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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第104話 汚れが綺麗になっても、心は……


 ドングリを片付けた後、俺と宇月さんと福徳さんの3人はまた浴室の掃除に戻っていた。

 既に女湯の方は終わらせ、男湯の掃除ももうすぐ完了しそうな状況だ。



「そういえばさ、さっきの流星(りゅうせい)くん、中3なんだって。この辺りに住んでるらしいよ」

 

「おぉ、じゃああすみんの……ていうか、私たちの1つ年下なんだね~っ」


「うん。それで小さい弟くんがいるらしくてね、その子のためにこの民宿の庭にあるドングリを拾わせてもらってたんだってさ」


「へぇ~、健気ないい子じゃんっ」


「そうだよね~」



 宇月さんはボディソープを詰め替えながら、福徳さんは排水口をタワシで磨きながら話す。

 俺もまたデッキブラシを動かしながら、頑固な汚れと静かに戦う。



「あすみんはさ、彼氏欲しいとか思わないの?」


「え、ええっ、なんで急に」


「急でもなんでもないじゃん? あんな運命的な出会いしたら、意識しちゃうだろうなって~。フフフフ」


「そりゃあビックリはしちゃったけど……。り、流星くんだって別に何とも思ってないと思うし」


「いやいや。あの顔は完全にときめいてたよ。恋する男子の一目惚れの顔だったよ。それに流星ちんは可愛い顔してるし、結構アリなんじゃないー??」 


「え、えぇ……そうかなぁ」


「そうだよ~。ねぇ、そーたん。そーたんはどう思った?」



 俺は2人に顔を向けず、デッキブラシで床を磨きながら返事をした。



「そうだね、俺もそう思ったよ」


「"そう"ってどんな?やっぱり恋に落ちてた感じだったよね?」


「うん。あと、イケメンだったし。宇月さんにはよくお似合いだと思う」



 ブラシを握りしめる手に、力が入った。

 

 強く磨いても取れない汚れに、何度も何度も繰り返し擦り付け……。

 ジメジメした広い空間で、自分のブラシが生み出す乾いた音だけが響き渡る。



「……それってさ、どういう意味?」



 宇月さんの方から視線を感じる。

 しかし、俺は床の汚れから目を離さない。


 

「どういう意味って、そのままの意味だよ。美男美女でお似合いじゃん」


「それって顔だけで言ってる?」


「まぁ、顔しか知らないからね。でも優しそうだったし、彼氏が欲しいなら優良物件だと思うよ」



 分かっていた。

 宇月さんは外見だけで判断されることを良く思っていない。

 こんな事言ったって、彼女が気分を害するだけなのに。そんな気持ちとは反対に、自分の口からは嫌味なものばかりが溢れ出た。



「いいんじゃない?狙ってみても」


「……狙うって……私、彼氏欲しいって言ってないよ」


「じゃあ、あっちから来てくれるかもしれないし」


「いや……さっき会ったばかりだし、別に私たちそんなんじゃないよ」


「向こうがどう思ってるかは分からないけどね」


「それはそうだけど…………」

 


 視界の端に捉えている宇月さんは、手元に視線を落とし、そこから何も言い返してこなかった。

 俺も手元から顔を上げる事はせず、無言でブラシを動かし続ける。



「ま、まぁ、せっかく来たんだし、恋愛じゃなくても良い出会いとか、あればいいよね~」



 気を遣った感じの福徳さんが、あははと作り笑いをしながらその場の空気を繋ぐ。



「あ、そ、そういやもう良い時間だね。そろそろアルバイトは切り上げよっか。今日は初日だから掃除だけでいいって言われてるし」


 

 そこから彼女の指示に従い、簡単に片付けをして初日のアルバイトを終了した。




 

*****


「じゃあ18時にここに戻ってくるってことで!」

 


 俺たちはアルバイトを終えた後、分かれていた残りの3人と合流し、民宿の建物の前に集まっていた。

 アルバイトの後は、この島に来たもう1つの理由……鶴子おばあちゃんがもう一度見たがっているお地蔵さんの捜索だ。

 鶴子おばあちゃんによると、お地蔵さんは赤い帽子と赤いよだれ掛けを付けているらしい。よだれ掛けが水玉模様なのが特徴で、やはり場所は全く覚えていないとの事。



「蒼汰君、小春ちゃん、どの辺りから行こっか?」


  

 場所が全く絞れていないし、とりあえず今回はアルバイトと同じ様に2グループに分け、それぞれ自由に捜索をする流れになっている。

 同じグループになった天羽さんが、俺と委員長に意見を求めてきた。



「私、来るときに見えた丘の方が気になってるんだけどどうかな?」


「いいよ、あそこ見晴らし良さそうだったしね」


「私も賛成です。あの場所から他の場所を見渡せば、お地蔵さんが見えるかもしれないですし」


「よし決まりだねっ! じゃあ、早速行こっか!」



 もう1つのグループとは別れ、俺たち3人は丘の方に向かって歩き出す。

 まだまだ暑い日差しがコンクリートを照りつけており、向かう先にはゆらゆらと陽炎が見えている。

 

 丘に向かう上り坂の途中で、委員長が顔を青ざめながら俺と天羽さんを呼んだ。



「松村さん、天羽さん……」


「ん?どうしたの?」


「お化けとかそういうの、得意ですか?」


「え?俺は得意ではないけど、そんなに苦手でもないかな」


「私はちょっと苦手かも……。でも急にどうしたの?」


「実は来るときの新幹線で、福徳さんが今日の夜みんなで肝試ししようと言ってたんです。私、そういうのすごく苦手なので心配で……」



 なるほど、それで聞かれたのか……。

 いかにも福徳さんが提案しそうな案件だ。たぶん"誰かと誰かが良い感じになったら楽しいね"的な軽いノリで言っているのだろう。


 しかし。見たところ委員長は既にかなり怖がっているようだが、思う事がひとつ。

 これって委員長にとっては好都合なのでは……?



「……委員長。俺はさ、女の子が隣で怖がってたら守ってあげたくなっちゃうし、そんなシチュエーションで一緒にいたらドキドキしちゃうと思う」


「そ、そうなんですか?」



 苦手だから怖がるんじゃなくて、誠一郎と良い感じになれるチャンスだと伝えたかったのだが。

 天羽さんがいる手前、"チャンスだよ"などと言えるわけもなく、変に自分の事のように伝えてしまった。



「わ、私……松村さんにドキドキされてしまったら……ど、どうすればいいんでしょう……」



 ……純粋な委員長は、やはり文字通り受け取ってしまうのだった。

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