表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第30冊/2025年上半期(第175-180集)   作者: 自作小説倶楽部
第178集(2025年04月)/テーマ 「私を拒否しないで」
PR
14/26

01 奄美剣星 著 『エルフ文明の暗号文 16』

【梗概】 新大陸副王府シルハを舞台にしたレディー・シナモン少佐と相棒のブレイヤー博士の事件捜査。


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「アラス駅」

    16 拒絶しないでほしい


 翌九日、木曜日。

 レディー・シナモンと私・ブレイヤー博士は、アラスに停車する急行列車〈ラ・リゾン〉に乗るべく、北駅のホームに立った。


「〝姫様〟、またファンがついて来たようだわ」


 ときどき感じる黒い影は、確かに近くにいる。


 荷物は赤帽が運んでくれる。


 そこで、今しがたの黒い影ではなく、フルミ大尉が現れた。


「君達が追いかけている真犯人をつきとめるなんて状況じゃない。――辺境では〝異変〟が起きかけている。アラスへは行くな。無理なら早々に切り上げろ」


「フルミ大尉、その情報って機密事項では? どうしてそんな話を私達に?」

「個人的に貴女のファンだからだとでもしておいてくれ」


 ――ファン? 婚約者が殺されたばかりなのに、姫様を口説いている? いや、かまっているだけ? 人を食ったような物言いだな。


 車掌が行き先を告げて周った。駅員の安全確認の後、〝ラ・リゾン〟は出発した。車窓越しに、ホームにまだいるフルミ大尉が望めた。


 臨時便の兵員輸送列車が通常ダイヤに割り込んでいる。そのため、通常ダイヤそのものが、時間帯にズレが生じていた。乗車した急行列車は、午前六時発だったのが、五時三十分発に繰り上がっていた。


 食堂車〈プルマン〉での食事は七時で、だいぶ間がある。真鍮の手すりがついた側廊のある一等車の小部屋・コンパートメントは六人掛けで、私は二人掛けクロスシートに、レディー・シナモンと並んで座った。


     *


 車掌が食事の用意が出来たことを報せに来た。レディー・シナモンと私・ブレイヤー博士は連れ立って、食堂車に向かった。朝食はクロワッサンに、スクランブルエッグとソーセージ、そしてトマトとレタスを盛り合わせたサラダがついたもので、飲み物は珈琲、紅茶、ミルク、オレンジジュースのいずれかから選ぶようになっていた。

 

 先客がいた。


「あ、〝姫様〟」素っ頓狂な声を上げたのは、雑誌社〝ラ・レヴュ〟特派員コンビのカメラマン、ナバルだった。「ここで姫様達にお会いするなんて、運命的っすよね、先輩!」


 先輩であるサルド記者は、感動の余り、カチコチに硬直していた。

 その先輩に代わって、お喋りなナバルが、状況を説明した。


「俺達、これから前線の取材をするっすよ。もっとも、リールの町で乗り換えて、東部地域に向かうんすけどね」


 サルド記者がナバルを睨んだ。


「あっ、やっぱ姫様達にご同行させていただっくす。――姫様を追っかけると、また面白い事件にありつけそうだ」


 かつてサルドとナバルは〝ラ・レヴュ〟の社命を受け、豪華飛行船による世界一周旅行で、私達と行動をともにしたことがある。――そこで、公にされていないのだが――殺人事件があった。レディー・シナモン少佐は、それまでにも幾つかの事件を解決している。


 食堂車はガラガラだ。

 サルドとナバルは四人用テーブルに移って、姫様と私を同じテーブルに座るよう勧めた。


 シルハ盆地を出た列車は、大聖堂で有名なアミアンへ停車して、さらにアラスへ向けて発車した。


 数キロごとにある踏み切りには番小屋がある。そこには通信式のブザーがあって、列車が通過する度に、前の番小屋前が次の持ち場の番小屋の担当者のところへ、ブザーで連絡するシステムをとっていた。


 急行列車〈ラ・リゾン〉は、アーチ積みをした、赤レンガのトンネルに突入し、轟音を立ててくぐり抜け、葡萄畑、麦畑のただ中を駆け抜け、川や運河に架けられた橋梁を渡った。そうして列車は湿地地方に入った。


 湿地地方は穀倉地帯であり、鉄道網が構築されまでの数百年間、新大陸の随所で掘削されてきた運河があり、そういったインフラを利用した織物業も盛んだ。――そのためか、車窓越しに田園風景を眺めていると風車小屋が増えてきた。


 緩やかに波打った平原。

 丘の上の廃虚化した風車小屋の一つから、ガラス越しに、チカチカと瞬く光が見えた。


「モールス信号のようね」


 私ががそう言うと、レディー・シナモンがうなずいた。


 ――PREZCMRCBABCSDRVFNBBCNAT――


 彼女は、送信されたアルファベットを、素早く野帖フィールドノートに書き留めた。


 列車には、自分につきまとっている、怪しい人物が乗っている。その者へ宛てたものだろうか。――はたまた大戦後に休戦条約が結ばれてはいるものの、諜報戦が繰り広げられている、旧大陸〝帝国〟諜報員に宛てた指令なのだろうか……。


続く

【登場人物】


01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長

04 バティスト大尉:依頼者

05 オスカー青年:容疑者。シルハ大学の学生。美術評論家。

06 アベラール:被害者。ジャーナリスト。洗濯船の貸し部屋に住む。

07 エロイーズ:被害者。アラスの寄宿学校教師。アベラールの妹。

08 シャルゴ大佐:シルハ副王領の有能な軍人。

09 フルミ大尉:ヒスカラ王国本国から派遣された連絡武官。

10 トージ画伯夫妻:急行列車ラ・リゾンで同乗した有名人。

11 サルドとナバル:雑誌社〈ラ・レヴュ〉報道特派員。記者とカメラマン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