35話 番外編 レムの1日 後編
ダンジョンでLV上げを終えると、レム達はダンジョン都市『ノーゼル』冒険者ギルドへ精算をしに向かう。
レム達全員が『アイテムボックス』を持っているが、基本的にシュートのアイテムボックスに入れて運び込んでいる。
裏手倉庫に倒した魔物を預けると、ギルド建物内部に入って精算を待つ。
レム達が内部に入ると、冒険者達の反応は大凡2つに分かれる。
「レムちゃんだ。今日も可愛いわねぇ」
「わぁ! 手を振り返してくれた、可愛いぃっ」
「わたし、この前、レムちゃんにお菓子をあげることが出来たんだ。『ありがとう』って可愛い声でお礼を言われて。もうぅ、わたしもああいう可愛い娘が欲しいな」
「げぇ!? す、スキルマスター!?」
「馬鹿! 刺激するな! 『尊厳』を解放されるだろ!」
「じ、自分は何も言っていないぞ! こいつらが勝手に騒いでいるだけで……」
「オマエ狡いぞ! 1人だけ助かろうとするんじゃねぇ!」
レムの可愛い姿にメロメロな女性冒険者達。
ダンジョン入場初日、威圧して周囲の『尊厳』を解放させてしまったシュートに怯える冒険者。
大凡この2つに分かれる。
冒険者ギルドに来るとシュートは黙って1人、建物の端に行ってジッとしていた。
精算が終わるまで、1人隅で待っているのだ。
そんな寂しそうなシュートの側にレムは行きたくて、抱き上げられたアリスの腕でじたばた暴れ出す。
「レム、ぱぱのところいく」
「駄目ですよ、レム様。わがままを言っては、大人しくしててください」
「……ちょ、ちょっとぐらいなら行かせてもいい気がする」
「姫様が甘やかせてどうするんですか。駄目なのは駄目です。2人とも大人しく精算を待っていてください」
キリリが溜息を漏らし、教育ママよろしく2人に釘を刺した。
別にキリリもシュートを虐めている訳ではない。
冒険者ギルドにシュートが1人でいても問題ないという姿を見せることで、『尊厳解放事件はもう起こらない』と冒険者に暗に伝えるのが狙いだ。
この案はシュート本人から出された。
お陰で最初は怖々と遠巻きだったが、今は距離が近づいても問題ない。
時折『尊厳を解放される云々』と言って仲間に窘められる冒険者がいる程度で済んでいるのだ。
一時はシュートだけではなく、アリス達側も怖がられていたが――シュートのこの対策のお陰でそんな雰囲気は消えていった。
そんなアリス達の立場を慮って行動しているシュートの配慮が、彼女達が側に行ったら台無しになる。
だからこそ、キリリは2人に釘を刺したのだ。
「レム、ぱぱのそばにいきたいの。おねがい」
「……うぅぅ、キリリ」
「幼子を導く立場の姫様がほだされてどうするんですか。レム様も一番攻略し易そうな姫様を狙ってお願いするのは辞めてください。まったくどこでこういう悪巧みを覚えてくるのやら……」
レムは一番お願いを聞いてくれるアリスに対して、抱っこされた状態で可愛らしくお願いする。
その姿にほだされたアリスは、許可を出しそうになりクラクラしてしまう。
キリリはレムのことになると甘くなる自身の主に、頭を痛め。またある意味で成長したレムに溜息を漏らす。
冒険者ギルドに来るとだいたいこのようなやりとりをする。
この時だけは、レムが見た目相応の子供のような我が儘を言う。ある意味、貴重な光景と言えなくもなかった。
冒険者ギルドで精算を終えると、宿泊している領主館へと帰宅する。
帰宅するとすぐさま湯浴みで汚れを落とす。
さっぱりした所で、私服に着替えて休んでいるとちょうど夕飯の時間になるのだ。
館の主であるミーリスと食堂で合流後、一緒に夕飯を摂る。
彼女の魔物研究が忙しいと食事後すぐに研究室に戻るが、余裕がある時は暫く一緒にお茶会を開き団欒を楽しむ。
今回は余裕があるのか、ミーリスが合流しアリスとレムが私室として使用している客室リビングで女子だけのお茶会が開かれる。
ミーリスとは殆ど接触する機会は無いが、今回のようにお茶会などを開くとアリスに負けないほど甘く、レムを可愛がっていた。
