5話 接触
「早速だけど、僕ちゃんが希望するスキルを作ってもらえるかい。『スキル創造』所持者くん」
キリリお勧めのレストランに向かう途中、道を遮った男性が断言する。
男は長身で190cmはあるだろう。背丈だけではなく、体躯も立派で鍛えられている筋肉が衣服の上からでも分かるほどだ。
なのに顔立ちは整い、肩まで伸ばした長髪も非常に様になっている。
背丈と鍛えられた筋肉がなければ、女性と見間違うほどの美貌の持ち主だった。
だが注目するべき点は容姿や体躯ではない。
彼の立ち姿やちょっとした動きを目にしただけで、相当な実力者だと判断できた。
(実力的にアリスより確実に強いぞ。帝都にはこんな実力者が何人も集まっているのか?)
胸中で驚きつつ、反射的に鑑定する。
名前:アビス・シローネ
年齢:24歳
種族:ヒューマン
状態:正常
LV:50
体力 :4000/4000
魔力 :100/100
筋力:1000
耐久:800
敏捷:120
知力:50
器用:100
スキル:『剣聖』『身体強化LV7』『頑強LV7』『アイテムボックスLV5』『回復LV7』『物理耐性LV7』『魔力耐性LV7』『怪力LV7』『気配察知LV7』『気配遮断LV7』
称号 :勇者教聖人
(!? 剣聖アビス! 勇者教聖人、公式スキル最多保有者じゃないか!)
この異世界の住人なら誰もが知る超有名人である。
過去、魔王を退治した勇者の仲間の1人『剣聖』と同じスキルを持ち、現在公式で記録されている最多スキル数10個を所持するこの世界で最も強い、最強の一角とされている人物だ。
前世の記憶を取り戻す前、彼に憧れ『剣聖アビスのようにスキルが10個もあれば……』と嘆いた記憶がある。
またこの世界の男子なら一度は憧れ、ごっこ遊びをするほどの人物だ。
『スキル創造』を得た後、スキルとLV上げに邁進した現在は、オレの方が剣聖アビスより圧倒的に強くなってしまったが……。
ちなみに『剣聖』はどのようなスキルなのかというと――。
意識を向けるとテキストが表示される。
『剣聖』――剣術の技能が著しく向上し、ステータスとスキル経験値取得が2倍にアップする。
テキストを読んで思わず驚きで噴き出しそうになる。
自分の『スキル創造』ほどではないが、『剣聖』はとんでもないチートスキルだ。
(これほどのチートスキルがあれば、アリスより強くて当然か……)
味方なら頼もしい相手だが、先程の台詞から厄介事の依頼でしかないと判断を下し、すぐさま誤魔化しに走る。
オレはスキル『ポーカーフェイス』と『話術LV8』を駆使する。
「申し訳ありません。自分達は商売の下見に来たただの商人で、仰っているお言葉よく分からないのですが……」
「ふむ……」
スキル『ポーカーフェイス』と『話術LV8』の影響で、アビスは『自分は声をかける相手を間違えたかもしれない』と躊躇いを生ませる。
彼は何かを確認するようにオレから視線を外し、背後に控えるアリス、キリリへと視線を向けた。
彼に『鑑定』スキルが無いことは確認済みだ。
仮に持っていたとしても、オレの『ステータス擬装』スキルで、自分のだけではなくアリス、キリリのも擬装済み。
もし見破ろうとしたら『鑑定LV9』の人類最高峰の鑑定士を連れてこないとならない。
『鑑定LV9』はオレしかいないため、見破ることは実質不可能のはずだが……。
「あははは! 危ない危ない! あまりにも演技が上手くて危うく信じかけたが、やはり僕ちゃんの目に間違いはないよ。いくら『スキル創造』所持者くんの誤魔化しが上手くても、従者達はそうとは限らない」
アビスは再度、背後に控えるアリス、キリリに視線を向ける。
「僕ちゃんは一度アイスバーグ帝国三女アリス・コッペタリア・シドリー・フォン・アイスバーグとその従者の姿を見ているんだよね。だからどれだけ外見を弄ろうとも歩き方、筋肉の動かし方を見ればすぐに分かっちゃうんだよ。何せ僕ちゃん選ばれた天才、剣聖さまだからね。そんな彼女達が付き従う男性は『スキル創造』所持者くんしかいないのは自明の理だろう」
まさか顔や外見的特徴ではなく、歩く姿、筋肉の動かし方で相手を判断できるとは想定していなかった。
