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まことに小さな島の旅行


 愛媛は7年ぶりに行きました。


 師走を物語る木枯らしに吹かれながら喫茶〇メダへ向かうところから私の1日が始まった。いつも注文するメニューは決まっている。モーニングセットのイチゴジャムを塗っている食パンとゆで卵が付いたミルク抜き〇メダブレンド、デザートのハチミツが入ったヨーグルトだ。


 イチゴジャムに変えて貰う事を忘れてしまい、結局、バターが塗ってあるパンを食べた。別段、ジャムでなければならない拘りは持っていない。悠長に読書しながら朝食を取る余裕が無く、やや急いで済ませてから県庁所在地の名前を冠する駅へ行った。


 到着した頃には乗る予定の特急列車の出発時刻まで10分を切っており、何とか乗り遅れる危険を解消する。人生の中で1番失敗した経験は予定していた時刻の電車へ乗り遅れる事だ。こればかりは年を重ねても常に失敗する可能性があった。


 交通事故や糖尿病患者の数が多く、1日1時間しかゲームが出来ない条例を制定したまことに小さな県(香川県)を約1年ぶりに出る。この県はうどん屋がコンビニの数より多いといわれているうどんの代名詞となっていた一方、水不足に悩まされた歴史もあった。


 それを解消するため、ため池を作ったり、隣県の高知県の早明浦ダムから水を引いて確保している。早明浦ダムの貯水率を所有物のようにニュースで報道する厚かましい県民性を先人は見抜いたのか、女木島は『桃太郎』で鬼が住む島と描かれていた。


 早明浦ダムの貯水を容赦なく使い、うどん作りを行う横暴さはまさに鬼だ。愛媛行きの特急列車へ乗り、途中の駅で中学生時代からの友人と合流した。気づけば旅行に行くような間柄は彼しかいない。


 今回の日帰り旅行は鯛めしを食べたり、『坂の上の雲』ミュージアムや道後温泉へ行く。友人が以前に計画表を作っていた。列車の中でしばらくファシズムとフィロソフィー(哲学)の関係性や社会体制の話をする。こういった話は普段、なかなか出来ない。


 1時間後に松山駅へ到着して、最初の目的である鯛めしを食べに行く。昼時という時間帯のせいか、街は賑やかだった。友人が松山鯛めし膳を注文し、私は宇和島鯛めし膳にした。鯛そうめんと迷ったが、麺類はすぐ空腹になる。


 いざ食べてみると、鯛を白身魚程度にしか思っていない私ですら美味しいと感じる天ぷらや鯛めしで正直、驚いてしまった。食事の後は電車に乗り、大街道へ向かう。距離にかかわらず1律180円はとても便利だ。その反面、電車が信号機で停止する変わった光景を目の当たりにする。


 『坂の上の雲』ミュージアムは興味がある人間にとってかなり貴重な資料を見られる場所だった。この作品は、日本が西洋と肩を並べる近代国家へなろうとした激動の時代を軍人の秋山兄弟、詩人の正岡子規の視点から描いている。


 司馬遼太郎が執筆に使った原稿用紙や作品の舞台である明治の文化がよく分かる展示はとて興味深い。正岡子規と秋山真之が青年だった頃の写真を見て、ドラマで演じていた役者とよく似ている事に驚いた。


 館内にある階段も聖ヨセフの螺旋階段のような変わった構造をしている。無論、高い建築技術を使って作られているだけであり、前者のような神秘性はない。あくびをかみしめながらまた電車を使い、道後温泉に移動する。実物を見るまで色んな温泉が1つの施設に集まっているとばかり思っていた。


 実際の道後温泉は大分の地獄めぐりのように様々な温泉施設が建てられている。有名な温泉がある商店街の活気は地元よりあった。私達が訪れた道後温泉本館の湯船は1つしかなく、とても簡素な造りだった。銭湯に慣れていた私は殺風景な光景に少し戸惑う。


 湯上がりにポンジューススパークという炭酸飲料を飲みながら近くの道後公園を散策する。その後、松山駅へ戻り、駅のホームで列車を待つ。


 高校時代のような無計画で様々な場所へ行った旅行より余裕があった。それだけ大人になった証拠だ。地元の駅へ向かう特急列車に乗り、私達はまた代わり映えない日常に戻って行く。



 この旅行の後、しばらくして友人は失踪します。

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