7話 非殺傷と異相結界
オレは偵察してきた現場を思い出し、再び怒りがこみ上げ語気が荒くなる。
感情を落ち着かせるため、数度呼吸を繰り返した。
レムの耳を抑えていた手を離し、彼女をギュッと抱きしめる。
レムの体温がじんわりと体に染みこみ、気持ちを落ち着かせる効果を示す。
怒りを抑えた所でオレは自身の目的を口にした。
「今回は敵の狙いを外して、二度とオレ達に手を出させないよう徹底的に潰す――という目的もあるが、一番はやはり子供達を助けたいんだ」
出来れば異形兵士達も元に戻してやりたいが、まずは子供達を優先したい。
激昂して立ち上がったミーリスは、ソファーへと座り直し返答する。
「気持ちは分かるが、どうするつもりだい? 言ってはなんだが、魔物と融合された肉体を元に戻すなんて、紅茶に入れたミルクを完璧に取り除くようなものだよ?」
「大丈夫です。その辺は考えがある、というより『スキル創造』でごり押しだろうが無理矢理だろうが、肉体と精神を取り戻すスキルを開発するつもりです」
例え、上位者、神様的存在が再び混乱しようとも、『けっぷぅ』と異音をあげさせようとも子供達を全員元に戻す。
子供達が死ぬなんてオレ達の誰も望んでいない。
『スキル創造』なんて規格外の力、この時に使わずいつ使うというのだ!
「『スキル創造』を用いれば可能性は十分あるか……。しかし、問題はいつ爆発するか分からない状態で治療行為をしなければならない。しかも数十人、他異形の者達を含めれば100を越える。いくら賢者殿でも手が足りないと思うのだが……」
「それについては問題ありません。既に対処方法があるので。スキル『時間操作LV7』で相手の時間を凍結すれば、暴走も、爆発も気にせず保護することが出来るので」
「なるほど流石賢者殿だ! もう既に対処法に目処が付いているとは! ……うん? 今『時間操作』云々と言わなかったか? えっ、賢者殿、時間を操作できるのか!?」
初耳のミーリスが驚愕で声音を上げる。
彼女が知らなかったのはもちろん頭に入っているが、これから話をする内容にスキル『時間操作』は外せない。
そのためさらっと流す勢いで口にしたのだ。
ミーリスの驚愕を余所にオレは軽く咳払いをして話を進める。
「とはいえ『時間操作LV7』は無条件で相手の時間を止めることは出来ない。相手の時間を止めるためには意識を奪う必要があるんだ」
「……意識を奪う? つまり気絶させたり、眠らせればいい?」
「アリスの言う通りだ。いくらオレが強くても数千を超える敵を相手取り、短時間で意識を奪うのは難しい」
当然、少数なら正面切って相手を無力化することは出来る。
だが敵が多数の場合単純に時間がかかってしまい、子供達を自爆させる隙を与えかねないのだ。
そんな事態を避けるためには単純にオレ1人では手が足りないのである。
「だからアリス、キリリ……最悪オレと一緒に勇者教から『魔王認定』されて世界中から追われるかもしれない。それでも子供達を全員救うため、こんな気分が悪くなる外道を討つため力を貸して欲しい。頼む」
彼女達なら口にしなくても、無条件で付いてくるだろう。
しかし誠意の問題でしっかりと口にしてお願いをする。
この願いにアリス、キリリは一瞬も躊躇することなく同意した。
「……自分は賢者シュート様の奴隷で、帝国建国の恩返し的にも付いて行く。何より子供達を戦争に無理矢理参戦させる外道共をこれ以上野放しには出来ない。確実に今回叩き潰す」
「私は姫様の従者ですから。姫様が参戦するならどこまでもお供しますよ。何よりシュート様や姫様を野放しにしたら、私の胃がより痛い目に遭いますからね」
「ありがとう2人とも。頼りにしているよ」
オレは2人に笑顔でお礼を告げる。
そんなオレの膝に座っていたレムも声を挙げた。
「レム、いっしょ、いく」
「……レムには出来ればお留守番をして欲しいんだが」
「いっしょ、いく!」
断固たる決意で声をあげられる。
最悪、勇者教から『魔王認定』されて世界中から追われる可能性がある。
