わたしの守り人
───貴女が危険に陥ったとき、この鈴を三回鳴らしてください。必ず助けに行きますから。
それが十年前、二年間勤めていた家庭教師兼護衛のわたしの好きな人の最後の言葉だった。
わたしはあの人が好きだったし別れたくなかったけどお父様が解雇した。理由は一緒にいたにもかかわらずわたしに傷がついたかららしい。
わたしの好きな人は綺麗な茶髪で顔も整っていて、けど幼く感じる綺麗というより可愛い顔の女の人だった。
あの人はお父様に抗議もせずに淡々とお父様の命令に従いこの屋敷のようなでかい家を出て行った。
でも当時を考えれば守りきるのも無茶な気がする。
当時は悲しみで涙が出る訳でも怒りが爆発する訳でもなくただ虚無感に襲われた。
ずっと一緒にいると思ってたから──
ここら一帯には結界が張られているらしい。
今は結界の外は砂漠で『悪魔』と『悪魔の人形』が蔓延る世界とわたしが読んだ本に載っていた。著者は三百年以上生きていると噂で聞いたことがある。
でもわたしはこういうのには興味がなく、ただあの人が話すおとぎ話のような物語が好きだった。でも好きと伝えるとあの人はいつも複雑な顔をしていた。
わたしは解雇される原因となった出来事を昨日の事の様に思い出す。
あの人の名前は遥華と言った。
ある日屋敷のような自分の家に『悪魔の人形』が入り込んだ。
その『悪魔の人形』は付近の悪魔を討伐し結界の扉が開いた時に侵入したらしい。結界の扉を開けた人たちは無惨に切り裂かれ押し潰され原型が留めていなかったって後から知った。
家に侵入するも家のセキュリティーが起動して当時のわたし達は部屋から出ることができなくなった。
どうしようと慌てているわたしに遥華は大丈夫と背中を優しく撫でてくれた。
待っていると足音が聞こえてわたしは内心助かったと喜んでたけど遥華は険しい表情をしていて首を傾げてたらドンっと無理矢理ドアを開こうとする音が聞こえた。
お父様はそんなことするはずがない! と思い違う人だと遅れて気付いた。とても怖くて遥華の袖を掴んでたのを覚えてる。
やがてドアは開き、姿を現したのは『悪魔の人形』という化け物だった。
わたしは怖くて遥華の顔を見た。
遥華は表情は変わってなくてただ化け物の顔を見据えていた。
次の瞬間左腕に少しだけ痛みが走った。
痛っと声を出してしまい、遥華はすぐに心配する声が上がった。大丈夫って言ってもまだ心配する。当時の事情を知らなかったわたしは大袈裟だと思ってたけど今考えればどうしてあんなに心配したのかがわかる。
遥華の視線は『悪魔の人形』に移る。移る直前に遥華の眼が変わった気がした。
わたしが瞬きをしている間に人形が肉塊になっていた。
傷の手当てをして暫くしたらお父様が来た。わたしの傷を見てお父様は遥華を睨み大きな声でクビだと言った。
お父様も心配してくれたけどあの声を聞いた後での大丈夫か? という声が恐ろしく感じた。
そして次の日に遥華がわたしに鈴をくれて。そのあとすぐに遥華は屋敷を去った。
軽い怪我をしたり会いたいからと鳴らそうとしても鈴は鳴らなかった。わたしは疑問に思いながらも遥華の言う通り常に持ち歩いてた。
そして十年の間に貿易の為に父は遠征に行き、その道中で襲われて亡くなりわたしは一人になった。
わたしは父の仕事を受け継ぎ、父と同じく遠征に行くことになった。主人自ら行くのはおかしい気がすると思いながらも信頼の為に部下と一緒に結界の外──砂漠の中を歩いた。
しかし帰り道に悪魔と会ってしまった。
わたしを護衛してくれた人はすぐに亡くなってしまいわたしは一人になってしまった。
あの頃とは違い恐怖というものを知っているわたしは砂の床に座ってしまい震えて動けなかった。
チリン
すると鞄に付けていた遥華から貰った鈴が勝手に鳴った。
耳心地のいい音色に緊張の糸が解れる。
チリン
だけど脅威は迫って来る。
悪魔の持っている棍棒が振り下ろされる。わたしは怖くて目を瞑ってしまう。
チリン
三回鈴が鳴った。
そして振り下ろされた棍棒はキンッと鳴り、わたしではなく別の何かで受け止めたらしい。
そして聞いたことがある声がした。
『約束しただろ、必ず助けに行くって』
声が聞こえた。
当時と違い少し乱暴な口調だったけど間違いない。
目を開くと砂色のマントを纏い明るい茶色の髪が特徴だった少女──遥華がいた。
棍棒を受け止めていたのは刃が黒く細い剣だった。
そして棍棒を受け止めている剣で強引に押し弾き飛ばす。
棍棒が飛ばされ、少し怯むけど悪魔はすぐに立て直すけどその間に悪魔が無防備になったお腹を遥華は蹴って距離をとる。
「色々言いたいことはあるけど……」
チラッとこちらを見た遥華は当時の幼い顔立ちと同じで変わってなかった。
剣を握り締めて横に振るう。
そして人間の脅威である悪魔を簡単に殺してしまった。
その姿にわたしは本に載っていた『悪魔殺し』という単語が脳を掠める。
悪魔を恨み、悪魔を殺戮すると本に載っていた。だけどその恨んでる様子が見えない遥華は『悪魔殺し』じゃないと思う。
悪魔が本当に死んでいるか確かめ、身体ごとわたしの方へと向く。
当時と姿形が変わっていない遥華は当時と同じく優しい表情をした。
「お嬢様、成長しましたね」
その言葉にわたしは緊張の糸が途切れ、遥華に抱き着いてわんわんと泣いた。
ああ、この人は遥華だ───
そう思いながらわたしは力一杯抱き締めた。
そして帰り道は遥華も一緒についてきてくれてわたしは遥華の手を握り締めた。