まるでミーリス自身の本当の妹か、姪っ子を可愛がるが如くだ。
「オーガを1人で、しかもナイフで倒すとか! レムちゃんは凄いな!」
「ぱぱがつくってくれたぶきがすごい」
「……レム、謙遜は不要。賢者シュート様の作り出した装備も凄いけど、使いこなしているのはレムだから」
ソファーの一つにミーリス、レムが並んで座る。
テーブルを挟んだ反対側ソファーにアリス、キリリが座ってお茶を楽しんでいた。
今回はあくまでプライベートの茶会のため、本来従者であるキリリも同席を許されている。
ミーリスからすれば、キリリも幼い頃から知る妹の友人、実質もう1人の妹のようなモノだ。公式の場ではともかく、プライベートぐらい一緒にお茶を楽しみたいため同席を許していた。
ミーリスは隣に座るレムを愛おしげに抱きしめ、頭を撫でる。
「レムちゃんは可愛いのに強くて、頭も良いな! やっぱりあたいの妹、いや娘にならないか? 最高の教育環境を用意するぞ?」
「……愚姉、魔物の研究をし過ぎて頭の中身まで魔物と一緒になったの? レムはうちの娘、愚姉のモノにならないのは考えれば分かること」
「愚妹、オマエこそ魔物とのバトルだけで頭の中が魔物と一緒になったんじゃないか? レムちゃんの将来を考えたら、あたいに預けるのが一番って分かるだろ?」
「はいはい、姉妹同士の会話が楽しいのは分かりますが、レム様の前で教育に悪いやりとりは止めてくださいね」
喧嘩腰の声音だが、実際は互いに姉妹としてじゃれ合っているに過ぎない。
ただレムがいない場合、もっと過激なやりとりをするため、キリリが事前に釘を刺したのだ。
レムとしては殺気、怒気も混じっていないため2人が一見刺々しい会話をしても気にしない。
むしろミーリスに対しては、シュート達が心を許しているため気にせず甘えるほどだ。
「んんぅ……」
「おっ、どうしたレムちゃん、あたいに鼻を擦りつけて眠くなったのか?」
「……? まだ眠るには早い時間だけど、オーガとの連戦で疲れたの?」
レムとしてはミーリスの匂いを嗅いでいただけだ。
彼女的にミーリスの体臭はシュート達とは違って薬品と甘い匂いが混じった今まで嗅いだ事がない不思議な匂いがして楽しかった。
なのでミーリスに抱きしめられ匂いを嗅ぐのがレム的にはちょっとした楽しみだったりする。
しかし、アリス達が眠くなったと勘違いしたらしく、早々に茶会を切り上げる。
「レム様、着替えましょうね」
「レム、まだねむくない」
「……今日は頑張ったから、レムが気付いていないだけで体が疲れている。だから今日はもう寝よう。ねぇ?」
激しく動き続ければ関節等が自己修復範囲を超え摩耗してしまう――それを疲労と捕らえることが出来なくもない。
実際は『疲労』という概念は元ゴーレムのレムには存在しなかった。
しかし、寝る流れは止められず、イソイソとキリリによって眠る仕度が調っていく。
レムもこれ以上、拒絶は無意味と考えて素直に受け入れた。
準備が整うと、ベッドへと寝かされる。
「……先に寝ててまま――お姉ちゃんはもう少ししたら寝るから」
「やー」
返事をすると扉が閉まる。
部屋は一瞬で暗闇となり、耳を澄ませば扉越しにアリス達の微かな会話が聞こえてきた。
レムはそちらに耳を傾けるのを辞めると、素直に瞼を閉じる。
彼女の意識が落ちる。
シュート曰く『スリープモードのようなものか』と呟いていたが、レム本人もなぜ自分の意識が落ちるのかは理解できない。
だが、こうして着替えてベッドに横になり、目を閉じると1日が終わるのを理解していた。
こうしてレムの1日が今日も終わるのだった。
スキルマスターを読んでくださってありがとうございます!
レム編無事に終了!
これでダンジョン編は終わりです!
次は間話を挟んで新しい章へと移行します。
次の間話では皆様が大好きな剣聖&大魔導師が登場します!
なので是非お楽しみに!
では最後に――【明鏡からのお願い】
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