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1000字短編

Indigo sunset 火星における散歩のすすめ

作者: 蘭鍾馗

火星の空は赤く、夕日は青いと聞きました。もし、そこで暮らす人達がいたとしたら、彼らは、毎日どんな思いで、青い夕日を見るのでしょうか。

 本来なら、こんな酸素と電気の無駄遣いは許されない。だが、ここでは三日に一度の散歩が強く推奨されている。


 これをやらないと、ひとは狂うのだそうだ。


 ここは火星。オリンポス山の東麓あたりだ。


 今、この地下に人が居住するためのコロニーを建設中だ。私は土木機械の専門家としてここへやって来た。正直、かなりの難事業である。悩みは多い。



「人の心は宝石のようなものだ。意外に硬くてとても美しいが、衝撃には弱い。もろくて欠け易いんだ。」


 精神科医のアルフォンソが、詩人のような言葉で私に説明する。


「忙しいからと言って根を詰めてはいけない。時々休ませなければ、人の心は君が思っているよりずっと簡単に割れてしまう。ましてやここは火星だ。動き回れる範囲は限られているから、ただ普通に暮らしているだけでも、気付かないうちに大きなストレスが溜まる。だから散歩は大事なんだ。」


「今日は夕方からだね。良い旅を。」


 アルフォンソの冗談に背中を押されて、散歩に出かける。電動車も使用できるが今日は歩いてゆく。時間は一時間半。与圧服を着て地上へ。2km程先の小高い丘を目指す。


 空はまだ赤い。地球とは正反対のvermilionの空。薄い大気に散らばった細かい酸化鉄の粒子が、空を赤く染める。辺りには何もない。当たり前だが山も川も木も建物もない。地形も嫌になるくらい平坦だ。太陽系最高峰のオリンポス山は見えるが、ここからは平べったいパンケーキのようにしか見えない。緩やかな山の形のせいで、ここから山頂は見えないのだ。


 何もないので地平線が良く見える。地平線は緩いが明らかな弧を描いている。地球より小さな惑星だということが、ここにいるだけで実感できる。

 今日は風がないから砂が飛ばない。いい夕日が見られそうだ。


 丘の上の小さな岩に腰を下ろす。

 さあ、何も考えない時間が始まる。


 だんだんと、日が傾いてゆく。

 vermilionだった空が、西の方から少しずつ黄色くなってくる。


 やがて、西の地平線近くに太陽が降りてくると、急に西の空が青みを帯び始める。

 そして、目視できる程に光が弱まった太陽と、その周りの空の色が、深い青に変わる。


 Indigo sunset


 初めて見た時は、なんと恐ろしい光景かと思った。今は違う。美しいと思えるようになった。

 そう思えるうちは大丈夫、心は割れていない。


「そろそろ帰還願います、ミカンヤマ技師。」

 無線が入る。


「了解。これより帰還します。」













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― 新着の感想 ―
描写か上手く火星の美しい夕日の光景が頭に浮かびました。 地球以外での散歩も良いものですね。 ありがとうございました。
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