遠い昔話
その日は、織姫と彦星の結婚式でした。
十二星座たちは、姫様たちの護衛を務め、誓いの言葉まで進めることが出来ました。
しかし、異変が起きたのです。
式場『ミルキーウェイロード』に、黒い闇が現れたのです。
その闇は一瞬にして式場全体に広がりました。私たち十二星座たちは全ての力を出し、姫様たちを守ろうとしました。ですが、私たちの力では敵いませんでした。
せめて姫様たちでも、と考え姫様たちを青い星チキュウへ翔ばしました。十二星座の六人がすぐさま後を追いましたが、残った私たちは闇に覆われ、あんな姿に…。
「…そんな」
まだ、苦しめられている人たちがいるというの?
夢で見たあの光景を思い出す。
みんな前世の私を、温かい瞳で見守っていてくれた。
…絶対に助けたい。
「俺らの姫はあいつらを助けたいと思っているぞ」
驚いて目を見開いた。
「…また私の心を読みましたね?」
「顔に全て出ているんだよ」
フタカとフタバの記憶が蘇っている中、何度も私の心を読む出来事が起きていた。
ペタペタと顔を触っていると、フタカに手を強く掴られた。
「フタカ?」
「…姫様は、他の十二星座を本気が助けるつもりですか?」
私を見る瞳が、恐怖に揺れている。
「私たち以外の十二星座は、私たち以上に強い力を持っています。姫様がまた、危険な目に会うかもしれません」
そっとフタカの手を握り返した。「大丈夫だよ」という気持ちを込めて。
「私には、こんなにも心配してくれる友だちがいるんですから」
「だから、大丈夫です」と安心させるために笑顔を向けると、目を丸くされた。
するとプッとフタカは吹き出して、お腹と口に手を押し当て、笑いを堪えていた。
フタバは「…まじか」となぜか顔に左手をやり、深いため息をついていた。
「え、私、何か変なこと言いましたか?!」
「これは一本取られましたね、お兄様」
「うるせぇよ」
あたふたと宙に手をさ迷わせていると、ガシッとフタバに握られた。
「大丈夫ですか、顔が」
「赤いですよ」というはずが、フタバの顔を見ると、言葉が喉に詰まった。
…覚悟を決めた顔だ。
ゴクッと緊張して唾を飲み込む。
「姫…いや、マコ・ミルキーウェイ。俺と」
「はーい、もう宇宙に帰らなくてはいけませんよー」
「は?!」と声をあげるフタバの腕を引っ張るフタカ。
そのまま壁まで行くと、近くにあった人一人通り抜けられる窓を開けた。
…まさか!
慌ててベッドから降りて二人のもとへ向かって走ると、二人は既に飛んで窓から出ていた。
空は、二人を出迎えるような快晴だった。
「待って!」
飛んで行く二人に手を伸ばしながら叫ぶと、二人とも振り返った。
その瞳は、夢で見た瞳と似ていた。けれど、どこか違う。
「姫!俺たちは宇宙に戻り、姫が守ってきた平和を取り戻してやる!」
「これから、闇に覆われた他の十二星座たちがやってくるかもしれません!」
「けど、姫なら大丈夫だ!」
「姫と共にこの地球で生まれ変わった六人の十二星座たちを見つけてください!」
「彼らなら、きっとどんな時も姫様を助けてくれます!なぜなら!」
その言葉を言い終える前に、二人の姿は空に消えた。
…一番気になる言い終わりかただった。
けれど、私がするべきことは見つかった。
闇に蝕まれた五人の星座を助けることと、六人の星座を見つけること。
「頑張るぞー!」
空に向かって拳を向ける。
けれど、もやっとした違和感があった。
…何か、忘れているような。
「お、織姫…」
「ああああ!」
私の隣のベッドで、しおれたおじいさんの声が聞こえてきた。
デネブさんのこと、すっかり忘れていました!
「それにしても、本当に姫様とそっくりでしたね」
「前世が姫だから似てて当然だろ」
「…お兄様も、永遠の友だちという関係ですね」
「…俺は、あいつが幸せに生きていてくれれば、それ以上は何も望まない」
「…それは、十二星座みなが思っていますよ」