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第1章 第1節『神秘の扉』

 「AIで紡ぐ」という触れ込みですが、本文は全て人間が執筆しています。各章各節について、AI(GPT-4)に都度感想を求めながら書き進め、また画像生成AI(DALL-E3およびMicrosoft Copilot)により各シーンに適切な挿絵画像を生成しました。物語の発案、構成、および執筆は全て人間によるものですが、画像生成と監修を含めた総体的な作業についてAIとの協業の側面があるため、表記の通りのタイトルとしました。

 遠き古の時代、この魔法社会にとある印が置かれたのだという。それは、世界創造のわざに携わった最初の人々が、その奇跡の終わりを証するために刻んだもので、いまなお、絶えることのない神秘の光を、静かにひっそりと灯し続けているのだそうだ。その場所は、現世と神秘を隔てて隠す濃い霧の中にたたずんでいる。

 さあ、道を求めよ。コイル巻きのその先に座す、約束のお印を探し出せ。神秘に手をかけよ。それは汝に大いなる満足をもたらすであろう。


* * *


「やった!」

 喉の奥を突いてついて飛び出しそうになる歓喜の声を押し殺して、その若いウォーロックはあたりを見回した。あぶないあぶない。ここは禁忌とされる裏路地の法具屋『アーカム』の店先。こんなところにいるところを『治安維持部隊』にでも見つかろうものならたちまち捕り物騒ぎになる。実際のところ、ここは権力の犬どもが手柄を上げようとうろうろしているアカデミーの目と鼻の先なのだ。


挿絵(By みてみん)


 コイル巻きの暗号と呼ばれる複雑な迷路暗号を解き、この街の通りという通りを様々な仕方で歩いてやっとたどりつくことができたのだ。ここで下手を打つわけにはいかない。彼女は息を切らしながらも、最高潮に達するその胸の高まりを必死に飲み込もうとしていた。手の震えを懸命に抑えながら、ドアノブへと手を伸ばす。見たことのない古い錬金金属でできたそのノブは、彼女の興奮とは裏腹に季節外れの冷たさをたたえていた。


挿絵(By みてみん)


 すっと一息ついて、彼女は一気にドアを引いた。その刹那、外の世界とは違う埃と黴にまみれた咳を誘う乾いた匂いが彼女の嗅覚を捉えた。制服の袖口で口元を覆い、彼女は薄暗い店内へと足を進める。店内にこれといった明かりはなく、入り口から一本、埃っぽい道が奥へと続いていた。その両側には見たこともない魔術具や魔法具であろうものが乱雑に積み上げられている。そこらのものにぶつからないよう身体をよじらせながら先へ進むと、一層奥深いところにぼんやりと明かりがともっており、カウンターのようなものの奥にはっきりとはとらえられない人影のようなものが見えた。


挿絵(By みてみん)


 その場所に向かって、恐る恐る足を進める。数ある裏路地の魔法具店の中でも一級と言われるこの店に今いることは、彼女のとめどない好奇心を大いに満たしていた。店主はいったいどんな人物か、今自分はどんな禁忌に触れているのか、その精神はこれから次々と明らかになるのであろう事柄に思いを巡らせることでいっぱいであった。少しずつ、奥のカウンターが近づいてくる。

「いらっしゃい。」

 店主と思しき者の声が聞こえる。店主?ウォーロックの脳裏に不自然な違和感が走った。幼すぎる。ここは政府とアカデミーの第一級指名手配を受ける名うての裏法具屋だ。子どもの声などするはずがない。奥のカウンターに目をやるが、明かりに乏しいその一帯はうすぼんやりで、人影の詳細までは直ちには分からなかった。更に奥へと足を進めた。

「いらっしゃい。」

 再びその声がして、あたりがぱっと明るくなった。その時の光景は今後長らく忘れられないものとなるであろう。目の前に現れたのは齢十にも満たぬ、あどけない少女であった。ブロンドのドレッドヘアで、透きとおるエメラルド色に輝く瞳をもつその少女は静かに語った。


挿絵(By みてみん)


「私はアッキーナ。アッキーナ・スプリンクル。この店の店主です。今日はどのような御用ですか?」

 アッキーナ!?政府とアカデミーの双方が血眼になって探す第一級指名手配犯の、あのアッキーナ・スプリンクルがこの少女だというのか?ウォーロックの動揺をよそに、奥からもう一人の声がした。

「アッキーナ。あまりお客様を驚かせてはいけませんよ。」


挿絵(By みてみん)


 そう言って姿を現したのは、フードとヴェールでしっかりと顔を隠した聡明な口調の女性であった。

「まあ、いらっしゃい。今日はまた随分とお若いお客様ね。驚いたでしょう?でも、この子がこの店の店主というのは本当です。それで、今日は何をお探しでいらしたのかしら?」

