1 ダイブ!
ダイブ!
高神は、聖地エピロスの地へと降り立った。
辺りは、美しい樹木や花畑に覆われた神殿が立ち並ぶ、神聖な場所であった。
彼は初めて訪れる場所と、その感覚で、恐る恐る歩き出した。心臓はバクバクしている。
…ような気がしたが、心音がないため気のせいだと、ふうーと息を吐いた。
周りを見渡すと周囲には、騎士の格好をした者、冒険者、商人、貴族風、美しい妖精たち。
様々な出で立ちのひとびとで活気に満ちて溢れていた。
何人かの女性が、優しく声をかけてくれた。
俺って、もてるようなカッコいいアバターなのかな?と、一瞬錯覚したが、1人の女性が「違いますよ、あなたがビギナーなので多分不安だろうなって思って、声をかけてあげたのよ。」と教えてくれた。
ビギナーは、頭の上にまだ何色でもないフラグが立っている。
それを見て、人が近づいてきただけのことだった。少し高神はがっかりした。
フードを被った老婆が、いつの間にか高神の後ろに立っていた。
足音も気配もなかったため、高神が驚いて、うわっと声を上げた。
老婆は持っていた大きな杖で、行き先を示した。
「名もなき冒険者よ、始まりの神殿に行き、己が運命を見定めるがよろしかろう。」
まるで魔女、か、あるいは預言者のようだ。
言うが早いか、老婆はいつの間にかいなくなっていた。
キョロキョロしていると他の人が、
「NPC、つまりプログラムね、ビギナーの人は、とにかく始まりの神殿に行かないとストーリーやイベントが始まらないから、すぐに行った方がいいよ。」
と親切にも教えてくれた。
高神は、老婆の示した杖の方向に向かった。
ここ聖地エピロスのほぼ町の中心に位置する場所に始まりの神殿はあった。
パルテノ神殿のように、外見は重厚な構えであったが、中はリゾートホテルのようなしつらえで、ギャップがあった。
イベントでもあるのか、中では、ダンスショーが開催されている。
キラキラと輝く羽をもつ、可愛らしい妖精の舞だった。
空中に【 風の妖精シルフのコンベンションダンスショー】と表示があった。
しばらくそれに見とれていると、次に、大きなほえ声のような、爆音が響きわたり、人々も高神もそれに流れた。
大きな球体が空中に浮かんでおり、景色が流れた。
大森林、大海原、大渓谷、砂漠、大空中都市、神秘の島など。
この世界で行けるはずの壮大な景色だった。
そして、グギャーーーーーと咆哮がこだまする。
空の雲間から、黒点が現れ、それが徐々に大きくなった。
その場の全員が、えー、わー、うそ!など感嘆の声が漏れた。
金色のドラゴンが現れ、そして、人々の頭上で悠然と羽ばたいていた。
ドラゴンは天から響くような声で言った。
「ようこそ、新たな冒険者たちよ!この世界の名は、ワールド オブ セインデリア!光の樹があまねく世界を照らしだす、剣と魔法とドラゴンの世界!」
最後にグオーーーーー!!!と吠えると、黄金のドラゴンは去っていった。
ここはバーチャルMMOセインデリアの世界。