そうなった場合、『シュートの娘』として狙われる可能性は捨てきれない。なにより彼女には色々表沙汰に出来ない秘密が多数有る。
例えアリスの姉であるミーリスにすら明かせない秘密がだ。
最悪の事態を考えれば、すぐ側にレムを置いて置くのが正解だろう。倫理的に子供を戦争に参加させるのはどうかと問われるが。
また今回考える作戦にレムの『ゴーレム操作能力』は非常に有効で、手元に欲しい。
外道行為を易々とおこなう大魔術師を確実に倒す、憂いを断つ為にも彼女の参戦は素直に認めるべきだろう。
「……分かった。レムも頼む」
「やー」
「……大丈夫、レムは自分が護る」
アリスは真剣な表情で断言した。
そんな彼女の台詞の後、キリリが挙手する。
「ですが、私達が手を貸すといっても数千人の意識を死者無しで奪う、気絶させるのはなかなか難しいかと。シュート様のことですから既に対抗策は考えていらっしゃるのですよね?」
「流石キリリ、察しがいいな。もちろん既に準備済みだ」
オレは『アイテムボックス』から2つのスキルオーブを取り出す。
「スキル『非殺傷』と『異相結界』だ」
スキル『非殺傷』は、これを得ている者がどれだけ強い攻撃を相手に使っても殺すことがないスキルである。オンオフ可能でスキルを覚えた後、『一生相手を殺害できなくなる』なんて罠は無い。
スキル『異相結界』は、現実と結界内部の位相をズラす。ズラすことで例えば結界内部で建物が崩壊しても、解除後は元に戻っているというものだ。
キリリが冷や汗を流す。
「スキル『異相結界』はちょっと想像が付き辛いですが、スキル『非殺傷』は非常に便利なスキルですね。ただし姫様だけには持たせてはいけない気がするのは私だけでしょうか?」
彼女が心配する理由も分かる。
『ちょっと話し合いをしてくる』とアリスが、相手を殺さず無力化してくる想像が簡単についてしまうからだ。
そういう意味ではアリスに持たせるにはちょっと危険なスキルである。
しかし現在は戦争直前の非常事態のため諦めるしかないだろう。
オレは軽く咳払いをしてキリリの発言を受け流す。
そして、未だに『時間操作スキル』について困惑しているミーリスに水を向けた。
「相手を死なせず無力化させる算段はこれでいいとして、ミーリスさん」
「あっ、おう、ど、どうした賢者殿」
「今回、ミーリスさんにも少々手を貸して欲しいのですが……。もちろん表だってではありません。少々オレが希望する素材を集めて欲しいんですよ」
「素材を集める? それぐらいなら問題ないぞ。ただ稀少な素材の場合、時間がかかったり、元々手に入らなくて難しいとは思うが」
「いえ、そこまで稀少な素材ではないんです。ダンジョン40階層のジャングルで集まる素材を手に入れて欲しいんですよ」
「あっ……」
オレの『ダンジョン40階層のジャングルで集まる素材を手に入れて欲しい』という台詞で真っ先にキリリが気付く。
彼女はその台詞を聞いて、オレが何をしようとしているのか理解するとスキル『非殺傷』の存在を聞かされた以上に顔色を青くする。
キリリはこの台詞を聞いて、オレが自重を捨て去ったのを頭ではなく、魂で理解したのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
次の話から戦争編の戦いへと突入します!
シュート達がどのように異形兵士達と戦うのか?
是非お楽しみに!
また先日『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!
本日も2話連続でアップする予定です。
詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。
これからも頑張って書いていきたいと思いますので、是非チェックして頂けると嬉しいです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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