ギターを持った少女
彼女はギターを弾くのが抜群にうまかった。彼女が弦を鳴らせば、鳥たちも鳴き止んだ。彼女が路上で歌えば、誰もが足を止めた。僕もその一人だ。
彼女は京都駅の中央口にいた。夏の暑さに焼けた駅舎を、彼女は平気な顔で背負っていた。彼女の十八番は「若者のすべて」だった。もう誰もそんな曲は覚えていない。
あるいは彼女は、忘れないために歌っていたのかもしれない。
「うまいじゃないか」と、僕は一曲目を終えた彼女に言った。
「ありがとう」と彼女は言った。
次の日も、彼女は同じ場所で歌っていた。その次の日も、彼女は歌っていた。この世が終わるくらい暑い日にも、彼女は歌っていた。それでも、台風の日には彼女はいなかった。そんなものだ。
僕は思い立って、彼女に五千円札を差し出した。
「いいのよ、そんなの」と彼女は言った。
「どうして?」
「好きでやっているもの」
「嫌なことで金を稼ぐのは駄目な人間がやることだよ」
「そうかしら」
「そうだよ。僕を見てみなよ」
僕はその時、短パンの上にアロハシャツを着ていた。こればかりはどうしようもない。麦わら帽子をかぶっていないだけ、いつもよりはまともだった。
「そうね、あなたみたいにはなりたくないわ」
そう言って彼女はクスクス笑った。
僕が帰省から帰ってくると、彼女はいなくなっていた。彼女が歌っていた場所には、ただの空白が居座っていた。それでも一度だけ、彼女を見かけたことがあった。京都駅のホームで、彼女はイヤホンを付けていた。僕は声をかけなかった。
彼女はやはり、「若者のすべて」を聴いていたのだろうか。