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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第107話 「つい癖で」が通用するのは1度まで


「でもあすみん、そーたんも怖いの苦手じゃないと思うけど、私でいいの?」


「え?」


「そ、そうだよ明澄。蒼汰君も頼りになるでしょ? あと私も怖いからさ、この土地のことよく知ってる香ちゃんと行けたらいいなーって思ってるんだけど」



 彼女なりのフォローだろうか。

 おそらく宇月さんと俺をペアにするために、今まで黙っていた天羽さんもここで割って入る。



「え~、私モテモテすぎて困っちゃうぜ~☆」



 両腕を体に巻き付けクネクネしている福徳さんをよそに、宇月さんは天羽さんの方へ一歩踏み出した。

 

 

「ご、ごめん友梨乃……!」



 暗がりから見える彼女の口元。いつも元気な弧を描くそれが、今は弱々しく崩れそうな曲線を作っていた。

 そして踏み出されたはずの足は、何かから逃げるように内側へ仕舞い込まれている。

 

 

「……勝手に決めて悪いんだけどさ。私、かおりんと話したいこともあるから……2人で行かせて?」


「そ、そう……?わかったよ」



 宇月さんは福徳さんと腕を組み、口では「怖い怖い」と言いながら、俺たちから逃げるように暗闇の中へ溶けていった。




*****

 

「蒼汰君ごめんね。また私と一緒で飽きちゃったよね」


「いや、全然そんなこと思ってないよ。でも天羽さん。宇月さんと俺がペアになるように仕向けようとしてたでしょ?」


 

 申し訳なさそうに見上げてくる天羽さんと、夜の林をゆっくりと進む。

 

 

「……う、うん。でも失敗しちゃった」


「いいんだよ、あんなことしなくて。宇月さんも俺とは行きたくなかったみたいだし」


「そ、そんなことないよ……! 香ちゃんに話があるって言ってたし!」


「あんなのただの言い訳だよ」


「そ、そんなことないと……思うよ……」


 

 自分の卑屈な言葉が、励まそうとしてくれている天羽さんまで悲しい顔にさせている。


 

 分かっている。宇月さんに避けられるようになったのは自分のせいだ。あんな態度を取ってしまっては、もう嫌われていたっておかしくない。


 しかし謝らなければという想い以上に、流星君の爽やかな顔が頭を過る。醜い澱みまで包み込もうとする彼の光で、俺の心は焼き消されそうになってしまう……。


 

「……蒼汰君。明澄と何かあった?」


「まぁ、ちょっとだけ……」


「そっか……」


「ごめん、天羽さんにまで」


「えっ、いや、ごめんなんかじゃないよ。でも何があったか話してくれると嬉しいな。私にできることがあったら役に立ちたいし」


「……ありがとう」



 今までの俺だったら、"なんでもないよ"で済ませていたかもしれない。

 でも、この感情の行方が見えなかったから、自分でもどうすればいいか分からなかったから、彼女に話してみることにした。



「実は……俺、宇月さんにひどい態度を──」



 天羽さんは時折頷きながら、黙って話を聞く。

 俺が握っていた懐中電灯は足元しか照らしていなかった。それでも暗闇に僅かに浮かぶ彼女の優しい表情が、自分の心の弁をそっと緩める。



「──そっか、そうだったんだね」



 しかし、話し終えた後、俺は大きく後悔した。

 いきなりこんな話を聞かされて、彼女はどう思うのだろう。仮にも好きだと伝えた相手が、他の女の子の事で真剣に悩んでいるんだ。

 皮肉にも、自分が悩んでいる今の状況そのものが、彼女にとって同じ毒になってしまうのではないか。



「ご、ごめん天羽さん。聞きたくもない話だったよね」


「そんなことないよ。ちゃんと友達のためになれてるんだって思うと、嬉しいよ」


「そ、そっか……ありがと。……でもなんで天羽さんはそうやって笑顔で励ませるの?どうやったらそんなに強くなれるの?」


「えっ、私は強くなんかないよ。前にも言ったでしょ?フラれる前に逃げたぐらいだもん。……私と今回の蒼汰君の状況はね、1つだけ大きく違うと思うよ?」


「え?」


「蒼汰君はね、まだ逃げてない。今まで感じなかった自分の気持ちにぶつかって、闘おうとしてるところなんだよ。ちゃんとその気持ちと向き合えばさ、これからどうすればいいか分かってくるんじゃないかな?」 

 


 自分の気持ち……。

 こんな黒い気持ちに支配されたのは初めてだった。

 でもこの気持ちが生まれた理由、そんなことはとっくに分かっていたのだ。


 俺は宇月さんに謝らなければならない。

 謝って、ちゃんと正面から向き合って、話さないといけない。




「キャーーーー!!」


 

 ───突然、少し先の闇から大きな声が聞こえた。この悲鳴は宇月さんだ。


 天羽さんと一度顔を合わせ、口で合図なんかすることなく俺たちは走り出した。必死に足を運びながら、懐中電灯を握る手に力が入る。


 今回は驚かす役なんていなかった。ただみんな怖がりながら進んで終わり。道中で悲鳴を上げることなんて、何もないはずなのに……。


 

「きゃっ……!」



 すぐ後ろで、ズサッと土をえぐるような音が鳴った。振り返って懐中電灯を向けると、天羽さんが地面に手をついてうずくまっている。



「あ、天羽さんっ、大丈夫っ?」


「う、うん。大丈夫、ちょっと転んだだけだよ」


「ごめんっ。俺が自分の前ばかり照らしてたからだよね」



 後ろを走る彼女のことを何も考えられていなかった。ただ必死に、悲鳴の方だけを目指して突っ走ってしまっていた。


 天羽さんはあんなに健気に励ましてくれたのに。何をやっているんだ……。



 少し戻り、膝をついたままだった天羽さんに手を差し伸べる。


 

「あ、天羽さん、ごめん俺……っ」


「き、気にしないで! そんなことより早く向かわないと……!」



 俺の手を取り立ち上がった彼女と、次はそのまま一緒に走り出す。

 そして声の方へ足を急いだ。早く、早く宇月さんの元へ───。



 

*****


 ハァハァハァ……。


 神社の手前に着くと、宇月さんと福徳さんは一緒に立ち尽くしていた。


 走ったせいで、自分の息継ぎの声がうるさい。

 心臓からドクドク流れる血液が視界を揺らし、こちらを見る2人の落ち着きや、この場の冷たい程の静寂を際立たせる。

 

 

「ひ、悲鳴、聞こえたけど……だ、大丈夫?」


「ま、松村くん……」


「そーたん。もしかしてあすみんの悲鳴聞いて飛んできたの?でもごめんね。あすみん、虫に怯えて声あげただけなの。困っちゃうよね~ははは」



 いつもの宇月さんだったら、「悲鳴じゃなくて発声練習だもん」と言い訳したり、必死に走ってきた俺をからかったり、きっと何かリアクションしていただろう。


 でも今回は違った。

 彼女の視線は、俺たちの手元の方に向いていた。


 ───天羽さんと強く繋がれてしまっている、この手に。

更新が遅れてしまい申し訳ございません。

完結に向けて執筆中ですので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです…!

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