いくら『ステータス擬装』で名前、年齢、ステータスを弄っても歩く姿、筋肉の動かし方を誤魔化すことなど出来ない。
むしろ、これを『想定しろ』という方が無理だろう。
……どうやらこれ以上の誤魔化しは不可能のようだ。
「はぁ……」
オレは溜息をつき改めて剣聖アビスへと向き直る。
「これ以上の誤魔化しは無理なようですから白状しますが、自分は貴方の言う通りの人物ですが、スキルを創るつもりはありません」
中央噴水広場には観光客、一般市民などが多数存在する。
あまり良い雰囲気を漂わせていないオレ達を、野次馬のごとく遠巻きで見ている人達も居る。
なので一応敬語を使い、『スキル創造云々』と口に出すわけにはいかず適当に言葉を濁す。
言葉を濁したが相手にはしっかりと意図が伝わったらしく、アビスは意外そうな表情を浮かべた。
「どうしてだい? 僕ちゃんは聖人で剣聖のスキルを持つ特別な人間なんだよ。その願いを断るとか正気かい?」
「例え相手が貴方でも、お世話になっている皇帝陛下でも返答は変わりません。公式的にもそういった依頼は全てお断りしています」
(自分の意思でやるならともかく、外部からのお願いなんていちいち聞いていたら身が持たないからな)
実際、アリスとキリリには出発前に好意から変装用のスキルオーブを渡そうとした。
彼女達には断られたが……。ちなみにオレ自身が好意から渡すのは別枠である。
「……ちょっと珍しい力を得たからって調子にのっちゃっているのかな。だとしたら同じ選ばれた者として、年長者として『教育』が必要かな?」
「剣聖、年長者、勇者教の聖人として品位が下がるマネはよした方がいいですよ。文句があるなら帝国を通してくださいよ」
アビスは腰から下げている剣の柄を撫で殺気と共に脅しの台詞を口にする。
オレも対抗し殺気を飛ばし、態度を崩さない。
交渉の一環として殺気を飛ばし合う。
世界の3割を支配する帝国の首都で、刃傷沙汰を避けたいのはお互い様だ。
故にアビスは武力をちらつかせ脅迫し、スキルオーブを創らせようとする。一方オレは『武力には屈しない』、『やるならやるぞ』という態度を崩さず対抗する。
互いに睨み合い、殺気を飛ばしあっているが『どう話を終わらせるか』と胸中で模索し合っていた。
『どうすれば自分に有利な状況で話を纏められるか』と互いに考え込んでいる――と中央噴水広場に一般人、観光客達の悲鳴が響き渡る。
「……賢者シュート様の邪魔をする奴は殺すッ」
背後に控えていたアリスが戦闘に邪魔なフードを脱ぎ、銀髪を風に靡かせながらアイテムボックスから巨大な愛剣を躊躇いなく抜き構える。
約3mはある巨大な大剣を構えた少女を目にした人々が、悲鳴を上げ逃げ出したのだ。
「ひ、姫様、落ち着いて! 貴女がここで戦っちゃ駄目ぇぇぇえ!」
もう1人の護衛であるキリリが、制止しようとアリスに慌てて抱きつく。
アリスは今すぐにでも剣聖アビスに大剣を振り下ろそうとするが、抱きついてきたキリリを無視して剣を振るうことが出来ずまずは彼女を引きはがそうとする。
「……キリリ、離して賢者シュート様を困らせるアイツが斬れない」
「だから斬っちゃ駄目な相手なんですって! 相手は剣聖で、勇者教が庇護する聖人なんです! 世界の3割支配する帝国と世界的メジャー宗教の火種を生み出すとか勘弁してくださいよ!」
「……? とりあえず賢者シュート様を困らせるアイツを倒したら話を聞くから」
「だから、駄目だって言ってるでしょ!? ちょっとは話を理解しようとしてくださいよぉおぉ!」
毒気を抜かれて――というより、嫌なモノを見てしまったようにアビスは顔を歪める。
「これだから知力ゼロのアホ皇女は……ッ。自分の立場、周囲に与える影響なんてお構いなしに剣を抜きやがって。僕ちゃんですら、最低限勇者教のメンツを気にして自重しているっていうのに。だから顔と体が好みでも、嫌いなんだよ!」
アビスが心底嫌そうに吐き捨てる。
彼の言わんとすることも分かるが、それは『自分ではアリスはコントロールできない』と吐露しているだけじゃないのか?