「えっと…。」

 ウォーロックは言い淀んだが、居住まいを正して、話し始めた。

「私は、ずっとここに来たかったのです。外の世界では決して見ることのできない数々の神秘的な品々を集めているというこの店に。コイル巻きの暗号のことを知ったときは、胸躍るような心地でした。これでアーカムに行けるのだと。そして、街の通りという通りをその暗号が示すであろう手順で、歩いて、歩いて、そして…。」

 その胸の高鳴りは最高潮に達していた。興奮に押されて、自分が何を話しているのかわからぬままに言葉を矢継ぎ早に紡いでいた。

「あらあら、お若いのにあの暗号を解かれるなんて。あなたはとても優秀なのね。」

 フードの女性は目元に笑みをたたえながらやさしくその言葉を遮った。

「お疲れになったでしょう?お茶でもいかがですか?」

 一瞬のためらいの後、ウォーロックは頷いて答えた。

「アッキーナ、お茶を入れてちょうだい。」

「はい、マダム。」

 少女はそう答えるとカウンターの奥に消えていった。かびた古書が放っているのか、神秘の香りがあたりに充満している。自分を取り囲んでいるその未知の品々が一体どのようなものであるのか、どうしてこうも禁忌とされる物品がここにはあふれているのか、そんなことに思いを巡らせながら、若いウォーロックはあわただしくあたりを見回していた。

「まぁまぁ、時間はゆっくりあるのですから、落ち着いてお掛けなさいな。」

 マダムと呼ばれたその女性が椅子を差し伸べてくれる。彼女はそこにゆっくりと腰を下ろした。

「それで、何か、お探しのモノがあるのかしら?」

「いえ、ただ、とにかくここに来たかったのです。あらゆる秘術が揃うと言われるこの場所に。今、ここにいることがまだ信じられません。」

 そんなとりとめもない言葉を交わしていると、カウンターの奥の扉が開いて、少女が3人分のお茶をのせた大きなお盆を両手いっぱいに抱えて出てきた。

「お待たせしました。マダム。べランドリウムのお茶しかありませんでしたが、それでよろしかったですか?」

 少女がたどたどしく語る。べランドリウム?聞いたこともない銘柄である。お茶であるのかどうかすらウォーロックには判らなかったが、瑠璃色の深い色味と芳醇な薬香を称えるその液体は、何とも興味をそそるものであった。


挿絵(By みてみん)


「それでかまわないわ、アッキーナ。あなたも一緒にいただきましょう。」

 少女は小さく頷いて、ウォーロックが座っているそばに置かれた小さな樽に飛び乗った。

「さぁ、召し上がれ。」

 女性の促しに小さく目礼をして、カップに手をかける。口元までそれを運ぶと香りがふっと強くなった。嗅いだことのあるようなないような不思議な感覚だが、魔法学の講義で扱った東洋という地域の乾燥薬の匂いに似ているかもしれない。ウォーロックはカップを静かに口元に運ぶ。その瑠璃色の液体は、なんとも甘酸っぱい、柑橘類のような味わいに、生姜のような独特の辛みがあった。

「こほこほ。」

 隣で、少女が小さく咳をしている。

「あら、アッキーナにべランドリウムはちょっと刺激が強すぎたかしら?」

「いえ、大丈夫です、マダム。」


「美味しいです。」

 ウォーロックは静かに言った。

「これはどのような飲み物なのですか?べランドリウムという名前は聞いたことがないのですが…。」

「そうね、外の世界では知られていない、もう忘れられた古いお茶よ。葉もこの店に残っているぶんだけしか、きっと残っていないわね。」

「そんな貴重なものを頂いてよかったのですか?」

「ええ、久しぶりのお客様ですもの。もてなすのが私たちの務めですわ。」

 そう言うと、彼女は静かにカップを傾ける。

「せっかくおいでになられたのですもの。お茶が一段落したら、店内をご覧になりません?」

「ぜひ!」

 その瞳に宿る好奇の輝きを一層大きくして、鈴の転がるような声でウォーロックは答えた。女性はソーサーにカップを置くと静かに立ち上がり、手招きしてウォーロックを誘った。彼女はその導きに吸い込まれるようにしてその後についていった。カウンターの奥には更に店が広がっており、初めて目にする、何に使うのかもわからない魔術具や魔法具が所狭しとひしめいていた。

「これがね…。」

 知性をにじませるその声が商品を説明していく。

 生きたまま冥府の門を通過することができるが、うっかりすると自分が幽霊になってしまうかもしれないローブ、強い魔力に応じて敵をひとりでに打ち倒してくれるが、それを使う者を永遠の眠りに閉じ込めるという魔法の剣、天使への信仰を断ち切り、寿命を代償として捧げることで妖精王の力を授かることのできる着衣、健康と引き換えに膨大な魔力を一度に得ることのできる劇薬…、それからどれほどの時間がたったであろう。ウォーロックは神秘の品々について歌うように語るその女性の声に心奪われ、時が過ぎるのを忘れてしまっていた。その店のあらゆる品々が若い好奇心を捉えて離さなかった。全てが魔法の糸、スペル・バインで編まれたという、目に見えないローブをウォーロックが思わず身に付けようとしたとき、小さなアッキーナが慌ててそれを止めた姿はなんともほほえましいものであった。後から聞いたところでは、そのローブを一度身に付けると、永遠にこの世から姿が消えてしまうのだというではないか!

