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番外編 エイトの末路

「クソ! クソ! どうしてこんなことになったんだ!」


 元エルエフ国、オーリー子爵家当主エイトは場末の酒場で夜、安酒を胃へと流し込み怒りを吐き出す。


(なぜ私が犯罪者として指名手配されなければならないんだ!)


 スキルゼロの偽貴族と見下していた息子シュートが、実は伝説中の伝説である『スキル創造』所有者と判明。

『このままではシュートに許しを請うため皆に生け贄にされ、殺される』と察して、家族、使用人、領民を全て見捨てて隠し扉から逃走した。


 犯罪者として指名手配されるのは必然だが、仮にもたついて残っていた場合、エイトはシュートの怒りを抑える生け贄にされていた。

 実の息子を上の覚えをめでたくするための生け贄にした結果、今度は自身が息子の怒りを抑えるため、許しを請うための生け贄にされるのだから皮肉が効いている。


 しかし当事者であるエイト本人からすれば笑い話にもならない。


(……今からでもココを出て、シュートが居るアイスバーグ帝国へ向かうか? 目の前で泣きながら許しを請えば命までは取られないはずだ。上手くいけば『スキル創造』所有者の父として世界の3割を支配する帝国に影響を与えられるかもしれない)


 現在、彼は周辺国と争いが絶えない小国の一つに身を寄せていた。


 エルエフ王国を脱出したエイトはまずアイスバーグ帝国と植民地国、友好国には近付くべきではないと判断した。

 なので『中央大森林』を挟んで、アイスバーグ帝国とは反対側の西方へと向かう。


 南方の砂漠国家も考えたが……環境が違い過ぎるのと、自分のような外国人では目立ち過ぎると判断したため、すぐに却下した。


 アイスバーグ帝国、エルエフ王国よりさらに西方では、小国群が戦国時代のように覇を競い小競り合いが続いている。

 そのお陰で傭兵、冒険者、犯罪者、脱走奴隷など――臑に傷がある者達が多く集まり、裏社会を形成。


 エイトのような落ちぶれた元貴族が紛れ込んでも目立たない。

 仕事も真っ当な魔物退治から、戦場での傭兵、違法な裏仕事まで選ばなければ食いっぱぐれることはなかった。

 ただし『他国に比べて命の値段が異様に安い』事に目をつぶればだ。

 伊達に小競り合いとはいえ戦争をしているわけではない。エイトのような臑に傷がある人材を磨り潰すのになんの躊躇いも無いし、その為の場所も豊富だ。


(金はまだあるが……旅の移動費を考えると早めに決断しなければ余裕がないぞ。持ち出した宝石類にもっと値段が付けば金策に頭を悩ませることもなかったのに。クソ! 強突張りの守銭奴共め! 足下ばかりみやがって! あの宝石類は出す所に出せばもっと高値が付く代物なんだぞ!)


 子爵家から持ち出した資金は国境越えで半分以上を消費してしまった。

 急ぎエルエフ王国から抜け出さなければならなかったため、特急料金を支払う羽目になったが命には替えられない。

 何よりここまでは予想の範囲だった。


 問題は国境を越えた後、宝石類を換金する際に足下を見られたのだ。

 相手があからさまにこちらの足下を見て、安く買い叩かれてしまった。結果、ほぼ二束三文の値段しか付かなかったのである。

 話にならなかったが、資金不足のため売らないわけにもいかなかった。


 お陰で本来、高級――とまではいかないが中級宿屋に泊まるはずが、残り資金を考えて安宿で我慢するしかなくなり、酒も一番安いのを選ぶしかなくなってしまった。

 その安酒もアイスバーグ帝国に行くなら、飲めなくなる。


 エイトは指名手配犯だ。

 アイスバーグ帝国に行くなら再び国境越えをする必要がある。

 そのためにも残り資金に気を遣う必要があった。

 アイスバーグ帝国へ辿り着く前に捕まり、エルエフ王国へ移送されたら目も当てられない。


(問題はシュートが私を許してくれるか……)


 シュートはスキルゼロの偽貴族だったが、決して諦めず『騎士LV1』を購入するため子爵家嫡男にもかかわらず冒険者となって時間を見つけてはゴブリンなどを狩り資金を貯めていた。

 エイトは次男ラインに3つのスキルが有る時点でシュートを見限っていた。

 故に『無駄な努力を続けるものだ』と内心で見下していた。

 しかし、シュートは父親の視線に気付きながらも我慢強く、目標に向かって邁進しつづけていた。

 その忍耐力には流石のエイトも評価せざるを得なかった。


(だからこそシュートに『スキル創造』なんてスキルが後天的に芽生えたのかもしれんな……)


 この世に居るかもしれない神が、叶わぬと知りつつも直向きに努力する少年を哀れみ『スキル創造』を与えたのかも知れないとエイトはつい妄想してしまう。


(そんなシュートを私は見せ物として売った。聡いアイツのことだ。既に気付いているだろう……。そんな私をアイツが許すか? 無理だ! 私なら絶対に許さない! アイツは我慢強い。例え何年、何十年懸けようと私を見つけ出し復讐するかもしれない! なのにわざわざ自分から出向くなど自殺行為だ!)


