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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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第102話 真の恋愛マスターこそ多くは語らない


 鶴子おばあちゃんへの挨拶が終わると、俺達は1つの大きめな客室に案内された。どうやらここを自分達の宿泊用の部屋にするらしい。


 そして福徳さんに言われた通り荷物を置くと、彼女は指に引っ掛けた鍵をクルクルと回し始める。



「さぁて、それじゃあみんな、部屋割り決めようか!」


「おっ、さすがかおりん!部屋割りってことは、いくつか部屋があるんだね?」


「いーや、2つだけだゾ?♡」



 回していた鍵を握りしめた彼女は、2つだけのそれを俺達に見せびらかす。


 

「もう1つの部屋はここより小さめだから、2人ぐらいで使ってもらうつもり。だからこの人と2人部屋がいいとかあったら、遠慮なく手を挙げてね♪ 誰かいるー??」



 それを聞いたその他5人のメンバーは黙り込み、もちろん誰1人として声をあげることはしなかった。

 人数比的にもどう考えたって男女で分けるところだし、わざわざ意見を言う必要がなかったからだ。

 そして福徳さんは皆の顔色を一通り眺めた後、ハッハッハと高らかに笑い出す。



「じゃあ誰もいないみたいだし、私、そーたんと同じ部屋にさせてもらおっかな~?」


「え?」

  


 俺と福徳さんが2人部屋?……なんで……?

 

 彼女が再び全員の顔色を伺い始める中、助け船を出してくれる友人が1人だけいた。



「ちょ、おま、そ、それはないだろ!普通は俺と蒼汰が一緒な部屋だろ!」


「あらら、せーちんはそーたんの事が大好きなんだねぇ? その気持ちは友情?それとも愛情……? 私、どうしちゃおっカナー?」


「……なに言ってんだ一体。でも俺は手を挙げるぞ。蒼汰と2人部屋にしてくれ」


「んー、どうしようかなー?」



 また鍵をクルクルと回しながら、福徳さんはねちっこい笑顔ではぐらかす。


 

「か、香ちゃんっ。辺見君に譲ってあげた方がいいんじゃないかな?……2人ともすごく仲良いし!そ、その方がいいかと!」


「ん~」



 ここで応戦してくれたのは天羽さんだ。

 そして彼女が宇月さんにも視線を送ると、宇月さんも同じく加勢してくれた。



「そ、そうだよかおりんっ。松村くんとペン見君って名前で呼び合うぐらい仲良いからさ、同じ部屋にしてあげようよ?……ほ、ほら?2人、一緒じゃないと眠れないと思うし?」 


「え?そんなに?」


「う、うん、実はそうなんだよ!2人の邪魔しちゃ悪いんだよ!」



 ……たぶん福徳さんを引き剥がすためなのだろうが、とんでもない事を言われている気がする。

 なんか怖くて委員長の顔が見れない。

  

 

「……もう、そこまで言われちゃったらさ、私が身を引くしかないってもんよね~。……ま、最初から男女で分けるつもりだったんだけどっ」


 

 愉快そうに手を出してきた福徳さんは、呆れた顔の誠一郎に鍵を渡した。



「最初から潔く渡してくれよ……」


「布団はちゃんとくっつけて敷いておくからねっ!」


「余計な気遣いすぎるわ!」


  



 部屋割りが決まった後は、民宿の中で用意されていた昼食を食べ、早速アルバイトに入ることになった。

 グーとパーで組分けをして、3人ずつ2グループに分かれると、福徳さんの指示のもと作業が割り振られる。


 グループになったのは俺と宇月さんと福徳さんの3人。お風呂掃除担当となった。

 彼女の指示通りにデッキブラシを持った俺は、中くらいの大きさの浴場に足を踏み入れる。いよいよ人生初アルバイト、開始だ……。


 

「そーたん。どう?女湯に入った気分は?」


「いや、べ、別に誰かいる訳じゃないし……」



 浴場に入って早々に茶化してきたのは福徳さん。

 清掃するためとはいえ、本当は赤い暖簾をくぐった時にドキドキしてしまったのだが、そんな事この人に言うわけない。



「そーたんが浴場で欲情しないよう、排水溝の髪の毛の処理とか、そういうのは私がやるね? その間にそのブラシで床ゴシゴシ磨いちゃって!」


「あー、ありがと。……じゃなくて。髪の毛で欲情するって俺どんな人でなしだと思われてるの?」


「いやぁ、ウブな感じなのかなって。どうなのあすみん?」


「え、私?」



 いきなり振られた宇月さんは、補充していたボディソープの容器を傾けたまま、俺達の方へ振り返る。

 


「松村くんは、そうだね……意外と、いろいろ経験してるかもしれないね。私はあんまり知らないけど」


「お、そうなの?私、そーたんの恋愛話聞きたいなぁ~?」


「えぇ……」


「最近なかったのー?告白したとか、されたとか!……あっ、もしかして本当はもう隠れて付き合ってる人がいるとか?!」


「い、いやっ……。そんなのないって」



 俺が首の後ろを触りながら答えると、こちらを見ていた宇月さんが声を漏らす。



「ねぇ、松村くんやっぱり……」


「……ちょちょ、あすみん!手元!漏れてるよ!!」



 いきなり慌て出す福徳さんにより、宇月さんは自分の手元に視線を戻す。

 彼女が補充していたボディソープは、容器の限界を超えてドロドロと縁に流れ出していた。



「あ、ああっ!!ご、ごめん!!」


「んふふ、大丈夫だよ。あすみんはうっかり屋さんだなぁ~まったく」


「ほ、ほんとにごめん!!これもほとんどなくなっちゃったし……」


「いいんだよ、安物だから。あ、でも補充用のボディソープがないからさ、おばあちゃんのところ行って新しいの受け取ってきてもらっていい?」


「分かった!……ほんとごめんねっ。すぐ行ってくる!」



 彼女は作業中だった容器をすぐに綺麗にすると、福徳さんに手を合わせてペコペコしながら浴場から出て行った。

 その丸くなった背中を見送り、福徳さんは俺の方を見つめる。



「……そーたん、やっと2人きりになれたねっ」

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