15話 移動開始
重犯罪者は拘束したが、それでも保護した老若男女は100人近く居た。
しかもただの人ではなく、改造された異形がちらほら存在する。
このまま現場で『解散』を宣言する訳にはいかない。
乗り心地は悪いだろうが、『土魔法LV8』で作り出した荷台をゴーレムに引かせてダンジョン都市『ノーゼル』へと移動する予定だ。
『転移LV7』でサッサと移動できればいいのだが、人数が100人近くいるため全員を一度に運ぶのは不可能。
小分けして――とも考えたが、現場に残す者達が心配のため大人しくまとめて運ぶことにしたのだ。
自爆魔石の除去はそれほど難しくなかった。
準亜神剣『クリムゾン・ブルート』で1.5倍にステータスをブースト。スキル『魔力コントロール』で流れを確認しつつ、『転移LV7』で自爆魔石を除去。
内部の開いた傷口は治癒で強制再生させた。
一瞬、痛みはあるが除去自体&治癒は1分かからず終わる。
問題はやはり改造された異形部分である。
「これは『スキル創造』を駆使しても簡単には治らないぞ……」
アリスの姉ミーリス曰く『紅茶に入れたミルクを完璧に取り除くようなものだ』と表していたが、まさにその通りだ。
オレは『スキル創造』でごり押しで治すつもりだったが、自爆魔石除去とは困難さが段違いである。
とはいえ、『絶対に無理』という感触ではない。
新しいスキルを開発したり、時間を掛けていけば十分治療は可能だと思う。
「……賢者シュートさま、移動準備が出来た」
「レム、ひかせる、わん」
レムが操作する10体のゴーレムに、オレが作り出した荷台を引かせ保護した人々を乗せる。
重犯罪者&シローネ親子は、気絶させた後『時間操作LV7』で時間を停止させた。
戦闘中は余裕がなかったが、気絶させた後、コンパクトに纏めて(体育座りなど)時間を停止させる。
あまり広いスペースをとらず収納させることが出来るのだ。
時間が停止しているため文句も言わないし、逃走の心配もなく、飲食、病気、衰弱の心配もない。
地味に便利で驚いてしまった。
「2人ともご苦労様。キリリの方も問題は無いか?」
「はい、塔の中を隅々まで確認しましたが、取りこぼしはありませんでした」
ネークアの住居兼実験場だった塔は、このまま放置する訳にはいかない。
森の魔物や盗賊の住処にされても困る。
そのため中身を家具一式から、ゴミ一つまで兎に角オレの『アイテムボックス』LV8に証拠品、調査資料名目で移動。
その中には大魔術師の杖『ヨルムンガンド』も含まれている。
隠し部屋、スペースもスキルを駆使して全て探しつくした。
最後にキリリに一通り確認してもらい問題がなければ塔を丸ごと潰す予定である。
彼女の返事を聞き終えると、オレは塔へと向き直り破壊するため呪文を唱える。
「土操作!」
『土魔法LV8』の力によって地面を操作。真っ白な塔は地面に咀嚼されるようにドンドン沈んでいく。
最後には全て飲み込まれ地下研究室含めて全て地面の下に埋もれてしまう。
この『土操作』を応用すると、土を津波のように動かし敵を飲み込む事もできる。
魔力は馬鹿食いし、敵が強ければ普通に地面から出てくるため雑魚敵倒し専用の魔法になるが。
馬車で様子を眺めていた被害者の人々はその様子を唖然とした表情で見つめていた。
彼らに処理を見せない方法もとれた。
しかし彼らにとっての悪夢の象徴でもある塔を、目の前で派手に破壊することで『自分達は解放されたんだ』と実感を持ってもらい、トラウマを克服――まではいかないがほんの少しでも薄まれば良いと考えた結果だ。
オレの狙いがどこまで功を奏するかは分からないが、とりあえず驚いてはもらえたようだ。
「よし、塔の処分もお終い。それじゃ『ノーゼル』へ向けて出発するか。レム、ゴーレムの操縦を頼む」
「やー」
オレの指示に合わせて犬耳モードのレムがゴーレム10体を操作する。
急造の荷台のため本当に乗り心地は悪い。
一応、荷台床にビックベアーなどの皮を敷いて衝撃吸収を目論む。ある程度、効果はあったが、所詮ある程度だ。
これも遠征の醍醐味の一つとして諦めて逆に楽しむべきなのだろうな。
☆ ☆ ☆
『オリーム王国軍+α』との戦闘後、無事にダンジョン都市『ノーゼル』に到着して数日。
オレは領主館ですっかり私室となった、客室リビングでアリスの姉ミーリスと向き合う。
現在、彼女と2人っきりでお茶を飲んでいた。
別にアリス、キリリに黙って密会している訳ではない。
今回の一件の顛末、アイスバーグ帝国情報部から得た経緯をミーリスから聞くために顔を合わせたのである。
