道へ
冷たい驟雨が道化に降り注ぎ、その身の熱を芯から奪う。
目に留まる派手な色の袴を身に纏い、空を見る。
道化はただただ空を見る。
曇天。
無数に刺された視線と言葉に心を侵され、事切れたように動かない。
……涙が一つ。
白塗りの化粧は涙になぞられ線を引いた。
心を狂わせ叫ぼうとした、刹那――
――その瞳が一人の女を捉えた。
女は唐傘を道化に伸ばす。
丈の差があり、やっと道化を傘の下に入れた。
「生きているぞ」
女の囁きは道化に届く。
その身を委ねた主である女は、薄く開かれた瞳で道化を優しく撫でた。
「嗚呼……」
嘆き。
「死んだも同然です。私は死んでいます。私の力は無力で、淘汰されて、忘れられるのが結果です。暴れ狂った誇示など目にも留めず立ち去られ、私を孤独にします」
道化は嗤う。
それが定めだから、と己の頭に刻み嗤う。
女はその姿を哀れに思い乍ら、追憶を一つ。
いつかの契約に似た光景。
その契約は互いを預ける誓いでもあった。
いつの間にか驟雨は雪に。
「嗚呼……」
嘆き。
「道化として右へ左へ嗤うはずでしたが……ここで力尽き、倒れます」
抗うことは既に忘れ身を任せる道化を見て女は涙を流す。
「互いに捧げた命で……死を望むのか?」
頬に手を伸ばしながら訊ねる。
道化なら愚問と嗤う筈だった。
しかし、嗤うことなく頽れた。
「嗚呼!」
唸り。
女は伸ばしていた手を引き戻し、自責した。
自身が引き起こしたも同然だ。
その心で止まり、唐傘を捨てて歩き出した。
「ならば……消えろ」
唇を噛み締め、言葉で切り捨てた。
一人だ。
一人にならなければならない。
道化の心を壊すまい……と歩き出す。
朧気な視界で女を捉え続けていた道化は、女の涙を初めて目にした。
灯った想いは消えかけていたが、冷たい雪が再び燃え上がらせた。
凍えた体を転びながら動かし、道化は走った。
追うのは一人の女。
名前を叫ぶ。
息を切らし、喉を枯らしながら叫ぶ。
振り返った女を強く、強く抱きしめた。
「許して頂けますか?」
包み込むように女の体を抱き、嗚咽を抑えながら呟いた。
「……どうして」
「一度捨てた身ではありますが、誓いがある限りこの身は御身に」
女の肩は震え、呼吸が乱れるが冷静を装う。
道化の名を呼ぼうとして、大きくしゃくりあげた。
呼吸を整える。
「見捨てた身を拾う気等無い」
女は冷たく事実だけを紡いだ。
雪の冷たさよりもより冷たく。
「……」
道化はゆっくり腕から力を抜き、立ち去る決意を固め始めた。
「だが、私の命はここにある」
刹那、女が道化の腕を掴み、引き寄せた。
「一人に一つ? 詰まらん。ふたりに一つで良いだろう?」
「……はい」
跪き、敬愛を示した道化の手を取り右手の甲に口付けをした。
「対等だ」
雪は止む事無く、降り続いていた。
女と道化はその中を悠然と歩く。
大衆の目等無意味と切り捨て、堂々と歩く。
ふたりは決して振り返ることなく、互いと前だけを見据えていた。
「棘の道か?」
女の問い。
「いえ」
道化は愚問と嗤い、応えた。
瞳の先に何が待つかは神でさえ知らない。
しかし、ふたりには見えていた。
それはこの世の流れとその先の道だ。
こんにちは、下野枯葉です。
暑くなってきました。
パソコンのせいで部屋が暑すぎます。
なんてこったい。
普段は毎週、連載しているのですが、今回は息抜きで書きました。
酒を飲み乍らパッと思いついたお話ですが、割と楽しいお話になったんじゃないかなぁと思います。
楽しくなってきた!
それと、暑いね。
エアコン使おうぜ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。