9話 vs子供
上空から観察していると、幌馬車から御者が子供達を無理矢理引っ張り出している。
準備が整った子供から、異形の姿に変態していく。
体の一部が魔物となっている異形兵士のレベルではない。
服が弾け飛び、身長が3mはあるミノタウルスやサイクロプス、中には頭が3つあるケルベロスなどの4つ足魔物の姿に変化する。
完全に魔物の姿になるならまだかわいげがあるが……。
「あっ、あぁぁあっ、ぁぁ……」
体の一部、ミノタウルスやサイクロプスなら胸の辺りに子供の顔が残っているのだ。
涙、鼻水、涎を垂れ流し、口から悲鳴とも、絶望とも取れるか細い声音が漏れ出ている。
『ギリッ』と奥歯が鳴るのを止められなかった。
「気分が悪いことをやらせたらこの手の輩は本当に上手いよな。その才能をもっと別のことに生かせよ!」
悪態を付きながら、変化を遂げた子供達を倒すべく地上へと向かう。
最初は子供達に指示を出している御者を始末することも考えたが、
(下手に御者を無力化して、暴走とかされたら最悪だからな。ここは正攻法で行こう)
ただその場で1人暴れるならともかく、自爆したり、仲間同士で傷つけあいだしたら目も当てられない。
そうなる前にさっさと気絶させて、『時間操作LV7』で時間を停止させた方が外部からの干渉不可になるため良いだろう。
『ブモオオオオオオオオオオ!』
地面に着地すると、ミノタウルスの牛頭部分が戦闘意欲満々の雄叫びを上げて襲いかかってくる。
岩石のような拳を振り下ろしてくるが、そんな遅い攻撃に当たるほどマヌケではない。
「ごめん! 少しだけ痛いかもしれないけど我慢してくれ!」
詫びを入れつつ準亜神剣『クリムゾン・ブルート』で1.5倍ブーストした『筋力:6750』で殴り飛ばす。
『ブモォッ!?』
いくら金属のように硬そうな筋肉で覆われていても、筋力四桁後半で殴られたらひとたまりものない。
仮にスキル『非殺傷』が無ければ、オレの腕が楽々ミノタウルスの腹部を突き破るどころか、胴体が2つに千切れていただろう。
腹部への1発でミノタウルスに変化した子供の意識が途切れる。
証拠にスキル『時間操作LV7』で時間凍結の手応えを感じた。
地面に倒れた姿はただ気絶しているだけのようだが、ミノタウルスの時間は確かに停止している。
スキル『時間操作LV7』の利点として、相手を『気絶させたかどうか』の判別に使えるのは大きい。
スキル『非殺傷』と合わせて、あまり深く考えずとりあえず殴り飛ばし、気絶したら時間凍結。出来なかったら再び殴り飛ばせばいいのだ。
『グォオオオ!』
『ガァァァアアアァァッ!』
サイクロプス、ケルベロスが雄叫びを上げ突撃。
2つの影から音もなく、奇襲をしかけようとシャドースネークが暗殺者のごとく接近してくる。
一般的な兵士、冒険者などを100、200人単位で楽に壊滅させられる怪物達が複数同時に襲いかかってくる。
しかし、オレは特別脅威に感じなかった。
『スキル創造』のお陰で、この世界最高峰のスキル数とステータスを得ている。
この程度の魔物達がどれだけ襲って来ようとも、恐れる必要はない。
まだ凶化暴走水精霊の方が厄介である。
(何より『スキル創造』のお陰で被害者の子供達を殺さず、救える可能性がある。それがなによりありがたいよな)
『グォッ!?』
まだ攻撃範囲に届かないサイクロプスの目の前に『転移』で移動。
一瞬で目の前に敵が現れたことに驚愕の表情を作る。
オレは構わず殴り飛ばし意識を奪う。
突然目の前から敵が消えたせいでケルベロスは目標を失い立ち往生している。
そんなあからさまな隙を逃さず、四つ足の下に潜り込み全力で蹴り上げた。
『キャインンッ!?』
予想外の奇襲に悲鳴を上げ、唾液を3つの頭から撒き散らし巨体が空中を舞う。
ケルベロスの巨体が空中を舞う姿は、見物客がいれば良い見せ物になっていただろうな。
しかし、そんな者は当然おらず、オレの周囲には敵しかいない。
『シャァァァァ!』
蹴り上げたタイミングを隙ととらえシャドースネークがアギトを開き食いつくため、襲いかかってくる。
そのタイミングは完璧だった。
例えどれだけの強者でも、移動するためには足を動かさなくてはならない。上空に逃げるためには一度膝を折り曲げる必要がある。
しかしオレ自身、ケルベロスを蹴り上げた直後のため、本来であれば肉体構造的に筋肉を動かすことが出来ず、瞬きより速いシャドースネークの動きに喰われてお終いだった――が、
『?』
シャドースネークのアギトは虚空を噛む。
完璧な一撃だったにもかかわらず、オレはそこに居なかったのだ。
まるで幽霊のように姿を消す。
「……体は動かなくても、転移で移動できるから回避は余裕なんだけどね」
『転移LV7』で上空へと移動。
オレの姿を見失ったシャドースネークが頭部を左右に動かし、首を傾げる。
その姿はユーモラスで可愛らしいが和んでいる暇はない。
「悪いがちょっとだけ眠っていてくれ!」
『ぐぎぁいッ!?』
上空から高速で移動し、シャドースネークの頭部を踏みつぶす勢いで踵落としを決める。
シャドースネークの頭部は地面に埋没し、無数の罅が走り、土埃を舞い上げた。
その振動で集まっていた魔物達はたじろぎ、足を止める。
舞い上がった土埃が風に乗ってゆっくりと晴れていく。
「……安心してくれ、痛いのは一瞬だ。すぐに楽になれるからちょっとだけ我慢して欲しい」
オレは『体を治すため、意識を奪う。そのためにも痛いだろうが、気絶させるから。大丈夫、スキル非殺傷の力で死ぬことは無いよ』という意味で周囲を囲む魔物、子供達に話しかけた。
しかし、なぜか魔物(子供)達は、まるで地獄の底から現れた怪物を前にしたようにたじろぐ。
先程までの殺意溢れた攻撃衝動も、風船が萎むように小さくなっていくのを感じる。
どうやら一方的に無双し過ぎて怖がられてしまったようだ。
だがこれも全て子供達のためである。
オレは心を鬼にして未だ気絶していない魔物(子供)達に襲いかかったのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
シュートが全力を出して戦っても、『殺さない』で済むのは書いている側からしてもありがたいですわ。
さすがスキル『非殺傷』!
お陰でガンガン戦闘シーンが書けて楽しかったです。
また先日『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!
本日も2話連続でアップする予定です。
詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。
これからも頑張って書いていきたいと思いますので、是非チェックして頂けると嬉しいです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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