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ヒロインが勝負をしかけてきた!  作者: ポット


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プロローグ

「松村くん、今日も勝負しよう!」


「よし、受けて立とう」


 放課後。同じクラスの宇月(うづき)さんは、今日も俺に勝負をしかけてくる。


 

「カタカナ禁止ゲームねっ。会話の中でカタカナの言葉を言っちゃダメってやつ!」


「いいよ。なんか賭ける?」


「じゃあ、負けたら……初めて好きになった人を教えるっていうのはどう……?」


「えぇ……? ま、まぁ、いいけど」


 初めて好きになった人……。自分としては思い浮かばないわけでもない。

 ただ、宇月さんの表情を見るに、彼女はどうやら結構恥ずかしい相手を頭に浮かべているようだ。

 そこまでリスクを背負ってくれているなら、こちらとしても手を抜いて相手をするわけにはいかないな。正々堂々、真剣勝負でいこうじゃないか。


 

「よしっ、じゃあ今からスタートね!」


 宇月さんが手をパチンと叩いてゲームがスタートした。


 しかしその合図の後、彼女は一言も言葉を発さない。ただ俺の目を見つめ続け、こちらの様子を伺うだけ。


「う、宇月さん……?そ、そんなに見つめないでもらえる?」


「……え、いやっ、そのっ、別に見つめてたわけじゃないよっ。黙ってれば勝てるかなって、思ってただけだよ」


「そ、そう。それはそれでずるいと言うか、男らしくないというか」


「私は女だからいいのっ。……あ、それなら松村くんは男の子だからさ、男らしく好きなお菓子について語ってもらうおうかな?へへっ」


 彼女はしたり顔で俺が話すように誘導してきた。

 でも、"男らしく好きなお菓子を語る"ってなんだ?

 テーマが全く男らしくない。


「ええ?じゃあ一応話すよ。俺が好きなのは、大福かな。特につぶ餡のやつ。何度か学校に持ってこようとしたんだけど、鞄の中で潰れるからって親に止められちゃって、まだ校内で食べられたことないんだ。だからもう俺の青春は購買の品揃えにかかっているんだよ」


「松村くんの青春、校内で大福食べることなんだ……」


「はい、じゃあ次は宇月さん番ね」 


「わ、私? 私が好きなのは……茶色くて、甘いやつかな……!」


 彼女はカタカナを言わないように警戒しつつ、たどたどしい日本語で答えた。

 

「あぁ、かりんとう?」


「ちっがうもん!もっと可愛いやつ! 板状のやつもあるし、何かにかけたり、何かをつけたりしても美味しいあれだよ」


 分かっている。可愛いかどうかはさておき、宇月さんが言いたいのは恐らくチョコレートだ。

 しかし喋らせてみても、なかなか口を滑らせないな。ここはわざと(とぼ)けて、彼女がボロを出すまで待ってみよう。


「えー、どんなやつだろ。わかんないな」


「あのー、じゃああれだよっ、2月14日によく女の子が渡すやつだよ」


「んー、なんだろ。何も貰ったことないし、知らないね」


「えっ、貰ったことないの? ……それはちょっと可哀想だから、今年は私があげなくもないけど……」


 宇月さんは気恥ずかしそうに俺から視線をそらす。

 

「ほんと? 義理でも何でも大歓迎です」


「いや……。て、ていうか、松村くん絶対何の事か分かってるじゃん」


「ふふ。ごめんごめん。でも宇月さんもなかなかやるね。いつになったら口を滑らせてくれるんだか」


「試してたんでしょ、もう。……じゃあ次は松村くんが喋る番ね。とりあえず、"みかん"って3回言ってみて?」

 

 彼女の口角が少しだけ上がったので、何か企んでいるのは明らかだ。だけどどう考えても"みかん"を3回言っても問題はないはず。とりあえず言うことを聞いて、隙があったら反撃してみよう。


「みかんみかんみかん」


「はいっ、私の勝ち!」


「……え?何が起きたの? 今ので俺負けたの?」

 

「そだよ!私の勝ち!」


「え?どっかにカタカナあった?」


「……はいっ、今言った! "カタカナ"ってカタカナ言った!」


 宇月さんは俺を指差し、満面の笑みで口を空けて喜んだ。

 

「なっ。……なんて小癪な手口だ」

 

「へへっ。悪かったね。今日は賭けたものが重すぎたから、どうしても負けるわけにはいかなかったんだよ。でもちゃんと勝ててよかった。きっと背負うものが大きくなるほど、私は強くなれるんだね」


 腕を組み、1人で目を瞑りながら頷いている。

 なんかカッコいいこと言ってるけど、やり口は卑劣だ。


「よしっ、じゃあ松村くんが初めて好きになった人、教えてもらおうかなっ」


「あんまり腑に落ちないけど。まぁいいか」


「で、だれだれ?」


 彼女は覗き込むようにこちらを見る。

 

「幼稚園の先生だよ。あ、今よりずっと小さかった頃の話だから、これ以上深掘りはできないよ?」


「そっかぁ。幼稚園の先生か」


 期待して目をキラキラさせていた宇月さんは、その言葉を聞いて少しがっかりしていた。


「普通でしょ?よくある可愛らしい話だよね」


「たしかにそうだね。でも松村くん、大人のお姉さんがタイプってことなの?」


「え?どうだろうね?」


 大人のお姉さんなんて身近にいないし、正直分からない。でも全くないとは言いきれないので、歯切れの悪い答えで返事をした。


「じゃあただ年上がいいってこと?」


「いや、そういうわけではないよ」


「じゃあ年下は?」


「今の俺より年下だと中学生だし、ないかな」


「同い年は??」


「それは……て、ていうか、罰ゲームの範疇越えてない?」


「あっ、バレちゃった?」 


 彼女はフフッと控えめに笑って誤魔化した。


 

「ちなみに宇月さんの初めて好きになった人は、誰だったの?」


「私?私は昔の事ってあんまり覚えてないから……」


「うん」


「だからその……」


 なんとなく聞いてみただけなのに、宇月さんは俯いて言葉を詰まらせる。

 そして、こちらを見上げた彼女の頬はほんのり赤く、その小さな手はぎゅっと握りしめられていた。


「……ひ、ひみつっ!」


 彼女がそう答えを出すまでのわずかな時間。心臓の音がうるさくなって、なぜか身体の芯は強張っていた。

 自分は関係ないはずなのに、どうしてしまったんだろうか……。


 

「そ、そっか」


「そ、そうだよ。私負けてないんだから、言わないよ」


 彼女は面映ゆい表情を浮かべた後、持っていた鞄を担いで俺に背を向けた。

  

「あーあ、松村くんに騙されちゃうところだった」


「騙したつもりはなかったんだけどね」


「ふふっ」


 そして彼女は振り返り、可愛く微笑む。

 

「最後まで聞けなかったし、次は、松村くんの好きなタイプを賭けて勝負しようねっ」


「……宇月さん。そこはお互いの好きなタイプを賭けるとこだよ。ちゃんと背負うもの背負ってね」


「え?へへっ」



 

 明日もきっと、宇月さんに勝負をしかけられる。

 でもそんな学校生活も、飽きなくて、悪くない。

 

 これは、そんな勝負好きな宇月さんと出会い、日々戦いながら少しずつ仲を深めていく青春のお話。

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