2話 聖戦発令
アリスの姉ミーリスは頭が痛そうにこめかみを片手で押さえる。
「言葉は悪いけど、エルエフ王国やオリーム王国程度ならいくら集まっても帝国の敵じゃない。ちょっと睨めばこの2つは黙らせることが出来るけど……問題は勇者教なのよね。あいつら『これ以上スキル創造者を庇うなら、彼を魔王認定し聖戦を発動するのも吝かではない』とか、ブラフだとは思うけどちらつかせてきてるのよ」
「それはまた奥の手――いや、とんでもない禁じ手を出してきましたね」
勇者教の言にオレですらドン引きする。
聖戦とは?
元々この世界にはリアルで魔王が存在し、人類の生存圏を縮小するほど追いつめられた。
表向き、勇者が登場して魔王を倒したことで、なんとか人類は危機から脱した。
それを受けて勇者教が誕生し、魔王が再び蘇った際は人類皆で一致団結して戦おうというのが『聖戦』である。
そんな『聖戦』の号令を私怨に使おうというのだ。
発令など本来ならできるはずがないが……。
しかし、仮に発令した場合、勇者教はこの世界のスタンダードな宗教で、魔王の恐怖は人類に擦り込まれているため各国共に完全無視は難しい。
『勇者教がここまで言うんだから、もしかしたら本当にスキル創造者は、魔王の産まれ変わりなんじゃ……』と疑心暗鬼に陥って人類の敵認定をしてくるかもしれないのだ。
アイスバーグ帝国の人民からも、突き上げがくるかもしれない。
だからいくら帝国とはいえ、安易に勇者教に対して手を出し黙らせることが出来ないでいるのだ。
とはいえ勇者教もそうそう簡単に私怨で『聖戦』発令などできるはずがない。もし発令した後に偽りだったことがばれれば、各国は勇者教を信用しなくなる。
誰も信用しなくなった宗教など、存在し続けることなどできる筈がない。
故に『奥の手』というより『禁じ手』なのだ。
だから発令することはないと思うが……。
「あたいとしても恐らく『聖戦』発令の可能性は無いと思っている。あくまで勇者教は、賢者殿側に付き帝国が強制介入して蹴散らすのを防止する措置として『聖戦』発令という思わせぶりな態度を取っているのに過ぎない。過ぎないはずだが……勇者教内部で『スキル創造者を魔王認定するべき派』が勢い余って発令……なんて可能性もゼロではないのよね」
『さらに頭が痛いのは……』とミーリスが話を続けた。
「勇者教内部で『スキル創造者を魔王認定するべき派』の他に、『私怨でスキル創造者を魔王認定するべきではない派』が牽制し合っている状態なの。やや『スキル創造者を魔王認定するべき派』が有利だとか。ここでイヤラシイのは、上層部が『スキル創造者を魔王認定するべき』と断定せず、『私怨でスキル創造者を魔王認定するべきではない派』を作って逃げ道を用意しているところなのよね」
聖戦発令をちらつかせつつ、失敗した時の逃げ道をしっかりと残しているのが本気でイヤラシイ。
オレも思わず頭痛を覚えこめかみを押さえる。
「本当に勇者教は……」
そりゃ初代、2代目スキル創造者達も関わりたくなくて隠居するわ!
「普段から『賢者殿には帝国が受けた恩を返したい』と言っているにもかかわらず、すぐに勇者教共の悪辣な陰謀を蹴り飛ばすことができず申し訳ない。皇族を代表して謝罪させてくれ」
「ミーリスさん、頭を上げてください。むしろ帝国が強気に出て、勇者教に本気で聖戦を発令されるほうが危険ですから」
今回の戦争にアイスバーグ帝国を介入させないためのブラフ『聖戦』を勇者教が本当に発令した結果、各国を巻き込んだ世界大戦が勃発したなど洒落にもならない。
「とりあえず雲隠れするにも、対応するにしろ。まずは情報収集が肝要かと。なので引き続き帝国には情報収集をお願いします」
「もちろんだ。賢者殿の恩義に対して少しでも返せるように協力させてくれ。他にもあたい独自の情報網を使って集めたりするぞ」
「ありがとうございます。あとオレはこれからより詳しい情報を得るため、偵察に行ってきますので戻るまでアリス達をお願いします」
「……賢者シュート様、偵察に行くなら護衛として自分も一緒に行く」
「僭越ながら私も同行させて頂ければと」
今まで黙って隣に座り話を聞いていたアリスが、声をあげる。
また危険、厄介事には首を突っ込むの嫌がるキリリも、偵察参加を願う。
2人がやる気になっているのは、オレに謂われのない理由で戦争をふっかけてきている勇者教達に腹を立てているのもあるが――。
「……折角、賢者シュート様が自分とキリリのために色々準備していたのを邪魔するなんて絶対に許せない!」
「今回ばかりは姫様に同意です。謂われのない因縁のみならず、私達の幸せな結婚を妨害するなど……。この罪は確実に償わせないと腹の虫が治まりません!」
アリス、キリリとも心底怒っている姿をオレは初めて目にした。
そんな2人を前に宣戦布告してきた勇者教などに腹を立てていたが、突然、なぜか同情心が湧いてしまう。
2人の反応が怖いので、大人しく同意したい所だが……オレは勇気を出して拒否する。
「ふ、2人の気持ちは嬉しいけど、速度を重視したいからオレ1人で行かせてもらうよ。凶化暴走水精霊の時もそうしたけど、オレ1人ならどんなトラブルが起きてもある程度対応できるからさ」
実際、凶化暴走水精霊の件でオレが1人で偵察をおこなったお陰で特に被害もなく情報を持ち帰ることが出来た。
今回もその経験を生かし、単独行動したいと告げる。
(それに剣聖が関わっているなら、決闘でオレ自身の実力を把握しているはずだ。なのに戦争を仕掛けてきたということは、何かしら勝算があってのこと。まさか凶化暴走水精霊のような怪物を大魔術師が作ったからとかではないと思うが……。一応何が起きても対処できるよう警戒しておくのが無難だしな)
「……分かった、賢者シュート様の指示に従う」
「姫様が従うのであれば、従者の私は何も言えません」
前回の経験が生きているため、不承不承だが2人とも素直に引いてくれた。
オレは微苦笑を漏らしつつ、2人にお礼を言う。
そして、早速、現在南下している軍隊の情報収集のため行動をおこすのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
まずは情報収集のためシュートのみで先行する形になります。
その先で見たモノは――?
続きを是非お楽しみに!
また、昨日(4月17日)昼12時に、以前からお伝えしていた『【連載版】信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ!』します!』をアップさせて頂きました!
また本日も2話連続でアップする予定です。
詳しくは作者欄をクリックして飛べる作品一覧にある『【連載版】信じていた仲間達~』をチェックして頂ければと思います。
頑張って書きましたので、是非チェックして頂けると嬉しいです!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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