 ひとしきり店内を見て回った後、三人は再びカウンターのある場所に戻ってきた。ウォーロックと女性は椅子に腰かけ、アッキーナはいそいそと奥の台所らしきところに向かって姿を消す。

 まるで白昼夢を見ているかのように神秘の中で陶酔していたウォーロックは、かちゃりとカップをソーサーに置く音で我に返った。

「おかわりをどうぞ。」

 アッキーナが、べランドリウムのお茶を運んできてくれたのだ。カップからは湯気が揺蕩っている。「ありがとう、アッキーナ。あなたもそこに座ってクラッカーでもお食べなさいな。」

 女性の優しい声の響きに、ごそごそとクラッカーの箱をつつく音が続く…。そして、サクサクという心地よい音が店内を包んでいった。


「せっかくここにいらしたのですから、一つ頼まれてくれないかしら?」

 女性がウォーロックに語りかける。

「なんでしょう?私でお役に立てることなどあるのでしょうか?」

「実はね、最近この店に泥棒が入ったの。やってくるだけでも大変なこのお店に泥棒なんておかしいことだけれど、でも本当のことなの。実は、犯人は常連さんなのよ。盗まれたのは『アッキーナの瞳』という、あの子の瞳と同じ色の法石が載った指輪。それは生命の神秘と霊性の安定を司るガブリエルの加護を受けた法石なのだけれど、なんて、アカデミーで魔法を学ぶあなたには今更いうまでもないわね。」

 目元を少し緩めて女性が続ける。

「彼、あぁ、泥棒のことね。彼は、裏取引でその指輪を売りさばくつもりらしいの。でも、実はその指輪はちょっとわけありで、できれば取り返したいのです。でも、アッキーナはここを離れることはできないし、私はこの店とのかかわりを公にはできません。それになにより、このお店の性質上、警察に届け出るなんてできない相談ですから。」

 女性は更に目を細めた。

「それでね、あなたにお願いしたいの。アッキーナの瞳を探して取り返してきてくれないかしら?」

「でも…、私はその男性のことを知りませんから、探しようがありません。」

「それは大丈夫。アッキーナの瞳は、ガブリエルの加護にある法石だから、それが取引されるのは、生命と霊性の安定に関する物品がやり取りされる闇市のはずよ。それがいつ、どこで開催されるかさえ突き止めることができれば、その取引の場に、彼はきっと現れるわ。ほら、最近アカデミーをにぎわしている看護学部の制服の横流しがあるでしょう?それが取引されるのと同じ闇市よ。なにかの手掛かりにならないかしら?」

 ウォーロックの瞳に、俄かに若々しい好奇の色が満ち満ちてくる。


「はい!私にやりおおせるかどうかわかりませんが、看護学部の制服の横流しは学内でもちょっとした問題になっていますから、調べればきっとわかると思います。私も今年初等部の後期課程に進んで、ちょっとした護身はできるようになりました。きっとお役に立てるようにやってみます!」

 その声は意気に彩られ、上ずっていた。

「じゃあ、お願いね。もし困ったことがあったらいつでもここを訪ねていらっしゃい。私はいつもここにいるわけではないけれど、アッキーナに言いつけてくれれば、連絡は直ぐに取れるわ。」

 女性は立ち上がり、奥に向かって進み始めた。

「よろしくお願いね、かわいい魔女さん。」

 そういうと、カウンターの奥の暗闇へ、その姿は溶けていった。


「帰り道は分かりますか?」

 アッキーナが問う。

「コイルを逆順にたどればいいのよね?」

「そうです。それではお気をつけて。」

 そういうとアッキーナは樽から立ち上がり、クラッカーの欠片をぽろぽろとこぼしながらウォーロックの手を引いて出口へと案内してくれた。来た時と同じひんやりしたドアノブに手を伸ばす。静かにドアを押し開け、アッキーナに手を振ると、彼女もまたモミジのような小さな手を振って返した。店を出た時、明日から訪れるであろう新しい生活の変化に、ウォーロックはその胸の高鳴りを抑えることができないでいた。


「これで、つまらないアカデミー生活ともおさらばよ!」

 そう言って、彼女は来たときとは逆に暗号の道順をたどり、アカデミーの宿舎へと帰路についた。


 陽が大きく傾き、魔法の街の石畳を赤く照らし出している。その赤さは、ウォーロックの心のうちに燃える好奇の色と重なるようでもあった。

「明日は早いわ。」

 そう言うと、彼女はアカデミーの門の中へと消えていった。

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