正月三日 バイバイの日
終わるんだな。お正月
帰るんだな。お家に
少年が少しだけ寂しくなっています。彼は大晦日から今日まで、家族でおじいちゃんの家に来ていました。
街中のマンションと違い、広い間取りの田舎の家、田の字作りの座敷。集まった従兄弟達と街中では珍しい、降り積もった雪の中を転がり遊ぶ庭先
早めに年越し蕎麦を食べ、こたつでうたた寝していたのを起こされ、除夜の鐘をつきに行った大晦日。接待のみかんをひとつ頂き帰る夜道は、新年に変わる時刻。
行きとは違う空気に変わった様な気がした彼。白い息、ザクザクと足元の雪。寒い寒いと帰ると、マグカップにココアが用意されている掘りごたつ。
何時もなら夜中にだめ!と言われるのに、一緒に参った父親も、熱燗を出してもらい飲んでいる。従兄弟達とこたつに入り、ふうふう冷まして飲むホットココア。
新年の特別。
楽しかった事が沢山ありました。お年玉、お雑煮、ジュースを入れてもらってのおせち料理。従兄弟達と笑いながらたくさん食べたご飯時。
外遊びをしよう!みかんを雪の中に隠して宝探し。雪だるま、かまくら作ろうと皆で雪山をつくって、穴掘り、お腹が空くと家に入ってお餅を食べて。
濡らした物をストーブで乾かしてる間、こたつに入ってゲームをして、気がつくと寝ていて、聞こえるサイレンの音。
起き出して縁側から空を見上げれば。
うすい水色の空、うすいねずみ色の雲、上だけ夕日に焼けてあかね色。消防詰所のサイレンが鳴る5時。空気がキンキンに冷えてくる時間。
台所から湯気の匂い、カチャカチャと音。ご馳走の並ぶ晩ごはん。
夜には布団に櫓ごたつ。潜ってそちらに向かうとオレンジ色。楽しかった、大晦日からのこっちを、次々に思い出す少年。
寂しいな、さみしいな
終わっちゃう、終わっちゃう
お正月終わっちゃうんだ
お昼ごはんが終わり、あちこちバタバタと片付けていた母親の手が開くと、両親は荷物をまとめ始めました。言われるままに、彼も持ってきたゲームやらコミックをカバンに詰め込みます。大事なお年玉のポチ袋もしっかりその中に入れました。
「早めに出よう、5時を過ぎると橋の上が怖いから」
車に運びながら相談している両親。
帰りたくないな
帰りたくないな
サクサクと雪を踏み、裏庭へと回る少年、日陰の軒下には、キラキラなつららが何本も。
明日もちょこっと長くなってるのかな
明日もちょこっと太くなってるのかな
ついたちに、見つけたんだ
直ぐ無くなるって思ってたのに
ちょこっとづつ長くなって
ちょこっとづつ太くなってるの
今朝気がついたのに
もう帰るんだ
終わっちゃうんだお正月
帰っちゃうんだ 僕
さみしいな
さみしいな
キラキラつららは、ぽとぽと小さな水滴を落とします。
どうなるのかな
ポキンって折れるのかな
細くなって消えるのかな
見上げるつららは、ぽとぽと小さな水滴を落とします。
透き通ってきれいだな
もっともっと太くなるのかな
明日も見たかったな つらら
透き通るつららは、ぽとぽと小さな水滴を落とします。
「おーい、帰るからおじいちゃん達にあいさつ」
サクサク足跡を追って父親が彼を迎えに来ました。
「はーい!」
バイバイ!またね。少年はつららにそう言うと、くるりと背を向けました。
ぽとぽと小さな水滴を落とすつららは、少しだけ射した光にキラキラしていました。後2時間もすれば、消防詰所のサイレンが、正月三日の田舎の夕の空に鳴り響きます。