第一、アリスは知力ゼロだが馬鹿ではない。
ちゃんと理由を説明すれば理解してくれる。
ただし唯一、スキル関係だけは頑なに受け取ろうとしない。
それもオレの身を案じているからこそのためだが……。
「アリス、気持ちは嬉しいがここは押さえてくれ。2人が戦ったら周囲に居る人達や建物、綺麗な噴水なんかにどれだけ被害が出るか分からない。だから、剣はしまってくれ」
「……分かった。賢者シュート様の指示に従う」
オレがこの場で戦って欲しくない理由を説明するとアリスは大人しく剣をアイテムボックスにしまう。
実際、アリスと剣聖が戦ったら、周囲に居る人々や建物にどれだけ被害が出るか分からない。
中央広場の象徴である噴水など見る影もなく破壊しつくされるだろう。
(何よりこのままアリスが剣聖に正面から戦ってもステータス的に勝つのは厳しいからな……)
筋力が互角以外、ステータス数値的にも、スキル数も剣聖アビスの方が上だ。
例えキリリと2人がかりでも勝利は覚束無いだろう。
だから下手に戦って彼女達に怪我をさせたくないため、アリスを抑えた面もある。
アビスは指示に大人しく従うアリスの姿を見て、最初は驚きの表情を浮かべた後、面白くなさそうに顔をしかめた。
彼女が素直にオレの指示を聞いたのが面白くないらしい。
だがすぐに彼の表情は愉悦に歪む。
「さすが『スキル創造』所有者くん。周りに被害が出るから戦いたくないなんて上手い言い訳を思い付く。……なら決闘をしようじゃないか」
「決闘?」
「負けた方が相手の言うことを聞く。この場でやると被害が出るなら場を整えて白黒つけようじゃないか。強者に従うシンプルで分かりやすいだろ? 僕ちゃんが勝ったら部下にしてこき使ってやるよ」
自分の強さに絶大な信頼を寄せる剣聖アビスらしい提案だ。
だが意外と妙案である。
双方納得の決闘なら帝国、勇者教のメンツを潰すことなく、周囲に被害も出さず白黒つけられ、要求を呑ませることができるのだ。
オレは二つ返事で了承する。
「……分かりました。ならオレが勝ったら、二度とオレ達関係者に関わらないでください」
「決まりだ。決闘の日時、場所は両国を通して決めようじゃないか。逃げるなよ、『スキル創造』所有者くん♪」
こうしてオレと剣聖アビスの決闘が決定したのだった。
前書きにも書いた通り、皆様にご好評だったので4つ(4、5、6、7話)を12時、14時、16時、18時に連続でアップします。読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます!
次の6話は16時にアップする予定なので是非チェックして頂けると嬉しいです。