episode_I 屍行進
不気味なほど静けさが目立つ霧の街。その中を2つの足音が駆け抜けてゆく。
「先へ行きなさい。お姉ちゃんはあのゾンビ達をやっつけて追いつくから。ね。」
「嫌だ、嫌だよ姉ちゃん…」
そんな会話が終わると足音はひとつになった。少年は逃げ続けていた。逃げても逃げても屍は追ってくる。軈て息も荒くなっていった。いつの間にか振り向くと屍の群れの先頭に見慣れた姉の顔があった。
「うぅ…姉ちゃん…やだ……あ。」
少年ひとりがギリギリ隠れることの出来る物陰を見つけ、身を潜める。じっと目を閉じて足音が過ぎ去るのを待つ。
「目を開けて。ゾンビは行ったわ。さ、早く逃げるのよ。」
「姉ちゃん!!」
姉の声に嬉しそうに目を開けるとそこには…
ゾンビがこちらを見ていた。
「ああああああああぁぁぁ!!!!」
ーーーーーーーーーーー
「まさか一切目を開けない理由にそんな過去が…」
「うん、こうなったら怖いからってゆう作り話だけどね」
「は?」「は?」
こうなったのは約30分前。俺が1人でこの路地裏に体操座りで隠れている所、いきなり見知らぬ女の子が話しかけて来たところからだ。ナンパかな?とか思いつつ目を開けようとした。開けようとはしたのだが出来なかったのだ。考えても見てよ。こんなゾンビシティにカワボの女の子とかいる訳ないよね?新種のゾンビとかだと思うの。目を開けた瞬間、こわーいゾンビが…って!
眼を開けないことを指摘されたので全く同じように言ったらブチギレられた。ちゃんとわかってもらえるように例え話を話したら「は?」とか言われちゃった。てゆー感じ。
「…とにかく、回り道をしてでもいいから王都行ってゾンビ蹴散らしちゃいましょう…!」
「いや流石にゾンビ蹴散らすとか無理くない?」
「は?」「は?」
話してみると柚(この世界に漢字とか柚とかあるのか?)と名乗る女の子は多分俺を探していたみたい。確かに言われてみれば王都制圧作戦は三人で とか言っていた気がする。いやでも今安心して目を開けたらゾンビかもしれない。そう思いつつあったが俺は彼女の話に耳を傾けていた。
「というかもう一人いるはずですよね?魔術師さまはどこに?」
やっぱアイツの事きかれるよね…黙ったままじゃあれだし言わなきゃか…
「ああ、そのことなんだけど実は…」
≪がぐぁぁあああああ!!!≫
突然耳を切り裂くような咆哮が俺の声を遮った。多分声からしてあいつらだ。柚の武器を構える音が聞こえる。
「さっきのホードスだ…!転生者さま、武器を構えて!」
そういわれ立ち上がったもののゾンビの声で忘れようとしていたものがフラッシュバックした。
真っ赤な血。守れなかった屍。焼けつくような生臭いにおい。そしてあのアイツの声。
「む、無理だよこんな数…!い、一旦退いて…」
「この数じゃ逃げたって追いつかれますよ!それに…!」
「それに、この人たちだって元は人間だったんですよ!今だって腐りつつある体に苦しんでる!人間に戻せないのなら早く楽にしてあげなければいけないでしょう!」
最初、俺は何を言っているんだと不覚ながら思ってしまった。しかしすぐさま彼女の心の広さに気付かされた。俺は何をしてきたのだろうか。口を開けば自分のため、怖いからと逃げてばかりだった。あの時もそうだ。彼女は全人類のために今戦っている。今、俺がやるべきことは。彼女のため。みんなのため。アイツのためにもやるべきことは。
「きゃっ…!」
柚の小さな悲鳴が聞こえた。そこへゾンビが集団で襲い掛かろうとしている。
「六ツ目の感覚。」
転生時にもらった6つ目の恩恵スキル。目を閉じていてもわかる。光はもちろん、温度、空気や風、音と振動、意識まで。すべての微々たる差が脳みそに流れ込み今の情景を映し出している。
…………といってもここから先はあんま覚えてないんだよねぇ…目の前の現状がちょっと…あれで。
ホードスを全部倒したと思って武器をしまおうとしたら
「転生者さまっ!後ろっ!」
振り返るとホードスが噛みつきに来たが柚の応撃によって こときれた。
「ありがとう。これで本当に全部だよね…?」
そう言って顔をあげると…
耳。猫と狐を混ぜたような獣耳が生えていたのだ。そして滑らかな siri ウ"ゥン! …腰からはふさふさの尻尾がぶんぶんと揺れている。ずっと目をつぶっていたから今知ったのだ。彼女が美少女で獣人で極度のツンデレであることに。
「そうですね…!でも今のでおあいこですよ…!私だって最初のほうはゾンビ倒してましたし!貸し借りとかないですからね!」
そんな言葉とは裏腹に尻尾は高速で右,左と往復している。犬はうれしいと尻尾振るがこの世界ではどうなのだろうか。
「さ、さぁ早く王都へ向かいましょう!」
顔赤いのをばれないようにか先を歩く柚さん。何故か加虐心が沸く。
「あのさぁ…俺目ぇ怖くて開けられないから手ぇ引っ張ってくれない…?」
「は、はぁ!?目開けれないって!もう!」
ばっちり目は見えているが恥ずかしがる柚の手をちゃんと握りました。めっちゃあたたかかったです。
こんな雰囲気だったからか俺は気付いていなかった。ゾンビホードスの中にアイツがいなかったこと。そして何かを引きずる音がしたことに。
【第ニ回!ユーズの「目のゾン」用語解説!】
ど、ども…ユーズです。今回も引き続き用語解説していきます。
Q,「六ツ目の感覚」とは?
転生者さまが貰った恩恵スキルの事です!詳しい説明を聞こうとしてもすぐ話しそらすんですよ…?
ちょっと不思議な気持ちです。べ、別に助けてもらったことに感謝しているだけでもっとあの人のことを知りたい とかではないですよ!?
…あぁ~っと実はスキルというのは生まれたとき一つ神様にもらうのですが、転生者さまは六つ目ということからもいくつも恩恵としてもらったみたいです!ちなみに私のスキルは…秘密です!
…えーと、それでは今日は此処まで。また次の「目のゾン」でお会いしましょう!