすみんっ」



 振り返ることなく、暗闇にズンズンと進んでく2人の背中を、俺たちはただ黙って見送った──。




 

「ごめんね、蒼汰君……」


「いや、大丈夫。それより怪我とかしてない?」


「うん、してないよ……」


「そっか。よかった」



 

 あの神社から、天羽さんと話したのはたったそれだけ。

 2人を見送った後、俺たちも重くなった足でなんとか歩き出してはいた。しかし覆いこまれるような大きな暗闇の中、懐中電灯の小さな明かりはあまりに心細くて。お互いの顔なんて見れていなかったし、自分の現在地さえも完全に見失っていた。


 天羽さんが言った「ごめんね」の正体も、ほんとのところは分かっていない。それでも、足を進める力を出すのがやっとだった俺は、今からそれを解き明かそうとも思えなかった。

 

 しばらく進んで見えてきたのは、他のグループが持っているであろう懐中電灯の明かり。それは自分たちが迷子のままゴールまで辿り着いてしまったことを示していて、無言で暗闇を歩くことなんかより、ずっと怖くて近寄りがたいものだった。



 

「おう、蒼汰と天羽も、無事着いたんだな」


 

 誠一郎が声をかけてきた辺りで恐る恐るみんなを見渡す。しかし、そこに宇月さんの姿だけがない。


 

「あすみん、ゴールまではちゃんと来たんだけどね。お腹痛くなってきちゃったって、1人で帰っちゃったんだよ」


「そ、そうだったんだ」


「あんなに怖がってたのに、1人で平気なのかな」



 宇月さんがいなかった事に、俺はどうしようもなく安堵した。

 話さなければならないと、頭では分かっていたのに……。まだかける言葉が見つかっていなかったから。




 肝試しを終えた俺たちは、宇月さんだけを放っておくわけにはいかないため、すぐに民宿に向かい歩き出す。


 スズムシやコオロギだけが騒いでいる中。

 また自分の足元だけ照らし歩いていたところ、近づいてきた福徳さんがコソコソと耳元に話しかけてきた。



「ねぇ、そーたん。あの二人、なんかさっきと雰囲気違うと思わない?」


「え?」



 福徳さんが見つめる先にいるのは、先頭で並んで歩く誠一郎と委員長。

 ずっと前を向いていなかった俺は、彼女に言われてようやく二人の方を見る。


 

「……なんか違うかな?」


「うん、絶対ちがうよ。私の勘がそう言ってる」


「後で誠一郎に聞いてみる……。まぁもし何かあったんなら、それは福徳さんのおかげだよ」


「え?私?何もしてないけど?」



 え。あの時のアシストはたまたまだったのか。

 勘が鋭いのかよく分からない人だな……。


 

「にしてもいいよねー。夏休み中に恋愛が進展とか、青春してるって感じ。高校生羨ましいよほんと」


「自分も高校生では……? あと福徳さんなら彼氏とかすぐできそうだけどね」


「なになにー、そーたんもしかして付き合ってくれるの?」


「んー、俺は今忙しいからちょっと」


「ねぇー、もうちょいマシな言い訳してよっ」


「いや、もうちょいマシな誘い方してよ」



 肘で小突いてきた福徳さん。

 カラカラと笑った後、彼女は俺の顔をじーっと見つめてきた。


 

「まぁ、まだ時間はあるからさ、私たち皆の関係なんて、どうなっちゃうか分かんないよね。逆に言うと、どうにでもできるっていうか」


「そう……かもしれないね」


 


 きっと何もしていなくても、時間が自分の気持ちを落ち着かせてくれる。

 しかし、与えられる時間は誰だって平等だ。その間、皆が一緒に立ち止まってくれているとは限らない。

 

 この時の俺は、そんな簡単なことさえ気付いていなかった。

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