 エイトは安酒を呷る。

 飲まなければシュートの怨みを買っている事実に潰されてしまうからだ。


 実際、エイトがシュートに泣きつき、土下座して許しを請えば、彼も首を落とすまではいかない可能性はあった。

 しかし猜疑心の強いエイトは、『自分なら絶対に許さない』という結論しか出ない。

『殺される』可能性が捨てきれず、結局許しを請いに行けなかったのだ。


「クソ! クソ! どうして私ばかりがこんな目に遭うんだ!」

「さっきから五月蠅いぞ、ジジイ!」

「黙って飲んでろよ。いい加減黙らないと殺すぞ!」


 側のテーブルで飲んでいた冒険者崩れの傭兵2名が、エイトの愚痴が煩わしく声をあげる。

 安酒の勢いもあり、エイトは振り返ると赤ら顔で叫んだ。


「黙れごろつきが、私を誰だと思っている! 私は――」


 安酒に酔ってはいたが、冷静な部分が叫びを止める。

 賞金首でもあるエイトが本名を明かせば、狙われるのは必定だ。

 台詞を最後まで言えず、鯉のように何度か口を動かすがそれ以上、言葉を出せなかった。


「『私は』の続きはどうした、うん?」

「早く言えや。喧嘩ならおおいに買うぞ、コラ」

「い、いや私は――な、なんでもない。失礼した……」

「ごろつき呼ばわりしてそれで済むはずないだろうが、あぁん!」

「ぐっふ!?」


 諍いが絶えない小国の場末に飲みに来た冒険者崩れの傭兵に理性を求めても無駄である。

 さらに酒も入っているため、怒鳴ったエイトへ向けて手を出す。

 カウンターに座っていた彼は、殴られ汚れた床へと転がり落ちる。


 エイト自身、スキル『騎士LV4』と『算術LV5』持ちだ。

 彼自身もLV15で、一般兵士並のステータスは持っている。

 しかし、あまりにも戦い慣れていない。

 一方相手は二人組で、安い金額で斬った張ったを潜り抜けてきた冒険者崩れの傭兵だ。

 すぐさま先制攻撃で転がした後、2人がかりで蹴って、蹴って、蹴って――相手の戦意が砕けるまで攻撃をし続ける。


 エイトは涙目で頭を抱えて丸まり懇願する。


「わ、私が悪かった! か、金を渡すからゆ、許してくれ!」

「五月蠅ぇぇぇ! 調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」

「何が金だコラ! 俺様達が端金で靡くとでも思ってんのか!? あぁぁぁん!」

「ひぃいぃ! ひぃいいいぃ!」


 冒険者崩れの傭兵達も安酒と運動で酔いが回り、周囲も囃し立てるため攻撃の手が止まらなくなる。


 エイトは結局、手持ち金を全部奪われ、顔の形が変わるまで殴られ、蹴られた後に酒場の裏手に放置された。


 この程度の騒動は日常茶飯事で、命が奪われないだけまだこの傭兵達は紳士的なほうだ。

 またこの騒ぎで皮肉にも、アイスバーグ帝国情報部がエイトの所在地を把握してしまうのだった。


スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!

主人公シュートの父、エイトの末路です。

アップするタイミングがなかなか掴めず、スキルマスターも終わりに近付いているのでこのままだと出せないままお蔵入りしてしまうので、やや強引ですがこのタイミングで出させて頂きました。


また先日『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!


本日も2話連続でアップする予定です。

詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。

これからも頑張って書いていきたいと思いますので、是非チェックして頂けると嬉しいです!


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >『このままではシュートに許しを請うため皆に生け贄にされ、殺される』と察して、家族、使用人、領民を全て見捨てて隠し扉から逃走した。 > 犯罪者として指名手配されるのは必然だが、仮にもた…
[一言] 元エルエフ国王って?
[一言] 久々の登場すぎて『エイトって誰!?』ってなりました(笑) 父上も落ちぶれましたねぇ…(-人-) 今回死ななかったものの、帝国情報部に所在突き止められて… 放置しとくに一票(笑)
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