七夕
長い夢を見た。
それは私の姿をしていて、私ではない。
たくさんの人たちに囲まれて、隣にいる人は私の姿をした人の手を優しく包み込んでいる。
ずっとここにいたい。
そう願わずにはいられない幸せな夢だった。
「まこー!」
一階から叫ぶ図太い父親の声が、二階の自室にまで届いた。
「今日が七夕だからって、夜更かしはするなよー」
「はーい!」
望遠鏡を覗きながら一階にも聞こえるように、返事をする。
まこの視界に広がるのは、白く輝く無数の星たち。
あの綺麗な星たちがたくさん集まって、彦星と織姫の出会いの橋になっているんだ。
一つでも欠けてしまえば、きっと橋は壊れてしまう。
みんな、彦星と織姫のために輝きを解き放って橋を繋げている。
隣に飾ってある笹の木に、吊るしているピンクの短冊。
『彦星と織姫に会えますように』
(私も一度は、みんなに愛されている彦星と織姫に会ってみたいです)
今頃、彦星と織姫は天の川で幸せな時間を過ごせているのかな。
「まだ起きてるのか?」
やはり自分の父親だからか。
まだ眠っていないことに気づいていたらしい。
(そろそろ寝ないとさすがに叱られますよね)
時刻は新しい今日になったばかりだった。
「もう寝ますよ。おやすみなさい」
「おやすみ」
扉の下からもれていた光が、パチリと一粒も残らず消えた。
お父さんが階段の電気を消したのだろう。
望遠鏡から顔を離して、ベッドへのろま足でゆっくりと向かう。
(もう少しだけ、天の川を眺めたかったです)
しょんぼりと悲しんでいると、「ブーブー」とベッドの上に置いていたスマホが激しく振動していることに気がついた。
「電話?!」
慌てて駆け寄り、スマホを手に取った。
画面を見ると、『ハッピーバースデー』というLINEが数件送られていた。
(明日、お礼を言わないとですね)
そう思いながら、バサッと布団の中へ潜り込んだ。
(今年で十六回目の七夕です)
今日、私は十六歳になる。
数年前までは女性の婚約が許されていたけど、今の時代は男女ともに十八歳からとなっている。
まだ焦らなくてもいい。
しかし!
(私だって女の子です!)
彦星のような素敵な殿方にお会いして、素敵な恋愛をして、幸せな家庭を築きたい。
そして…。
ベッドのすぐ横にあるベランダ。
そこからよく見える天の川を眺める。
(私にも、織姫や彦星のようなたくさんの友だちが欲しいです)
いや、嘘です。たくさんじゃなくていい。
ただ、変わらず側にいてくれる。
そんな人たちに巡り会いたい。
(こんな願い、何にもない私に叶うはずありませんよね)