アリス、レム、キリリを呼ばなかったのは3人の耳にあまり入れたくないほど黒い内容になると予想できるためだ。
まず最初は穏便な対応をされたオリーム王国から。
オリーム王国の国王ワニアが『自分の首と引き替えに鉾を納めて欲しい』と外交官を通して帝国に通達。
帝国皇帝は『オリーム王国軍がたまたま偶然、帝国領土に迷い込んだだけ。気にしていないから許す』と寛大な態度を取る。
むしろ下手に笠に着て迫ったらアイスバーグ帝国の権威&品位が疑われるらしく、ここが落としどころだったとか。
「さらにネークアが排除されたせいで、今後の国家運営が厳しくなるから帝国側が支援を申し出て度量を見せなくちゃいけないのよね。オリーム王国に関していえば帝国側が完全に赤字確定なんだよな……」
世界の3割を支配しているアイスバーグ帝国は、下手に権力・軍事力を振るえば簡単に他国を滅ぼすことが出来る。
だが実際にそんなことをしたら敬意を払われる国家から一転、畏怖を抱かれる恐怖国家と恐れられてしまう。
折角統治が上手く行っているのに、『恐怖政治から脱却』、『悪たる帝国から祖国を救え』などのお題目を与え騒乱の種を撒くようなマネは必要はない。
皇帝陛下もオリーム王国への支援は必要経費と割り切っているとか。
「次は勇者教、エルエフ王国だけど……賢者殿、覚悟して聞いてくれ……」
「あっ、はい」
一気にアリス達には絶対に聞かせられないブラック臭漂う口調で、ミーリスから覚悟を求められる。
「まず勇者教から……聖戦発令を声高に主張していた『スキル創造者を魔王認定するべき派』のトップ含めた大部分が病死。勇者教の幹部がほぼ半分消えたらしい。お陰で現在勇者教は立て直しに忙しいとか」
「病死、ですか……」
本当に『病死』したわけではない。
今回の責任を取らされてワイン(毒入り)を飲まされ、『病死』として処理されたのだろう。
まさに中世時代的考え方である。
「賢者殿の元祖国であるエルエフ王国の王族の男子もなぜか『病死』、女王、王女達も国王、並びに王子達の魂の平穏を祈るため修道院へ行くことになった。他にもエルエフ王国高位貴族が軒並み病死。空白の王位は連枝たる侯爵家が引き継ぐらしい。宣戦布告も前国王の病死前の奇行として処理された」
「うわぁ……」
勇者教もだが、エルエフ王国もシローネ親子の敗北を知ると、すぐさま『宣戦布告』など無かった、誤りと主張するため関係者を軒並み『病死』させたようだ。
隠蔽に走ったと考えるべきか、自浄作用能力が高いというべきか……。
「勇者教、エルエフ王国、どちらもアイスバーグ帝国を通して『今回の一件は上層部の暴走。こちらにスキル創造者に含むモノはない。上層部の暴走を止められず申し訳ない』と極秘裏に謝罪しているが、直接会って話をしたいとも窺っているがどうする?」
「いえ、絶対に会いたくありません」
オレの返答にミーリスは『だよな~』と微苦笑を漏らす。
とりあえずこれ以上、本気で関わりたくないため拒否した。
これ以上、勇者教、エルエフ王国と関わっていいことなどない。
エルエフ王国はともかく、勇者教は潰すのは難しいため――『スキル創造』者であるオレが、今回の一件を奇貨に勇者教に変わる新しい宗教を立ち上げ、最終的に勇者教を取り込み消滅させる案も考えたが……オレ自身にメリットが無さ過ぎて却下した。
今後一生『教祖様』と敬われるとか、背筋が寒くなる。
「そして最後にシローネ親子に関してだが……」
ミーリスの言葉に意識を戻す。
シローネ親子は一体どんな扱いを受けるのだろう?
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
次話でシローネ親子の扱いについて触れたいと思います。
シローネ親子はどうなるのか?
シュートが連れてきた異形兵士&子供達の扱いは?
是非次話をお楽しみに!
また先日『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!
本日も2話連続でアップする予定です。
詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。
これからも頑張って書いていきたいと思いますので、是非チェックして頂けると嬉しいです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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