表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

梅子さんの宝物

 小さな庭に小さな戸建て。梅子さんはそこで独り暮らしのおばあさん。お正月も過ぎ、手作りリースの締め飾りを外し、玄関の傘立てにざっくり挿していた南天を片付けたある日。


「今年はどんど焼きが無くなっちゃったわねぇ、仕方ないか」


 青いビニールシートを広げて、その上でハサミでチョキチョキ、お飾りを細かく裁断していきます。


「燃えるゴミって……ねぇ、せめて半紙にでもくるみましょう」


 チョキチョキ、チョキチョキ。もこもこのダウンに、手編みのモヘアの帽子、手作りマスクの梅子さん。


 路地との境、背の低い生け垣。その根本近くからかわいい声がかかります。


「くだちゃちな」


「あら、花梨ちゃん。こんにちわ、近道から入って来なさいな」


 桃色の山茶花。一箇所、小さな子供なら潜れる穴がぽっこり空いています。そこからゴソゴソと、ピンクのダウンを着た女のこが入ってきました。くまさんのアップリケがついたマスクをつけています。


「こんちわ、うめ、ちゃん」


「こんにちわ、かりんちゃん」


「ちょきちょき?」


「そう、お飾りをね、ご苦労様って」


「ふーん。これ いらない?」


「これ?赤い南天、欲しいの?」


 うん、顔なじみの花梨ちゃんはこっくり頷きます。北風が寒い今日、ぷくぷくほっぺたは、りんごの様に真っ赤っか。


「けえきの ざいりょ」


「ああ、ケーキ屋さんですね、ハイハイ好きなだけどうぞ」


「ここで つくっていい?」


 青いビニールシートの上でしゃがみ込み、コロコロとした南天を触っていた花梨ちゃんは聞きました。


「いいですよ、おうちのひとに言ってきてね」


「ぱぱ、いまおへやでかいぎ おしごと、まま、おしごと いない」


「あらあら、そうか。リモートとか言うやつね。お母さんはホームか。じゃぁ一人で出てきたの?」


「おそとで あそぶって きた」


 あとでぱぱ来ると答える小さなお友達。梅子さんはそれならと言います。


「そう、じゃぁここでお店をしてくださいな」 


 うん、と返事をすると、近道を潜り、細い路地を渡り、一度戻る花梨ちゃん。しばらくすると、なにやら四角いプラケースを持ってきました。


「きょうは ぜりー屋さん」


 四角いそれには半分ほど氷が張っています。


「あら、楽しそう、じゃぁお水もいるわね、ちょっと待っててね」


 青いビニールシートの上に、ちょこんと座る花梨ちゃん。南天の葉っぱをちぎり、入れ物にパラパラ、赤い南天の実をパラパラ入れていきます。


「はい、ぜりー屋さん」


「ここに いれる」


 梅子さんが用意したペットボトルを受け取ると、ちょろちょろと注ぐ花梨ちゃん。お客さんになる梅子さん。


「どの位で出来ますか」


「うーん ひえぐあい あした」


「あら、明日じゃないと出来上がりませんか?」


「うん あした」


 にっこりと笑う花梨ちゃん。じゃぁ、そこのテーブルの上に置いておきましょうと梅子さんは、それをそろそろと、小さなガーデン用のテーブルに運びました。後ろをついてきた花梨ちゃんは、テーブルの上を見上げます


「ああ!花梨ここにいたの、すみません何時も何時も」


 その時、刈り込まれた山茶花の上から、若いパパさんのマスク越しの声。


「ぱぱ!」


 おしごと、おわった?ぱっと桃色の小鳥が飛び立つ様に、花梨ちゃんはテーブルから離れます。


「いえいえ、構いませんよ」


「保育園も今お休みで、おやつにしようか」


「大変ですねぇ、奥様もお仕事お忙しいでしょ」


「ええ、なんだか、この子に大変な思いをさせてるなって、思うんですよ、お友達とも遊べない、僕が仕事の時は出来るだけ、大人しくしてて。て頼んで……」


 ため息をつく若いパパさんは近道を潜った花梨ちゃんを見て、そんなとこに穴がと覗き込み苦笑い。そして、お家に帰ろうかとヒョイと抱っこします。


「ありがとうは?」


「ありがと うめちゃん」


 バイバイと手を振る花梨ちゃん。はい、バイバイと梅子さんも手を振りました。


 山茶花の桃色が風に吹かれて、サワサワと顔を揺すっていました。二人が路地を渡るのを見送り、梅子さんも散らかった物を片付けて家に入りました。




挿絵(By みてみん)



