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自作小説倶楽部 第30冊/2025年上半期(第175-180集)   作者: 自作小説倶楽部
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00 奄美剣星 著 『せまるー初夏!』

梗概/社会科教師・吉田兼好と式神嫁猫の日常


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「花婿」

 国道バイパスプロジェクトで、複数の遺跡が調査される必要が生じた。その関係で、たまたま史学科出の社会科教員だった僕は、県教育庁外郭団体である遺跡調査財団に駆り出された。三年の勤務の後、教職生活に舞い戻る。そんな俺の名前は吉田兼好だ。


「兼好、ネクタイがまともに結べなくなっているなあ」


「なら手伝え」


「私、猫だからできにゃい」


 俺には夜叉姫という猫の使神がいる。


 ボロアパート二階・北向きの玄関を出て、階段を降りる。すると駐車場には最近お亡くなりになった、わが青春の中古愛車が、レッカーで運ばれるのを待っている。だから新車が届くまでの一週間ばかりは、第三セクター路線を走る二両連結気動車に乗って、通勤することとなった。


「夜叉姫、別について来なくていいんだぞ」


「だって私、兼好の保護者だから」


「うるせ、化け猫」


 車窓から見える海岸の風景が、板張りの壁、くすんだ瓦屋根の街並みとなり、タール塗りの板張り駅舎・赤煉瓦のホームからなる駅に停車する。改札を出て五分ばかり歩いたところに、県立シオサイ高校がある。


「あっ、猫ちゃん、可愛い!」


 無人改札口を抜けたところで声をかけたのは、四肢の長いロングヘアの女子生徒だった。

待合室の椅子に腰をおろしていた少女が、夜叉姫をなでなでしだした。彼女は松葉杖を横に置いている。二年生で転入して来た生徒で、たしか芳野彩よしの・あやっていったかな。


 芳野に撫でられた夜叉姫が言う。


「兼好は〝吊り橋〟効果というのを知ってる?」


「深い渓谷に架けられた吊り橋が風に揺られている。今にも発狂しそうなシチュエーションなところに男女がいると、連帯感が芽生え恋に落ちるってヤツだな」


「なら、なぜ、あの子を助けない?」


「吊り橋効果説は現在否定されている。それにだな、いろいろと大人の事情があるのだよ」


 夜叉姫は気軽に言ってくれるが、俺のような男性教師が、あんな可憐な少女をお姫様抱っこして、校舎までお連れしろとでも? そんなことをしたら思春期真っ盛りの生徒たちに餌をばらまき、教頭を始め先輩先生方から教育的指導を食らってしまうこと必定だ。


「義を見てせざるは勇無きなり」


 ――なんとでも言ってくれ。俺は一線を引く。


 そんな葛藤する僕の前に、鴨が葱しょってやってきた。二羽もいる。


 路線の空きスペースを利用して、オジイは、向日葵の花壇をつくっていた。

 ブレザー服の生徒たちがそこの横を通って、赤煉瓦ホームの先っぽにある踏切りを渡っていく。校舎はそこから一本道を抜けた丘の上にある。生徒たちの最後尾にいたのが、恋太郎と愛矢だった。

 

「いいところに来た、若人たちよ」


 恋川太郎、略して恋太郎れんたろう、そしていつもつるんでいるのが和泉愛矢いずみ・よしやの二人連れだった。恋太郎は俺と同じくらいの背格好だが、愛矢は長身で頭一つでかい。――バスケ系というか、モデルっぽい牧師の倅だ。


「吉田先生、何ですか?」


「いいねえ、素直なリアクション、お兄さん、大好きだ」


 そういうわけで彼の二人は、ジャンケンをしながら、芳野を負ぶって校門をくぐった。――いいなあ、さわやか青春もんだぜ!


     *


 青い空、白い雲。


 遠くの浜辺で雷のような潮騒が聞こえる。学校は五月連休だったのだが、部活で生徒は来ている。俺はそんな学校を抜け出して、浜辺のベンチで俺が昼寝をしていた。すると、俺の顔の上でピョンピョンはねているヤツがいる。――夜叉姫第二形態〝猫耳ゴスロリ娘〟――フリフリのスカートから華奢な二本の脚が伸び、その奥から下着が垣間見える。


 俺の体はなんて正直なんだ。鼻血が止まらない。


 すると例の生徒三人が楽しげにやってきた。


 夜叉姫が、


 ――すっかり仲良しじゃん。


 脚が治った芳野が、

「あれ、先生、女のお子さんいらしたんですか? 可愛い!」


 しゃがんで、夜叉姫をなでなでし始めた。俺の式神は、ロングヘアの女子生徒にすっかりなついている。


「えっ、女の子?」


 恋太郎と愛矢の二人が顔を見合わせている。――二人は健常者で、式神である夜叉姫が見えない。


 芳野は巫女体質らしく、本人も自覚している。二人の反応を見て、しまった、という顔をしていた。取り繕うように俺が、


「青春トリオども、よかったら昼飯をおごるが、つきあうかい?」


 わーい。


 というわけで、我々は近くのファミレスで冷やし中華を注文した。

 俺の故郷くにでは、冷やし中華にマヨをかける。そうすると、コクがでるのだが、生徒三人は引いていた。


 俺はウェイトレスに小皿を頼み、小分けして夜叉姫にやった。


 ボックス席の横には愛矢が座り、芳野と恋太郎がぴったりくっついて昼飯を食っていたので、この二人は付き合いだしたのかと察した。ところがだ。実際、くっついたのは流し髪の愛矢だった。――自然体というのか、最近の若者はわからんわい。


「ヌシも親爺よのお」


「うるせ」


 そんな俺は二十九歳独身、猫耳ゴスロリ式神のおまけ憑き。

 せまるー、初夏。ああ、なんか哀しい。


 ノート20250109

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