閑話
ダンジョン都市『ノーゼル』からさらに北へ進むと森がある。
この森の奥に真っ白な塔が建っていた。
別名『魔女の塔』だ。
土魔法で作られているため繋ぎ目はなくツルツルとした象牙色の塔で、周囲の木々よりやや越えるぐらいの高さだ。
そんな塔の主で、スキル『大魔術師』を所持するネークア・シローネは1人で出かけていた。
彼女が向かった先は――『魔女の塔』が建つ森の側にある小国、この世界で最北端にあるとされる国、オリーム王国だ。
オリーム王国、国王ワニアが応接間でネークアの相手をする。
「せ、戦争ですか……」
「ええ、そうよ。わたくしの可愛い息子、アビスちゃんを傷つけ、貶めたシュートっていう小僧や帝国、勇者教の一部愚物共を殺さないといけないの。だから指定する日時までに出兵する準備をしておいてね」
この要求にワニアが冷たい汗を流す。
ネークアは魔女のような帽子にマント、大きな胸の谷間が大きく開いたローブを着ていた。
紫色の口紅に顔立ちも整っており、やや垂れてしまっている大きな胸の谷間も合わさって薹が立ってはいるが官能的雰囲気を持つ女性だ。
見た目だけなら剣聖アビスのような息子がいるとは思えない美女である。
そんなネークアがまるで『ちょっと外の雑草を刈り取るから人手を貸して欲しい』という気軽さで、スキル創造者や、アイスバーグ帝国、勇者教(一部)に戦争を仕掛けようとしているのだ。
彼女の様子から冗談ではなく、本気で戦争をしかけようとしているのがありありと伝わってくる。
国王ワニアが流れ出た冷や汗をハンカチで拭う。
オリーム王国は最も北にある国だ。
特産物がある訳でもなく、土地は痩せていて作物も育ちにくい。
はっきり言ってかなり貧しい国だった。
しかしネークアの土魔法の協力によって森の一部を開墾、さらに自分達では手に負えない凶暴な魔物駆除など、他にも多数ネークアから援助、協力を受けている。
故にオリーム王国も彼女に対して便宜を図ってもいた。
代表的なのは、森の奥地に塔を建てたことの黙認や、ネークアが外部から連れてきた凶悪犯罪者について何をしていても口を出したりはしていないことだ。
(だからとはいえ他国に――しかもあのスキル創造者やアイスバーグ帝国、勇者教に戦争をしかけようとなど正気ではない!)
オリーム王国など、アイスバーグ帝国が本気を出したら一蹴されるレベルだ。
まともに戦争など出来るはずがない。
だが、ネークアは既に勝利を確信した表情で告げる。
「ふふふ、安心しなさいな。別にオリーム王国だけで戦争をしかけようとは考えていないから。既に他国、敬虔な勇者教徒達はこちらの支持に回ってくれているわ。そしてスキル『剣聖』を持つアビスちゃん、そして『大魔術師』のわたくしが付いているのよ。勝ち馬に乗せてあげるわ」
ネークアは既に戦争の勝利を確信した表情で席を立つ。
「それじゃ期日までに準備をお願いね。分かっているとは思うけど裏切ったら――」
「ッ!?」
ネークアからは多数の支援を受けている。
さらにスキル『大魔術師』の彼女と敵対したら、戦い勝利する戦力などオリーム王国には無い。一方的に蹂躙されるだけだろう。
最初からワニアには選択肢などないのだ。
ネークアは妖艶に微笑みながら部屋を出て行く。
ワニアは黙ってその背を見送ることしか出来なかった。
☆ ☆ ☆
オリーム王国へのお願い――という名の強制命令を終えたネークアは自身の塔へと戻る。
塔に戻ると、愛しい息子アビスが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりママ! どうだった?」
「もちろん、快く了承を得られたわ。普段から世話をしてあげているから素直に言うことを聞いてくれたわよ」
「さすがママ! 本当に頼りになるよ!」
シュートに決闘で敗北し、心を折られて逃げるように母親ネークアを頼り塔へ身を寄せたアビスも、時間が経過したお陰で敗北のショックも大分緩和されたようだ。
一時期に比べて元気になった愛しい息子を前に、ネークアは満足そうに頷く。
「アビスちゃんが元気になって本当によかったわ」
「全部ママのお陰だよ! もうすぐあのクソったれシュートをぶち殺せると考えただけで元気が出るってもんだよ!」
「そうね。アビスちゃんを傷つけたシュートは確実に殺さないとね。そのためにも人造魔物兵士だけじゃなく、秘密兵器の調整も念入りに頑張らないと」
彼女は両手を握り締め、口の端に笑みを浮かべる。
ちなみに人造魔物兵士とは?
ネークアは『不老不死』研究をしている。協力させている北国のオリーム王国や他国から物資、重犯罪者を譲り受けていたり、奴隷商から奴隷を購入し実験材料として利用していた。
魔石の力で食事を殆ど摂る必要のない魔物達に彼女は注目して、『人間と魔物を合成して魔力を補充すれば生き続けられる生物を創れないか』と考え研究を続けていた。
その結果、誕生したのが人造魔物兵士である。
さらに彼女が言う秘密兵器とは――。
「そろそろ秘密兵器の魔力調整をしておかないとだわ。ごめんなさいアビスちゃん、ちょっとわたくし実験室へ行くわね」
「僕も手伝うよ、ママ!」
親子は揃って塔の地下にある実験室へと向かう。
階段を下りきると、特殊鉄格子が並ぶ。
その特殊鉄格子の先に人造魔物兵士達が『グゥうァぁぁあゥウゥ……』と呻き声を漏らしている。
2人はその鉄格子を越えてさらに奥へと進む。
その奥に対シュート用の秘密兵器が同じく特殊鉄格子の先に横たわっている。
細い手足、小さい背丈……どう見てもまだ幼い子供だった。
「たすけて、おかあさん、おとうさん……」
子供達は冷たい地面に横たわったり、壁際に身を寄せ合って助けを求める。
ネークアはそんな子供達に向けて大魔術師の杖『ヨルムンガンド』を向けた。
「魔力調整に遅れてごめんなさいね。時間を取り戻すためにも作業を頑張らないと。アビスちゃんを傷つけたシュートをぶち殺すためにもね」
ネークアは『子供』ではなく、自身の開発した兵器をより万全に、洗練させるため大魔術師の杖『ヨルムンガンド』に魔力を注ぎ、子供達の魔力を調整。
さらに兵器としての質を高める努力を開始する。
地下実験室に子供の悲鳴が響く。
なのにネークア、アビスとも愉快そうに笑みすら浮かべていた。
対シュートの秘密兵器が完成していくさまを心底楽しげに眺めていたのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
久しぶりの閑話で剣聖&大魔導師の登場です!
うーん、相変わらず外道。
さて以前短編で『信じていた仲間達にダンジョン奥地で殺されかけたがギフト『無限ガチャ』でレベル9999の仲間達を手に入れて元パーティーメンバーと世界に復讐&『ざまぁ』します!』という作品を書かせて頂きました。
お陰様でなんとか連載版の準備が整いそうです。
予定では今月の4月17日金曜日、お昼(12時)には連載版をアップ出来るかと思います!
また短編版無限ガチャの感想返答を書かせて頂きましたので、そちちも是非、活動報告でご確認頂ければと思います。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