 それから花梨ちゃんは梅子さんの家に、遊びに来なくなりました。梅子さんは出来上がったソレを冷凍庫に入れて置きました。


 何か言われたのかな、それとも保育園が始まったのかしらと心配していた梅子さん。


 冷え込む日々が続き、ちらちらと雪の日もあり、今年は梅の花も咲くのが遅いかなと思っていたある日。


 ドアベルがなった午後、はーいと出ると。


「こんちは うめちゃん」


「こらかりん。うめちゃん……、って。すみません。何時もお世話になりました」


 そこには花梨ちゃんのママと花梨ちゃんの姿。二人とも何時ものマスク姿。梅子さんも慌ててポケットからそれを取り出すと装着します。


「いえいえ、うめちゃんと呼んでねと言ったのは私ですから、元気だった?」


「おひっこし する」


 こくんと頷くとそう答えた花梨ちゃん。おひっこし?ニコニコとしているママに問いかけると。


「主人の田舎に帰ろうと思って」


「あら、お仕事とか大丈夫ですの?」


「主人はリモートが主になってきて、月数回なら、こちらに通うって、私もあちらのホームで面接受けるんです。なんにもない田舎だけど、子育てするならいいかなって、主人の両親も待っていてくれて、この子にもそっちのがいいかなと」


 前から話はあったのですけどね、踏ん切りがついたのでとママさん。


「花梨と仲良くしていただき、ありがとうございました、コレ花梨と昨日作ったんです」


 差し出した少しばかり膨れたかわいい紙袋。受け取った梅子さん。しゃがみ込み小さなお友達の頭を撫でました。


「そうか、おひっこし。でも、よかったね、元気でね」


「うん うめちゃん バイバイ」


 まだ小さい彼女はこれが梅子さんとのお別れになるとは、まだ分かっていません。ちょっぴり寂しい梅子さん。二人がそれでは、と帰ると玄関で紙袋を手にしたまま、しばらくぼうと立ってました。


 カサリと袋を開けてみれば、いろんな形のドーナツがコロコロ。甘い香り。油の匂い。


「今日はドーナツ屋さんね。かりんちゃん……」


 きゅっと切ない様な、作った雪だるまが解けたような、捕まえた蝶々が逃げた様な、ぐるぐる回る寂しい感覚。 


「まあ、やだわ、近くの子供が離れただけなのに、そういえばちゃんとお顔見たことなかったな」


 かわいいでしょうね、きっと。くすくす笑う梅子さん。マスクを外すと割烹着のポケットに押し込めました。


 紅茶にしようかな、それとも。パタパタとキッチンに向かいます。食卓に紙袋を置くと、ふと気が付き冷凍庫を開けました。


 中にはあの時の『ぜりー』


「まっ、独り暮らしだし、邪魔にならないから置いときましょ」


 独り暮らしの気楽さね、『氷のぜりー』を眺める梅子さん、宝物を冷凍庫にひそりと隠している、冬の午後の時。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] かわいらしいお話だなあと読んでいましたが最後少し寂しい形なのですね。 でも、素敵なお話ですね。 朝からなんだかいい気持ちになりました!
[一言] せつないですねぇ、記憶が残るか忘れるか、とっても微妙な年頃だけに。 花梨ちゃん、大きくなっても一緒に遊んだうめちゃんを忘れないであげてね。
[良い点] 切ないっ……! 読んでいて涙がにじんできてしまいました!! かりんちゃんはこのバイバイがわかってない点が、一層切なさを募らせます(>□<) どんど焼き、なくなりましたか。こっちはどうなん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